OCA TOKYO BLOOMING TALKS 005

アート界に新たな生態系を

Released on 2021.07.12

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

金融とアート。真逆のような2つの世界。しかし、OCA TOKYOメンバーであるY-Labs(以下:ワイラボ)の山本誠一郎さんに話を聞くと、この2つはとても近しい関係にあると感じました。国際金融マンとして長らくご活躍されてきた山本さんが、なぜ今、若手アーティストの支援なのか。物腰の柔らかな受け答えのなかには、力強い信念が隠れていました。

金融の世界にない、手ざわり感。

── アートにはもともと興味があったのでしょうか? 小学生の頃、絵が上手く描けないことがコンプレックスでした。絵が上手な人は、それだけでリスペクトの対象になる。それが、私のアートに関する原体験です。金融の仕事を始めてからは、8年ほどニューヨークで過ごす機会があったのですが、勤務先がMoMAの斜め前だったのです。当時のCEOは著名な現代アートコレクターで、その奥様はなんとMoMAの理事。そのため、社員はいつでも無料で入館できたのです。MoMAのカフェにふらっと立ち寄るのが日常だったなんて、すごく恵まれた環境でしたね。また、周辺にはグッゲンハイム美術館、フリック・コレクションなどもあり、アートはもちろんアートに関心のある人との距離が非常に近く、私自身も自然とアートを意識するようになっていきました。

── アーティスト支援を始めるまでの経緯を教えてください。 金融の世界に約34年間身を投じてきて、もっと社会との接点を実感できることに興味が向いていきました。もちろん、金融は「社会の血液」とも例えられるほど非常に大切な仕事ですが、「手ざわり感」がなかった。それに比べて、アート作品やアーティストとの接点は、感動や刺激をダイレクトに与えてくれます。加えて、私はこれまで自分の能力以上のキャリアを積ませていただいた感覚が強く、今はその恩返しとして「どう社会に還元するか」に関心を寄せています。だからこそ、次世代支援を標榜するワイラボを立ち上げ、その事業のひとつとしてアーティスト支援にたどり着きました。

── 金融とアートは、右脳と左脳くらいかけ離れた存在のようにも思います。 確かにそうかもしれませんね。ただ不思議なことに、ニューヨークの金融マンはなぜか現代アートに行き着く人が多いのです。私が尊敬する元上司もそのひとりでした。知識と教養の塊のような人で、アートへの造詣も深く、自らもアーティストとして創作活動を行なっていました。それを1冊の作品集にまとめるほどの熱の入れようです。なぜそこまでアートに惹かれるのか理由は未だにわかりませんが、仮説のひとつとして「成功者の孤独」が挙げられます。周囲がイエスマンばかりになり、本当の意味で対話できる人が少なくなる。だからこそ、アートを通じて「対話」するのではないかと。

── 投資家として見た日本のアート界はどのように映るのでしょうか? 現代アートのマーケットは世界で7兆円ほどのフローがあります。そのうち日本は1%未満。GDP比から考えれば7~8%あっても不思議ではありません。そのあたりに伸びしろがあると思いますし、アプローチ次第で大きく成長すると感じています。

自分はなんてちっぽけなんだろう。

── OCA TOKYOにも、山本さんが支援するアーティストの作品がいくつか展示されています。作品や作者とのふれあいから得た気づきや発見はありますか? もう、気づきだらけです。作品からも作者からも、たくさんの刺激をもらっています。例えば、ここに飾られた香月美菜さんの作品、第一印象どう思われますか?

── コップの中の水の世界のような…。あとは、絵の具がとても厚く残っていて奥行きのあるメッセージを感じます。 いいですね。特に香月さんの作品は正解がなく、意味合いなども見る人に委ねられています。本人と話す機会があったときに印象的だったのは、彼女が500年先の世界と自分の作品について話してくれたこと。「きっと富士山が噴火して東京がなくなっていたとしても、火山灰を掘り起こすと私の作品が見つかって…」と、そんな架空の話を真剣にするわけです。発想も面白いし、スケールも大きい。私の場合、せいぜい20年先の生活くらいしか考えていませんから、自分はなんてちっぽけなんだろうと思い知らされましたね。

── 別の場所にある、前田紗希さんの作品も惹きつけるものがありますね。 彼女の作品には、強い哲学を感じます。デカルトの心身二元論のような、あるいは理性と感性といった人間の二面性のようなものが、三角形のモチーフによって表現されています。間近で見ると、作品は何層にも複雑に組み合わせて描かれていて、単純明快な二元論に対するアンチテーゼとも解釈できる……。そんな深い考察を自由に愉しめるのも、アートの魅力のひとつですね。

── 別の場所にある、前田紗希さんの作品も惹きつけるものがありますね。 彼女の作品には、強い哲学を感じます。デカルトの心身二元論のような、あるいは理性と感性といった人間の二面性のようなものが、三角形のモチーフによって表現されています。間近で見ると、作品は何層にも複雑に組み合わせて描かれていて、単純明快な二元論に対するアンチテーゼとも解釈できる……。そんな深い考察を自由に愉しめるのも、アートの魅力のひとつですね。

海外のスタンダードを、京都の町家で。

── ワイラボが目指す、アートの未来について教えてください。 ワイラボの“Y”は、私の名前ではなく「大和魂」を表しています。日本から世界に進出する人を応援したい。様々な人と“ワイワイ”楽しく活動したい。そんな想いを込めています。目指しているのは、若い世代のアーティスト、アスリート、起業家らの成長を促せる生態系の構築です。

── ともに事業を進めている、現代美術家の椿昇さんについても教えていただけますか? 椿さんとの出会いは、本当に衝撃でした。放送作家であり、椿さんと同じく京都芸術大学の教授でもある小山薫堂さんからのご紹介だったのですが、こんな方が地球上にいるのかと思いましたね。哲学があって、知識が豊富で、何よりアートとアーティストへの愛が深い方でした。

── どのようなカタチで生態系をつくるのでしょうか? 椿さんは、アートに関する様々な仕掛けを展開していますが、生態系の一例を挙げると、アーティストを育むためのプラットフォームの構築です。そのひとつが「Artist-in-Residence賀茂なす」という場所。京都の古い町家をワイラボの資本で改築し、滞在・製作・展示ができる場としてアーティストに提供しています。滞在費や製作に関わる一部諸経費はワイラボが負担します。日本ではアーティスト側がすべてを負担するイメージがありますが、海外ではその逆がスタンダード。アーティストをリスペクトし、創作活動に集中できる環境を提供することで、その人の成長を促し、可能性を引き出す。これこそ、私たちが目指す生態系です。

誰かのエネルギーになりたい。

── ご自身が考える「投資の本質」とは何か教えてください。 投資とは「将来を築く行為」です。自分の事業における投資とは、アート界の生態系をつくるための「エネルギー」だと考えています。そのうえで、これは私の性格でもありますが、投資家は黒子に徹することが大切とも思っています。基本的に投資家は価値創造の主体とはなりえません。それができる人、企業、国をつなげてサポートする。それが役割のような気がします。肩書きをつけるなら「絆プロデューサー」ですね。

── 精力的に活動されている、その原動力はどこにあるのでしょうか? もともとサプライズを仕掛けて人を喜ばせたり、感動させたりするのが大好きな性格なので、それが投資という行為に合っているのだと思います。投資とは、人を喜ばせるものであり、結局、投資をしている自分が一番楽しいので続いているのかもしれません。

── OCA TOKYOという場所にはどのような魅力があると思いますか? ワイラボでは「ビジョン、ご縁、ワクワク」を大切にしているのですが、OCA TOKYOにはこの3つが全部ある。そこに強く共感しました。OCA TOKYOは、個人のコンフォートゾーンよりも少し外の世界、つまりラーニングゾーンの宝庫です。このゾーンが広がりすぎるとパニックゾーンになってしまうのですが、OCA TOKYOの仕掛けは絶妙だと思います。現代アートも効果的に配置されていて、しかもそれらのアートを応援する仕掛けづくりも考えています。業界や世代を超えた多様なメンバーとの出会いも刺激的ですし、アーティストとの交流もできる。おそらくこの場所にしかない出会いやつながりによって、新たな生態系が生まれると感じています。

── 今後OCA TOKYOに期待することを教えてください。 前例にないことを推し進めてほしいですし、新しい発見や広がりを生み出す、様々な学びの仕掛けに期待しています。私は本屋に行くとついつい同じコーナーに向かってしまいます。これでは発見は少ないですよね。OCA TOKYOには、そんな私をどんどん違う世界に導いていただきたい。事実、すでにここで知り合ったメンバーと新たな「ご縁」ができ、新しい「ビジョン」に基づくプロジェクトが動き始めています。これからも、一緒に「ワクワク」できる機会が増えていったら嬉しいですね。

山本 誠一郎

Y-Labs株式会社

1985年に大学を卒業後、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)、米アライアンス・バーンスタイン社(のちに日本法人のCEO、会長、本社パートナーを歴任)と、金融業界の第一線で活躍。2019年にY-Labs株式会社を設立し代表取締役に。次世代支援に力を入れている。

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