OCA TOKYO BLOOMING TALKS 004

アートの真価と可能性

Released on 2021.07.12

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

OCA TOKYOに数多く展示されているアート監修の中心人物は、自らが現代美術家であり、京都芸術大学教授の椿昇さん。アート界の第一線で活躍する椿さんは、この場所にアートをどう存在させ、どんな意味をもたらそうとしたのか。展開されたアート論は、まるでいくつもの人生訓を聞いているかのような、趣深い考察やユニークな発想に満ちたものでした。

丁重にお断りしました。

── 最初にOCA TOKYOのプロジェクトを聞いたときの印象はいかがでしたか? 兼ねてから信頼しているアートコレクターであり、ご自身の会社としてもOCA TOKYOのプロジェクトに参画されている株式会社TPOのマニヤン麻里子さんから、OCA TOKYOに設置するアート作品の監修を一緒に手伝ってほしいとご連絡をいただいたのが最初です。後日、三菱地所の方と一緒にまだ構想段階の内装やインテリアを見せていただきましたが、即お断りしましたね。そこには、いかにも昔のお金持ちが好きそうな華美な世界が広がっており、今の時代に相応しいカッコよさがまったく感じられませんでした。ですから、第一印象は最悪でしたね…(笑)。

── そこからどのような経緯で、引き受けることになるのですか? すっかり忘れていた頃に「もう一度会ってもらえないか」と再度連絡があったんです。そこで提示された内装デザインは印象がガラッと変わっていて、このプロジェクトにかける本気度が伝わってきました。「これは世の中が変わるぞ」と感じましたね。そして、今度は僕から「本気でやらせていただきます」とお返事をしました。日本国内の多様な作家を社会に紹介するというコンセプトをその場で一緒に決めました。

── 東京・丸の内という場所には、どんな印象を持っていますか? 東京という都市は、実はすごく閉じたエリアだと僕は考えています。その理由は、渋谷、六本木、恵比寿など、それぞれの存在感が肥大化しているからです。例えば、渋谷であれば、渋谷という1つのエリアだけでだいたいの事が足りますよね。そういった閉じ方です。ただ、丸の内は閉じていません。東京駅というハブの存在が大きく、全国から人が集まります。そんな場所にアートが介在できることは幸せなことですし、まるでヴェネツィア・ビエンナーレのようなインパクトを感じます。

── アートにとって「場所」は、とても重要なファクターなのですね。 その通りです。ただ残念ながら、日本はこれまで立地や交通網に合わせて文化を発展させていくような思想がありませんでした。多くの日本人にとって、アートはただのインテリアでしかないのです。僕は、アートは世界とつながる窓口だと考えているので、その意味でも丸の内は最適な場所だと思います。

── アートにとって「場所」は、とても重要なファクターなのですね。 その通りです。ただ残念ながら、日本はこれまで立地や交通網に合わせて文化を発展させていくような思想がありませんでした。多くの日本人にとって、アートはただのインテリアでしかないのです。僕は、アートは世界とつながる窓口だと考えているので、その意味でも丸の内は最適な場所だと思います。

今の時代の「カッコイイ」がある。

── 館内に展示するアートの選考基準は何ですか? 大きくは2つあります。1つ目は、アーティストを、先生と呼ばれるような大御所と学生をはじめとする若手に二極化させている点です。特に若手側からすれば、先生と同じステージに立つことで自己効力感が高まりますし、自分の進む道に希望が感じられると思います。2つ目は、時代に合った「カッコイイ」作品であることです。
「カッコイイ」という言葉は、決して軽いものではないと僕は思っています。様々な人生経験をベースとした思考や感情を経て、ようやく雫のように落ちてくる言葉であり、嘘のない感性なのです。また「カッコイイ」は時代性を纏います。例えば今のエグゼクティブの腕時計は、高級ブランド時計ではなく、スマートウォッチ。「高価=カッコイイ」は、古い尺度であり今っぽくない。だから、ある意味ここにあるアートは「今、カッコイイかどうか?」という尺度で生き残った作品とも言えますね。

── 階段の吹き抜けに展示された椿さんの作品は、どのような意図で作られたのでしょうか? この場所に展示すべきアートは、強烈な個として目立つものではなく、エレガントでなければならないと考えました。空間と調和しながら、それでも静かにはっきりとアートが語りかけてくる。そんな“絶妙な違和感”を狙った作品です。

── この作品に施した仕掛けについても教えてください。 数本のワイヤーでシナプスのように連なったカラフルなオブジェは、世界各地にある遺跡のタイポロジーになっています。よく見るとそれぞれにURLが記載されていて、それをネット検索するとGoogle earthで実際の遺跡が閲覧できるようになっています。将来的には、もっと容易に検索できるハンドブックを準備する予定です。丸の内から世界の遺跡を巡り、自分だけのマップを手にする。そんな知的冒険を愉しんでいただきたいですね。

── この作品には、あえて日本の遺跡がないとお聞きしています。 日本には、紙、土、木など、常に自然に還っていくものと暮らしてきた文化があります。様々な構造物も含めて、いつかは森の中にきれいに消えていくのです。例えば、伊勢神宮も然り。式年遷宮で役目を終えた木材は、全国の神社で再利用されます。そうして、形は残らずとも文化を継承している歴史こそが日本の特徴であり、強みなのです。逆説的ではありますが、この作品に存在しないことで、日本文化の柔軟性やサステナビリティといった凄みを伝えているのです。さらに言えば、西洋をただ追従して大きなコンクリートの構造物を増やすのではなく、もともと持っている素晴らしい文化を見つめ直す必要が、今の日本にはある気がしています。

農家さんから野菜を買うように。

── 椿さんが近年掲げられている「直接と信頼」という言葉の真意を聞かせてください。 これは、アート界はもちろんのこと、これからの世界を組み立てていく言葉だろうと僕は考えています。まず「直接」に関しては、僕がARTISTS' FAIR KYOTOでやっていることがわかりやすい。学生自らがお客さんの前に立ち、自作のアートをプレゼンし販売するこの手法は、市場で農家さんから「直接」野菜を買うのと同じ原理です。ビニールなどでパック詰めされた野菜を買うよりも、生産者の話を聞いて買うほうが、新鮮だし美味しく感じますよね。また、それが習慣化すれば、今度は農家さんとの間に「信頼」が生まれ、関係性が持続します。

── アーティストの話を直接聞くと、そのアートの印象も変わりそうですね。 おっしゃる通りです。例えば、OCA TOKYOにも作品を展示している学生の太田桃香さんは、作品だけ見ると大胆でパワフルな抽象画ですが、実際に会ってみると非常に小柄な女性です。そのギャップに誰もが驚くことでしょう。さらに付け足すと、彼女の場合、汚い色をうまく合わせるという特殊な能力に秀でていて、作品のタイトルや見る向きすらも後から決めるそうです。ちょっと変でしょ(笑)。このように発想の突き抜けたアーティストの人柄や創作過程を知ることも、現代アートの愉しみ方なのです。(写真はともに太田さんの作品)

── 近年、アートバブルと言われていますが、アートのあるべき姿をどうお考えですか? 最近の経済誌などで、投機や投資の対象として注目されていますが、それは不健全であり本質的にも間違っています。アートは本来、一人ひとりの心に作用するもの。お金がついて回るのは必要なことですが、結果としての価値でしかないと思っています。とは言え、アーティストとしてご飯が食べられなければ意味がありません。ここで考えなければならないのは、もっと日常的にアートを売り買いする文化を根付かせるということです。海外の美術館は積極的にアートを購入しますし、アートを売買する場所として認知されています。日本の美術館は、なぜかアートを所有しないのが主流。つまり、ただの展示用「市民ホール」と化しているのです。これでは鑑賞する側にも「アートを買う」という発想が出るはずがない。そんな日本のアート界の現状を打ち破るために、アーティストの創作活動と生活の両輪を支えられるエコシステムを構築し、アートを愛する人たちの健全な文化を広めようと動いているところです。

日本文化を変える、起点になれたら。

── アートの監修者として、OCA TOKYOにどのようなことを期待しますか? ここはプライベートクラブなので、メンバーの皆さんにはできるだけ「個人」として利用してもらいたいですね。そのため、名刺を出す習慣はNGにしてほしいと、ここに提言しておきます。様々な本が読めて、いくつものアートが展示されていて、気に入ればそれが買える。まるで自分のリビングのように寛げる空間ですから。例えば、アートを介して話が弾み、ホームパーティーに招き合う仲になる。そこで初めて「そんな人だったのか」と、その人の仕事を知ることになる。そんな出会い方がひとつの理想ですね。

── 最後にOCA TOKYOが担う役割についてお考えを聞かせてください。 僕の考えるOCA TOKYOの一番のミッションは、日本文化を変えることだと思います。壮大に聞こえるかもしれませんが、おそらく簡単に変わります。現時点でその成功モデルがないというだけ。OCA TOKYOが最初のモデルになればいいのです。何よりもこの僕が、ずっと成功モデルに頼らずチャレンジしてきた人間です。なので、今回もOCA TOKYO、そしてここにある現代アートを起点に、日本を変えたいと思っています。こっそりとね。

椿 昇

現代美術家/京都芸術大学教授

京都市立芸術大学美術専攻科修了。1989年にタイトルを自ら命名したアメリカでの展覧会「アゲインスト・ネイチャー」への参加など、世界を舞台に活躍。2018年からは「ARTISTS’ FAIR KYOTO」をディレクターとして企画・実行。まったく新しいスタイルのアートフェアとして注目を集めている。

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