OCA TOKYO BLOOMING TALKS 012

ぬくもりのニューノーマル

Released on 2021.10.01

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

今回の対談は、OCA TOKYOと気仙沼をつないだオンライン対談。「ぬくもり」をテーマに、OCA TOKYOメンバーの齋藤峰明さんと御手洗瑞子さんにお話をしていただきました。この日、御手洗さんから届いたのは、気仙沼ニッティングの手編みのニットたち。箱を開け、手に触れて、言葉を交わし、思いを知る。二人のやりとりは、実に温かなものになりました。(2020年12月に対談したもの)

どれも本当に素敵ですね。このニットは何という商品ですか? 色がとても綺麗ですね。

(画面越しから)「エチュード」という名前の、手編みのガンジーセーターです。カラーはいくつかあって、齋藤さんがお手に取られているのは「春の海」という色です。気仙沼では、春先になると少し温かくなって、海に霞が立つようになります。空と海がひとつになるようでとても綺麗なんです。

気仙沼の海の色ですか、それは素敵ですね。以前、エルメスで働いていた頃に「地中海」をテーマに作った手帳のことを思い出します。エーゲ海の青、アドリア海の青といったように青色だけで5種類ほど用意したのですが、その海に思い出や所縁のあるお客様に大変喜ばれました。早速、試着してみましたが(モニタ越しに、試着した様子を御手洗さんに見せながら)、いかがでしょう。そちらからも見えますか?

いいですね! とてもお似合いです。画面越しでもよく分かります。

オンラインならではの温度。

御手洗さんは気仙沼にいらっしゃるので、今年はお会いできていませんね。コロナ禍だから出張などは難しいですよね。

そうなんです。編み手さんの中には高齢の方もたくさんいらっしゃるので、万が一のことがないように、できるだけ外出を控えている状態です。

今回の対談もそうですが、いろいろなことがオンラインで行なわれるようになってきましたね。僕は、こういった変化について、必ずしもネガティブなことばかりではないと思っています。今回のように画面越しだと集中して相手と向き合えます。実はリアルな場よりも深い話ができるのは、オンラインならではの良さだと思います。単なる現実の代替えではなく、こうした新しいつながりの形ができるという点で、オンラインにとても大きな期待を寄せています。

たしかに、私も今回の変化で良かったなと感じることはあります。それは、ひとりで過ごす時間が増えたことです。きっと世界中の人々が、自分自身と向き合えたのかもしれないとも思っています。私の場合、今まで当たり前だった友達や家族に対するありがたみを実感できましたし、リアルな場で人と会える喜びを強く感じられるようになりました。私は旅行が好きですが、今後どこかの旅先でいつもと違う景色を見たときに、以前の何百倍もの喜びを感じられると思います。そういう感受性が育まれているのはいいことかなと思います。

当たり前と思っていたことができないことで、本来の価値に改めて気づき、再認識する良い機会になったのかもしれませんね。

ぬくもりの根源にあるもの。

以前からお聞きしたいと思っていたのですが、御手洗さんは会社を経営する上でどんなことを大切にされていますか。

つまらない答えかもしれませんが「いいものを作る」ということをすごく大切にしています。

全然つまらなくないですよ。僕なんてむしろ、その思いだけで何十年も仕事をしてきました。

自分たちがいい仕事をして人に喜んでもらう。それが働く人にとっても誇りになる。今の世の中だと、それが特別なことのように言われていますけど、本来の商いや生業というのはそういうものだと思っています。

まさに生業の本質ですよね。そういった部分は、会社が大きくなって分業が進んでしまうと見えづらくなってくる気もします。よくある話ですが、売上や株主などを気にする余り、自分たち本来の軸がブレたりもしがちですよね。

今、編み手さんは登録上50人ほどですが、 現在バリバリ仕事をしているメンバーはもう少し少ないです。でも、誰でもいいから増やしたいわけでもないのです。大事なのは「いいものを作って喜んでもらいたい」という矜持であって、その価値観が共有できる人たちと一緒に仕事をしています。それが、品質を保ち、向上させていくことに つながるのだと感じています。

決して生ぬるくはない、ということですよね。御手洗さんは“矜恃”とおっしゃいましたが、そういった熱い思いがきっと、温もりの根源のような気もします。

ぬくもりの正体とは?

箱の中を見ると、商品の他にいろんなものが入っていますよね。編み手さんのお名前、似顔絵、メッセージ。何かあったときのための返信用ハガキまで。しかも、切手もすでに貼られてある。こういった細やかなところにも、温もりは宿っていますね。

ありがとうございます。気仙沼ニッティングでは、いいものを作るのはもちろんですが、その上で「どうしたらお客様にもっと喜んでもらえるか」ということをいつも考えています。例えば、オーダーメイドの「MM01」という商品の場合、完成したものが届くだけでなく、編んでいる途中経過がわかると嬉しいのでは、という思いから「このくらいまで編めました」とメールで途中経過もご報告させていただいています。

僕が感じる気仙沼ニッティングの「ぬくもり」は3つあると感じました。1つ目は手作りです。編み手さんの手で時間をかけて丁寧に作っていること。2つ目はニットの歴史です。手編みは紀元前から脈々と続けられてきた人間の営みですよね。そのせいか、人の温もりというよりも、もっと大きな人類の温もりみたいなものを感じます。3つ目は気仙沼にある気仙沼ニッティングという、特定の場所とコミュニティの中で作られていることです。人の集まりが生み出していることが、温もりになっていると思います。

ありがとうございます。受け取る人にそこまで伝わっていると嬉しいですね。私はもちろんですが、編み手さんもきっと喜ぶと思います。

リアルな場の在り方。

歴史、場所、コミュニティが重要という点では、OCA TOKYOにも同様のことが当てはまりますね。長年、丸の内の都市開発に取り組んできた三菱地所の新しい場づくりですから。御手洗さんは、リアルな場の必要性についてどのようにお考えでしょうか。

気仙沼ニッティングでは週1回のペースで、編み手が集まる「編み会」という場を設けています。そこは、編み方を指導したり商品を検品したりするのと同時に、普段は自宅で作業している編み手たちのコミュニケーションの場にもなっています。編み物という作業は孤独なので、気軽に話したり、聞いたりする場が週1回でもあると嬉しいようです。ただ、今は密になるのを避けるため、編み会も中止にしているのですが、みんなとても寂しそうです。
※写真はコロナ禍以前の編み会の様子。

好きなことは自分一人でも楽しいですが、それを誰かと分かち合ったとき、その思いは何倍にも大きくなりますよね。

はい。編み物は個人の作業ではありますが、編み会という「場」を共有することで、隣で頑張っている人がいる状況で仕事ができます。そういった空間が、人の励みになり、力を与えてくれることを改めて実感しています。

「編む」という言葉には「異なるものを組み合わせる」という意味もあるそうです。編み会というリアルな場で、人と人との関係も編まれているというのは意義深いですね。

それはきっと、OCA TOKYOにも同じことが言えると思います。バックグラウンドが異なる人たちが価値観に共鳴して集まって、お互いを刺激しながら可能性が広がる。これからOCA TOKYOが、そんな場所になっていくと嬉しく思います。

人間は本来、社会のどこかに居場所が必要です。もっと言えば、肩書きやしがらみに縛られない自由な居場所です。OCA TOKYOに来れば、いつもの制約から離れて、自由を満喫しながら自分の考えを交換できる。そんな理想の場になるのではないかと期待しています。

もっと自由に。もっと自分らしく。

OCA TOKYOが掲げる「謳歌」に関して言うと、僕はいかに自分らしくいられるかが重要だと思っています。もちろん、社会の一員としてルールの中で生きなくてはいけないのですが、それはルールに合わせて「自分をどう変えるか」というより、ルールに対して「どう距離をとって、自分らしくいられるか」ということではないかと思っています。

人間は、自分が思っている以上に自由な生き物のように思います。その大前提に気づくかどうかはとても大事だと思います。「いい学校を出ていい会社に入らなければいけない」とか、「社会人たるものこうでなければいけない」とか言われがちですが、そこに本当の制約があるわけではない。「そこから外れるリスクは自分で取るから好きなことをする」と選択することもできます。そう思うと、急に自由になる気がします。私も、ブータンに行ったり気仙沼で会社をつくったり、好きなようにさせてもらっていて、我ながら「謳歌しているなぁ」と思います。

とても素敵な考えです。きっと気仙沼での暮らしも充実してそうですね。ところで、今はお店にいらっしゃるんですか?

そうです、お店にいます。ちなみに窓の外からはこんな景色が見えますよ。(と言いながらパソコンを外へ向けてくださいました)

うわっ。すごい!

気が向いたら海にも山にもすぐに行けます。山では山菜が取れて、海では魚が獲れて、それを家で料理して食べて。四季折々の自然を楽しみながら暮らしています。

羨ましいです。きっと都会で暮らしている人の多くは、御手洗さんのように地方で生活しながらビジネスでも成果を出したいと思っています。このようなライフスタイルはこれから増えていくはずです。都市集中型から解放されて、新しい観点で都市にも地方にも魅力的な場が生まれ、もっと自由で、もっと自分らしく生きる人が増えるといいですね。

齋藤 峰明

シーナリーインターナショナル

高校卒業後、渡仏。パリ第一大学卒、三越パリ駐在所所長を経て、エルメスに入社。日本支社の社長を経て2008年フランス本社副社長を務める。2015年にシーナリーインターナショナルを設立。地方の伝統産業の活性化を通して、日本ならではの新しいライフスタイルの創出と世界への発信活動を行う。

御手洗 瑞子

株式会社気仙沼ニッティング

大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年9月より1年間、ブータン政府に初代首相フェローとして産業育成に従事。東日本大震災後の2012年、宮城県気仙沼市にて手編みのセーター・カーディガンを手がける気仙沼ニッティングを起業。2013年に法人化し、現職。

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