OCA TOKYO BLOOMING TALKS 018

語ることで、変化は起きる

Released on 2021.11.12

OCA TOKYO 限定WEBメディア

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

今回対談していただくのは、OCA TOKYOメンバーである丸の内の森レディースクリニックの宋美玄さんと外資系金融機関勤める傍ら、LGBTに関する課題に取り組む柳沢正和さん。普段から「宋ちゃん」「マサ」と呼び合う仲の良いお二人に、セックス、ジェンダー、生理のことなどをオープンに語っていただきながら、OCA TOKYOが大切にしているダイバーシティの本質へと迫っていきます。

性の当たり前を、変えよう。

今回の対談テーマはセクシャルなことが多いので、まずは、改めて自己紹介から始めましょうか。

そうですね。私は、このOCA TOKYOもある丸の内で産婦人科医をしています。患者さんには丸の内で働く女性が多く、彼女たちの悩みを聞くことも多いですね。時々メディアに出たりしながら、女性の健康やライフイベント、性に関する情報発信なども行なっています。

宋ちゃんと言えば、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』という著書が有名ですよね。何がきっかけで書いた本なの?

その本が出版された当時、セックスの指南書みたいなものはあったけれど、女性の身体に関する知識を正しく伝えたものが少なくて。だからこそ、医師として科学的な視点で性について書いてみようかと。この本がきっかけで、世の中に「女医が教える〇〇〇」と謳う本がすごく増えたんじゃないかな。

そういった意味では、ジャンルの先駆けだよね。セクシャルな問題に関して発信をしている点では僕も同じ。普段は証券会社で働いているサラリーマンですが、僕自身がゲイということもあり、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの国際理事としてセクシャルマイノリティに関する発信や活動を行なっています。

活動に力を入れるようになったのは、何がきっかけだったの?

やっぱり2012年のTEDxTokyoが転機になったと思う。それ以前も限定的に活動はしていたけれど、「TEDで自分の活動について発表してみたら?」と知人に勧められて、いい機会だし自分がゲイであることをカミングアウトしちゃおうと。

あのカミングアウトは思い切ったよね! 反響も大きかったのでは?

まだ「LGBT」や「セクシャルマイノリティ」といった言葉が、ほとんど世間で知られていなかったので、一気に認知度も上がって活動の幅も広がりました。ちなみに、僕は「bda ORGANIC」というセックスコスメの商品開発にも以前関わりましたが、そのアドバイザーとしても宋ちゃんは頼もしい存在です。

いえいえ(笑)。ローションやケアバームといった商品を展開するブランドを立ち上げたんだよね。

そうそう。ローションって、買うこと自体も恥ずかしいイメージがあるし、体に使うのに成分がよくわからないものだったりしませんか? そういったイメージや在り方を変えたくて、仲間と本気で取り組みましたね。「セックスの当たり前を変えよう」がコンセプトです。

もともとゲイの男性向けのグッズだと聞いていたけれど、私のクリニックにもセックスに関する悩みを抱えた女性は多かったので、マサから話を聞くうちに「この商品ってゲイもヘテロ(※1)も関係なく、より良いセックスライフのためにあるものだ」と気づかされました。今では、私のクリニックでも取り扱いがあります。
※1…ヘテロセクシャル・異性に対して性的な感情を抱くセクシャリティのこと。ただし、最近は「異性」という考え方も多角的で、身体性が男性同士であっても一方の性認識が女性であれば、それを「異性」と捉えて恋愛対象とする人もいます。

本当にありがたい話です。おかげさまでユナイテッド・アローズをはじめとするアパレルショップにも置いてもらえるようになりました。薬局の隅からこそこそとレジへ持っていくものじゃなく、インテリア雑貨を選ぶような感覚で買える、オシャレでカッコいい商品にしていきたいですね。

タブーをもっと、議論できる世の中に。

宋ちゃんは、弊社のセミナーにも講師として来てくれたよね?

行きましたね。女性の身体や生理についてお話しました。企業における生理の問題ってなかなか議論されなくて、男性はもちろん女性自身も実は知らないことが多いです。月経中は身体から血を流しながら働いている。それだけでも辛いのに、PMS(月経前症候群)などの不調が現れたりすると、人によっては月の半分くらいは体調が悪いことになります。

僕も小学校で習った程度の知識だったので、詳しく知って本当に驚きました。そういった体調の変化は、仕事にも生活にも大きく影響しますよね。女性だけの問題でなく男性も知っておくべきことです。

自分の身体のことやパートナーの身体のことについて知ろうとする人が増えているのはいい傾向だと思います。最近ではフェムテック(※2)の分野も盛り上がりを見せているし、活用できる情報やテクノロジーも増えつつありますね。
※2…女性特有の生理現象をテクノロジーで解決するサービス。

女性の生理のことって、タブーみたいな扱いだったと思うけれど、そんな状況が徐々に変わりつつあるわけですね。

世の中の変化で言うと、LGBTに関する活動も以前より議論しやすくなったのでは? 当事者だけでなく多くの人が関心を寄せている気もするけど。

たしかに僕が活動を始めた2012年から考えると、多くのことが変わったと思う。同性パートナーシップ制度を導入する自治体が増えたり、同性婚を認めないのは憲法違反とする判決が出たりしていますから。

「多様性」という言葉が浸透し始めたことも影響しているかもしれないね。

人々の考え方が変わってきたと感じるよね。そういえば、とある百貨店の代表が「名前では『百』と言っておきながら、百貨店はこれまで100%の人へ対応していなかった」と話していたのが印象的だったなぁ。百貨店はもっと本当の意味で、すべての人へ向けて商品を提供するべきだと。

実際に商品や売り場が変わったの?

わかりやすい例を挙げると、「LGBT」の「T」、トランスジェンダー向けのリクルートスーツ。これまでは、男性はパンツスーツ、女性はスカートという常識のもと、サイズが展開されていました。そうなると、性自認に合わせてスーツを買おうとしても、自分に合うサイズがないわけです。そのサイズ展開を新しく広げて、多くの人が「これこそ自分!」と思えるスーツを買えるようにしたみたい。一つひとつは小さなことかもしれないけれど、たしかな変化は起きていると思うよ。

すべての人に、居場所がある。

その流れで私もこの前、すごいと思った話があります。自宅でテレビを見ていたら、女性の容姿やファッションを男性目線で評価する企画をやっていて、それを観ていた小学生の娘が「え? そもそも男子のためにオシャレするわけじゃないし!」と言うわけです。

すごい! 男性ために女性が美しくあるという構造に違和感があったんだ。きっと娘さんの世代は、それが当たり前なのかもしれないね。

本当にそう。ダイバーシティネイティブだなって、少し考えさせられた。

ダイバーシティネイティブって新しい! そうやってどんどん価値観が変わってほしい。僕らより若い世代の人たちが、少しでも生きやすい世の中になってくれたら、自分の活動にも意義があると感じられます。

ダイバーシティを推進するために、マサはどんなことが必要だと思う?

ダイバーシティの本質は、いろんな人がいて、すべての人に居場所があって、意見が言えること。例えば、自分以外の人が全員和食を食べているテーブルで、「一応ハヤシライスもありますよ」と言われても、ハヤシライスを食べたいとは言いづらいじゃないですか。それが、和食、ラーメン、スペイン料理など、いろんなメニューを食べていたら、ハヤシライスが食べたいって言いやすいでしょ。その環境づくりが大切だと思う。

わかる! 実はその考え方って、OCA TOKYOの食事メニューにそのまま表れていると思った。ここで提供する食事は、三ツ星の和食を目指すのではなく、多くの人が楽しめるコンフォートフードを充実させたいと聞いていたので。

すごく大事な考え方だよね。僕がOCA TOKYOのメンバーとして参加したのは、「インクルーシブな空間を創りたい」という考えに共感したから。人間は本来、ジェンダー、セクシャリティ、国籍、言語、年齢、ハンディキャップ、職業など、たくさんの属性や要素があって、みんなバラバラなもの。ある意味、「異質」なことが当たり前です。だからこそ、真のダイバーシティを追求するのなら、できるだけいろんな人が交流できる場づくりが必要だと思います。

最初から「完璧」じゃなくていい。

宋ちゃんは、この施設でどんなことをやってみたい?

私なら、丸の内で働く女性向けのイベントを開きたいかな。それこそ、生理について学ぶセミナーもOCA TOKYOで開催できたら嬉しいですね。

僕はランチミーティングのような、打ち合わせを兼ねたカジュアルな食事会をやりたい。レストランじゃ堅いし、オフィスでテイクアウトだと味気ない。貸会議室もちょっとファジーな気もします。その点、OCA TOKYOは、オープンな雰囲気でリラックスして話せる環境があるので楽しく過ごせそうです。

なるほど、たしかにいいかも。そのときは呼んでね。

OCA TOKYOが国際的にもダイバーシティの常識を持った場所になるためにどんなことが必要だろう?

個人的には、運営側に100%を求める必要はないと思っています。それよりもOCA TOKYOにいる人たちが臨機応変に対応できると素敵な気がします。例えば、車椅子を使う人がいたときに、その場にいる誰かがサッとサポートするとか。メンバーも運営側も関係なく、そういった人たち集う場所。そうなればスマートですよね。

僕も同感です。強いて言えば、フィードバックしやすい雰囲気づくりは大切だと思う。もっとこういう対応が欲しい、ここを変えて欲しいといった意見を出し合いながら進化していきたいですね。

賛成。意見を聞いて進化することって、みんなにとって大事なこと。そうやって変わり続けながら、いろんな人が心地よく過ごせる場所になることを期待しています。

宋 美玄

産婦人科医 医学博士/性科学者

2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット、大きな注目を集める。本の執筆やテレビ番組のコメンテーターなど幅広く活動しながら、丸の内の森レディースクリニックで医師として日々女性たちと向き合っている。

柳澤 正和

金融機関勤務

外資系大手証券会社のプライムサービス部長として勤務する一方、結婚の平等を目指す「MARRIGE FOR ALL JAPAN」の理事や国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ国際理事などを務め、日本のLGBTに関する課題に取り組んでいる。

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