OCA TOKYO BLOOMING TALKS 020

スクリーンの先にあるもの

Released on 2021.12.10

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

OCA TOKYOの「Theater」で上映される長編作品のセレクトや上映イベントの企画を担うアーヤ藍さんは、社会問題への関心を軸に映画宣伝や意見の発信など多くの活動を行なっています。そんなアーヤさんが、映画を通じて伝えたいこととは? ご自身の思いをはじめ、OCA TOKYOで上映する作品についてもお話していただきました。

画面の中ではなく、自分の世界の出来事として。

── アーヤ藍さんは、セクシャルマイノリティ当事者としてメディアで発信されているので、そういったイメージを持っている方も多いと思います。 そうかもしれないですね。私は、「Q(クエスチョニング)」といって、自分のセクシュアリティを悩んでいる、あるいは定めないというセクシュアリティを自称していて、特に数年前までは、セクシュアリティに関することで取材を受ける機会も多くありました。ただ私自身の中では、このテーマに特化している意識はなく、様々な社会問題に関心がある中のひとつという感覚です。

── 例えば、どのような社会問題に興味を持っていますか? もともとは、「人間が人間を傷つけているような問題」への関心が強かったです。戦争や難民・移民の問題、人権問題などですね。数年前からは、地方で過ごす時間が増えたことで、環境問題や伝統文化の継承問題なども身近に感じるようになりました。人間や世界のことをもっと知りたいと思って探求する中で、いろんな問題とも出会っていっている感じです。

── 何がきっかけで、社会問題に興味を持つようになったのですか? 大学時代、シリアに滞在した経験が大きかったですね。滞在中は素敵な時間を過ごしたのですが、日本へ帰国した直後、シリアで紛争が始まってしまったんです。現地で知り合った友人や訪れた場所が、傷ついていく。その様子をSNSやニュースで見聞きするたびにとても辛い気持ちになりました。その瞬間、「画面の向こう側の出来事」だったものが、初めて「自分に関係する出来事」になったのだと思います。

── やはり知らない土地と、訪れたことのある土地では感じ方が違いますよね。 それまでは、教科書やニュースで世界中の様々な問題に触れても、それを「自分にも関係のある出来事」とはなかなか捉えられませんでした。でも友人が傷ついていたり、思い出が詰まった街が壊れたりするのを体験して、情報の受け止め方が変わりました。それからシリア以外のことに対しても、「自分の延長にある問題」として考える癖がつくようになりましたね。

映画なら、ストーリーと一緒に伝えられる。

── 現在はフリーランスとして、映画の宣伝事業を行なっていらっしゃいますが、アーヤさんが映画の道を選んだきっかけを教えてください。 きっかけは、『ザ・デー・アフター・ピース』という映画との出会いですね。この作品は、1年に1日だけ、世界から戦争のない日をつくろうとする活動を追いかけたドキュメンタリー映画ですが、この作品を観たとき「この映画を多くの人に観てほしい!」と強く感じて、実際にプライベートで上映会を企画するほど、当時の私を動かしました。そして、自分で実際に映画を届けてみたら、面白さとやりがいがいっぱいあって、ハマってしまいましたね(笑)。

── 社会問題へのアプローチとして、映画が有効なのはどんなところですか? 社会問題を“ストーリー”と一緒に伝えられる点です。ある問題について、ニュースや書籍で知識や情報を得て「理解する」こともとても大切ですが、それに対してアクションを起こそうとする「着火剤」になるのは、その問題を自分自身のことのように想像したり共感したりすることなのではないかと私は考えています。映画なら、画面の中の人たちの経験を追体験することができる。辛さや痛み、喜びや愛情など、様々な感情を一緒にたどることができる。スクリーンを通して疑似体験をすることで、より自分事として社会問題について考えることができるのではないでしょうか。

── 確かに情報だけでは、興味を持ちづらい問題もあります。 『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』という、シリアの民主化運動に飲み込まれていった一人の青年を追ったドキュメンタリー映画を配給したときに、あるサッカー好きの高校生が「シリアのサッカーユースチームのゴールキーパーが主役だと聞いて観に来ました」と声をかけてくれました。彼はそれまで戦争や世界のことに特に興味を持っていなかったそうですが、映画を観るうちに、「もっと知りたい!自分も何かしたい!」と思ってくれたみたいで、その後、国際関係を学ぶ大学に進学して、当時私が働いていた映画配給会社にインターンにも来てくれました。彼は一本の映画がきっかけで、自分の進路を考えるほど強く影響を受けたのです。他にも、映画を通じて「自分が身につけている服や食べている物の背後にいる人たちのことを意識するようになった」という声や、「知れてよかった。世界が広がった」といった声もたくさんもらってきました。

── 映画は、社会問題の解決につながることを信じているのですね。 先ほどお話しした『ザ・デー・アフター・ピース』という映画の中に「住む場所や食べ物がある『あなた』が世界を変えられるんだ」という言葉が出てきます。紛争下にいる人や、貧困で苦しんでいる人は、毎日を生きることに必死ですし、状況を変えたいとは思っていても、難しいですよね。問題の渦中にいない人こそができることは、きっと私たちが思う以上にたくさんあるのだと思います。映画だけでは世界は変わりません。でも、映画を通じてその問題に関心を持つ人や行動を起こす人が増えたら、世界はより良い方向へ変わりうるのではないかと考えています。

観て、体験して、考えて。

── 幅広い人に興味を持ってもらうために、どのような工夫をしていますか? 観終わった直後は「世界ではこんなことがあるんだ」「自分には何ができるだろう」と思っていても、1時間後にはもうその気持ちを忘れてしまっていること、よくありませんか? なので、より強く記憶に残してもらえるよう「体験」もセットにした映画イベントを意識して企画しています。

── 例えば、これまでのイベントではどのような企画をしてきましたか? 日本のお祭りを題材とした映画『MIKOSHI GUY 祭の男』の劇場公開時には、「担ぐ君」という担ぐ練習をするための機材を映画館に持ち込んで、お神輿を担ぐ擬似体験をしてもらったり、みんなで劇場の中で盆踊りをしたりしました。映画はどうしても座って静かに観るものなので、画面の中がどんなに盛り上がっていても、実際のお祭りと同じ体感は得られません。イベントを通じて、お祭りならではの一体感や高揚感を味わってもらおうと考えました。

映画『MIKOSHI GUY 祭の男』劇場公開時のイベントの様子 ©杉浦弘太郎

── 面白そうですね! 体験を通じて気づくこともありますよね。 また、フードロス問題を取り上げた『0円キッチン』という映画の公開時には、映画で取り上げられている昆虫食を体験してもらうためのワークショップを、都内の昆虫食居酒屋さんと企画したこともあります。ちょうどクリスマスのシーズンだったので、クラッカーの上に揚げコオロギを乗せたカナッペや、アリ入りブルーベリージャムを挟み込んで揚げ幼虫の小枝チョコをトッピングしたケーキなどを、参加者の方と作って実食しました。

映画『0円キッチン』昆虫食イベントの様子

── なかなか、衝撃的なクリスマスディナーですね。 抵抗がある人もいるでしょうね(笑)。でも、体験した結果、「私は、昆虫食は苦手だな」と感じてもらうことにも意義があると思っていて。たとえ同じ「嫌だ」という結論だとしても、なんとなくのイメージでその結論を出しているのと、実際に体験して、考えて出した結論とでは、その深さは違うと思います。映画には監督自身の考えやメッセージが詰まっていますが、それに賛同いただく必要もありません。一人ひとりに自分の意見を考えてもらって、みんなで対話や議論をするベースをつくることが、私の役割かなと考えています。

寛ぐように、向き合ってもらいたい。

── OCA TOKYOの「Theater」で上映する際に、どのような映画、どのような社会問題をピックアップしたいと考えていますか? 前提として、映画を通じて社会問題にふれてもらいたいという思いがあるものの、多種多様な作品を上映したいですね。ドキュメンタリーだけでなくフィクションも織り交ぜたり、観終わった後に深く考えさせられるような作品もあれば、世界の愛おしさや未来への希望を感じられるような作品もあったり、様々な作品のバランスを考えて選んでいきたいです。

── 定期的にいろんな作品と出会える場所になりそうですね。 そうですね。あと例えば、国際女性デーや世界エイズデーといったように、年間を通じて社会問題を考えるための日がたくさんあるので、それらの時期も意識しながら上映スケジュールを組んでいくつもりです。新型コロナウィルスの感染拡大状況次第にはなりますが、映画のテーマに合わせてゲストスピーカーを招いた講演なども企画していますし、先々は、OCA TOKYOでも体験型イベントに挑戦できればと思っています。

── OCA TOKYOメンバーに対する思いがあれば教えてください。 OCA TOKYOの「Theater」では、心も体も寛いで映画を味わっていただきたいと思っています。社会問題がテーマだからと言って「何かを学んで帰ろう」と気負っていただく必要はありません。Theaterの暗闇の中では、普段背負っているいろんなものをいったん“脱い”で、ひとりの人間になってスクリーンの中の世界に入り込んでいただけたら嬉しいです。そして観賞後はぜひ、一緒に観た周りの方と感想をシェアしてみてください。同じ映画体験をした後には、普段とは違う相手の「顔」が見えたり、思いがけない共通項を発見したりしやすくなります。もしかしたら「この問題について一緒にこんなことをしよう!」というアクションにつながるかもしれません。映画がそんなふうに、OCA TOKYOメンバーの方々をより深くつなぐ触媒になれば、すごく嬉しいです。

アーヤ 藍

学生時代のシリア滞在をきっかけとして、幅広い社会問題へ興味を持つように。大学卒業後、インターネットプロバイダー事業社、映画配給会社・ユナイテッドピープルなどを経て、フリーランス。映画宣伝やイベント企画、社会問題に関する執筆活動などを行なっている。

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