OCA TOKYO BLOOMING TALKS 006

これからの、おもてなし

Released on 2021.08.02

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

コラムニストであり美食評論家のOCA TOKYOメンバーの中村孝則さんと、同じくOCA TOKYOメンバーで中国料理研究家であり華都飯店の馬衣真さんによるトークセッション。
テーマは「これからの、おもてなし」について。OCA TOKYOの4階にある和室で、和やかに会話が弾んでいきました。

中村さんと前回お会いしたときはスーツを素敵に着こなしていらっしゃいましたが、お着物もとてもお似合いになりますね。

今日は来春開業する「OCA TOKYO」内の和室見学も兼ねて来たので、和装がいいかなと思いまして。

中村さんがいらっしゃると、この場所がなんだか歌舞伎役者の楽屋みたいに映りますね。

いやいやそんな(笑)。どうぞ楽にしてください。

―― 面識がある二人のトークは自然とスタートしました。そして目の前には、本日のテーマにまつわる「お題」が隠された5枚のカードが並んでいます。今回は、こちらを1枚ずつめくりながらお話しをしていただきました。

NOBU TOKYOで学んだこと。

まずは1枚目。“記憶に残るお客様”。

これは馬さんですね。そもそも、飲食の道に進まれたきっかけは何だったのですか?

私は大学卒業後、映画会社に就職しましたが、俳優ロバート・デニーロにインタビューする機会がありました。デニーロは映画のプロモーションとともに、彼が出資しているレストランNOBUの日本進出を検討するために来日しており、このインタビューのご縁で、NOBU TOKYOの立ち上げをお手伝いさせていただくことになったのが飲食キャリアのスタートです。

なるほど。NOBU TOKYOにいた頃は、きっといろいろなお客様がお見えになったのではないですか?

たしかに、お客様は各界の著名人、ハリウッドスターや歌手など錚々たる方々がNOBU TOKYOに集まってきました。

毎日がとても刺激的だったでしょうね。

そうですね。でも、そのなかでいちばん刺激を受けたのは、世界の名立たるセレブではなく、オーナーシェフの松久信幸さんとお仕事ができたことです。松久さんは、レセプション、サービスマン、調理スタッフ、PR担当者など、レストランに関わるすべてのメンバーに対して、いつも「レストランはハートだよ」と仰っていて、1日に3回も4回も聞いた記憶があります。

それはすごく日本人らしい感覚ですね。

実際、ロサンゼルスにある本店「Matsuhisa」では、最高級のワインを売るソムリエからバレーパーキングでお車を預かるおじさんに至るまで、そのハートが行き届いていたと思います。おもてなしというのは、自分だけではなくチームワークで届けるもの。そのためにリーダーがやるべき振る舞いを肌で感じられたことは、すごく勉強になりました。

おもてなしの基本であり、人間関係の本質のようにも感じますね。

お客様って、神様ですか…?

“お客様って、神様ですか…?”これは、ちょっと困った質問ですね(笑)。

この質問で思い浮かんだのは、フランスにある“ソワニエ”という言葉です。日本語に直訳すると“最重要顧客”という意味で、フレンチレストランに行くと「ソワニエが来たよ」という風に使われるのですが、これが、単にお金を持っているとか、有名であるとか、常連であるというのとは若干ニュアンスが違うのです。

何をもってソワニエかという基準が、お店ごとに違うのですね。おそらくレストラン側にとっても何かしら刺激を受けたり、また来てほしいと思えたりするお客様のことなのでしょうね。

まさにそうなんです。その一方で「ソワニエになりたい」、「どうすればソワニエになれるのか」と必死になる人たちもいます。要するに、特別扱いをされたいということですよね。その気持ちもわからない訳ではないのですが…。

それって、レストラン側としても思うところがあって、特に東京はレストランの選択肢が多い分、実はソワニエになること以上に、お店がソワニエを選ぶことの方が難しい時代になってきている気がしています。

(しみじみと頷く)お客様もレストランも、感じ方や求めているものが違う。何をもって良いお客様か、何をもって良いお店かという基準も多様化している。だからこそレストランは、もてなす側として表現できる個性とか価値観を持つことが大事かもしれないですね。

お客様も何だか大変そうに見えることがあります。例えば、お寿司屋さんに行くとこのネタはどこ産でどうのこうのと語る方がいるじゃないですか。

はいはい(笑)。

築地の魚河岸さんかなと思うくらい、お客様がものすごく勉強していてびっくりしますね。

でもね、馬さん。意外とわかっていないですよ。親しいお寿司屋さんから聞いた話ですが、ネタの話題になったときに、今はこの魚が旬だとか、どこの港で獲れたとかでは収まらなくて、獲れた魚のkg数まで聞く人がいるみたいです。一応、答えるらしいのですが、「魚の個体と㎏数と味わいは、必ずしも関係ない」と大将自身は仰ってました。

思わずツッコミたくなる話ですね。でも本来、お寿司屋さんに行くからと言って、いろいろと知っておかないといけないというのは、違うのではと思っています。

それは僕も同じ意見です。知識を詰め込み過ぎてしまうと、情報を食べているようになってしまうでしょう。

それに、レストランで体験できる楽しみを事前に削いでしまっている感じもしますよね。先程のお寿司屋さんのお客様も、きっと礼儀正しくて勉強熱心だと思うのですが、楽しめているかどうかは疑問です。良し悪しは別にして、海外のお客様はもっと心からレストランを楽しもうとしている。「せっかく来たのだからエンジョイしよう!」という方が多いように感じます。

楽しめる場所。分かち合える場所。

エンジョイというのはまさに大切なキーワードです。僕は世界ベストレストラン50とアジアベストレストラン50というアワードの日本評議委員長を任されていて、毎年、数十名の国内の審査員を指名しています。審査基準は個々の裁量に任せており、海外の審査員も含めた投票でランキングを決めるのですが、その結果、上位のレストランは「楽しいかどうか」という基準で選ばれている気がします。一般的に日本に住む人は、レストランを味で評価する傾向が強いですが、このアワードではレストランが提供するおもてなしを、お客様が分かち合えるかという視点も重要視しており、世界的な基準でいくと、レストランは“楽しめる場所”というのが本質のような気がしています。

たしかに一緒に行った仲間と料理を囲んで、シェフやスタッフとどれだけ楽しい時間を過ごせるかということはすごく大事ですよね。高級ワインを好きでもない人から「どうぞ」と言われても素直に喜べないですし、思い出として残らないですから。決して高価なワインでなくても愉快な仲間たちと飲んだら、とても素敵な思い出になるし将来また飲みたくなる味になりますよね。

そう考えると、人が集う場所に“楽しさ”は不可欠です。ここOCA TOKYOにもそのような雰囲気が醸成されることを期待したいですね。

チビタベッキアの思い出。

―― 次にめくったカードは「思い出に残るおもてなし」

中村さんのおもてなしの話も伺ってみたいです。

パッと思い浮かぶのは、2011年にテレビ番組のロケで地中海クルーズをしたことです。1週間ほどの船旅で、最後にローマにあるチビタベッキアという港湾都市に着いたのですが、実はそのチビタベッキア市は、宮城県石巻市の姉妹都市でもあり、伊達政宗の家来だった支倉常長が親書を持って遣欧したときから交流があったそうです。港には支倉常長の石碑もありました。東日本大震災直後に訪れたのですが、チビタベッキア市長が石巻へ向けたお見舞いのメッセージと贈り物をわざわざ届けに来てくださりました。僕は着物と茶道具を持参していたのでお返しとして船上でお茶会を開いておもてなしをしました。

それは素敵ですね! 茶箱をわざわざ持って行かれていたのですか?

そうです、茶箱はいつも旅に持って行きます。

あの茶箱こそ、日本の合理性とおもてなしが一つになったものですよね。

仰る通りです。お茶会を開いたことがきっかけで、なぜ支倉常長はローマに行ったのか、伊達政宗の狙いとは何か、当時のキリスト教についてなど、文化的なことを含めていろいろな話をチビタベッキア市長をはじめとする皆さんとさせていただくことができました。

これからの、おもてなし。

今はもちろん、withコロナであるとか、SDGsみたいな話、価値観の多様性なども考えるべき要素ではあると思うのですが、それでもやっぱり物事の本質を知ることが大切なことだと思います。どれだけ生活様式や価値観が変わっても本質を突き詰めないと、本当のおもてなしにはならないと思います。

きっと本物に触れる機会を増やすことで、自分の感性を豊かにすることも大切な気がしています。自分へのおもてなしと言えばいいでしょうか。まずは自分自身が心豊かになることで相手にもおもてなしや気遣いができると思いますね。OCA TOKYOは、中村さんをはじめとして各分野の第一線でご活躍されている方々に出会える場所なので、メンバーはここに来ることで様々な刺激を受けられると思います。

―― 最後にOCA TOKYOでも提供されるスイーツを食べながら、OCA TOKYOができることの期待について話していただきました。

丸の内に対するもともとのイメージは、月曜日から金曜日まではエグゼクティブがスーツをビシッと着てバリバリ働く大人の街といった感じで、個人的には縁遠い場所でしたが、最近は週末に行くと多くの人が来街するようになりましたよね。丸の内は銀座よりも街が計画的に整備されていて洗練されたエリアという印象があります。そんな場所にこれからの未来を創造するプライベートクラブが誕生することは、すごくワクワクする試みだと思います。これまで丸の内が歩んできた歴史を継承しながら、OCA TOKYO独自のスタイルが築いていけると面白いと思います。

もともと江戸城や屋敷が立ち並んでいたので格式が高くて正統性を感じる場所だと思います。ですが、お城の中ではきっと文化的な遊びがたくさん繰り広げられていたはずです。信長や秀吉だって、歴史に残る合戦をやりながらも、その合間を縫ってお能をやり、歌を詠み、お茶会をやり、散々遊んでいたわけです。僕は、丸の内がビジネスの拠点であっても、OCA TOKYOは文化の拠点としてあり続けることが大切だと思います。レストランバー、和室など様々な文化がここ丸の内で根ざしていけるように、僕もOCA TOKYOを積極的に活用していきたいと思っています。

OCA TOKYO 4階 和室

京間六畳でお茶会が開ける和室になっています。華道、着付け教室、日本舞踊、句会にも利用できそうです。掘りごたつにテーブルが設置できるなど、正座する文化のない海外の方に配慮した設計が嬉しいです。

「BRANCHÉ CHOCOLAT(ブランシェショコラ)」 抹茶のテリーヌ
※OCA TOKYO 5階 OCAFEにて提供中。

このお菓子を手がけたパティシエの薬師神さんは、いつも驚きのあるデザートをつくるのがお上手ですよね。『SUGALABO』でもそうでしたが、デザートを“最後のお料理”として提案されている、真摯な料理人というイメージがあります。

中村 孝則

株式会社オフィス・ダンディ・ナカムラ

美食評論家・コラムニストとして雑誌、新聞、テレビなどで活躍中。2013年からは、世界のレストランの人気ランキングを決める「世界ベストレストラン50」の日本評議委員長も務める。剣道教士七段、大日本茶道学会茶道教授。

馬 衣真

華都企画/中国料理研究家

生家は東京・三田の「華都飯店」。大学卒業後、様々なジャンルのレストランプロデュース、メニュー開発に携わる。2007年に国際中医薬膳師の資格を取得。馬家の味をベースに、日本の家庭に合わせた新しい中国料理のスタイルを提案している。

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