OCA TOKYO BLOOMING TALKS 023

生き方を照らす読書

Released on 2022.01.07

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

ビジネスリーダーに向けた200冊の書評をまとめた『読書大全』の著者であり、読書家としても知られるOCA TOKYOメンバーの堀内勉さん。順風満帆に見えるプロフィールからはまず想像し得ない壮絶な人生経験を通じて、堀内さんの読書観や、読書が持つ本当の力を聞かせていただきました。

読書がどんどん嫌いになっていった。

── 堀内さんが本を好きになった原体験を教えてください。 幼少期から父親の書斎が好きでした。書斎といってもただの小さな応接間で、そこに本棚があって、百科事典か何かがあったかなぁ。とにかく静かで落ち着けて、居心地がよかった。同じ理由で図書館も好きで、小学校の頃は夏休みに1日中図書館にいる日が何日もあるくらいでした。騒がしい場所が苦手だったとも言えますね。でもものすごく本が好きだったかと言うと、最初はそうでもありませんでした。居心地のいい空間へ、森林浴に行くような感覚で図書館を利用していました。

── あくまでも空間として図書館が好きだったということでしょうか。 もちろん、本も好きでしたよ。その理由を聞かれても困ってしまうのですが、人は、必ず先天的な好き嫌いみたいなものがありますよね? 自分の体に馴染むと言えばいいのか、私にとって本は、そのくらい自然な存在でした。

── 当時よく読んだ本やジャンルはありますか? 特に伝記が好きでした。読むとまるで偉人の一生を生きたかのような感覚になれるのが面白くて。最も鮮烈に記憶しているのは、源義経です。義経が一ノ谷の合戦で平家に崖から馬で駆け降りる奇襲攻撃を仕掛けるシーンがあって、人の裏をかいて攻めた義経のすごさにえらく感動しました。このシーンは、本当に何度も繰り返し読んだことを覚えています。

── ずっと伝記が好きだったのですか? それが、中学受験が始まる小学校5年生くらいから、私の読書は伝記から教科書へと変わっていってしまいました。親が東大出身だったこともあり「堀内家で東大以外はあり得ない!」と、強いプレッシャーをかけられるようになったのです。私の時代はとにかく教科書を丸暗記することを求められましたから、本を読むのが苦痛で仕方なかった。結局東大には進学できたのですが、その後も資格の勉強などで教科書を読む日々は続きます。そのため、いつからか読書が嫌いになっていきました。

死ぬか。読むか。

── 堀内さんから「読書が嫌い」と聞くのは、なかなか衝撃的です。その後、しばらくは読書から離れるのですか? 社会人になってからは、読書どころか、人生が嫌になる日々が待ち受けていました。まず、大学卒業後は日本興業銀行(現:みずほ銀行)に就職したのですが、30代後半になって事件が起こります。大蔵省(現:財務省)への過剰接待問題で、直属の上司が逮捕されたのです。大蔵省と近いところで仕事をしていた私も、東京地検特捜部から合計28回もの取り調べを受けました。私自身はまだ若く、責任がある立場ではなかったのですが、「逮捕されるかもしれない」と考えると夜もなかなか眠れません。毎日汗びっしょりの状態で朝を迎えていました。
しかもその頃は、バブルがはじける直前。日本興業銀行も例に漏れず、大量の不良債権を抱えていることが徐々に発覚していきます。銀行として存続が危ぶまれるほどの大変なタイミングに例の取り調べが何回も続くことでいつしか私は鬱状態に…。そんな調子ですから家庭もうまくいかず、結局妻は出て行ってしまいました。マンションの住宅ローンも残っていましたし、もう生きているのが本気で嫌になった時期です。

── まさに人生のどん底と感じますが、そこからどうやって這い上がることができたのでしょうか? ここでようやく読書です。当時は常に生きた心地がしませんでしたから、とにかく藁をもすがる思いで手に取ったのが、瀬島龍三の『幾山河』という本でした。戦争に負けた責任を負わされシベリアに11年抑留されるなど、感動というか身につまされる思いがして、泣きながら読み耽りました。まさに“死ぬか、読むか”のような状態で手にした1冊ですね。

── 堀内さんの人生とどこか重なる部分があったようにも思えてきます。 そうかもしれません。私はこのとき初めて、本当の意味で読書をしたのだと感じています。とにかく「生きていくための何か」を探し求めて本を読むようになったのです。あとは、家族や友人、知人に励まされたり、散歩で気分を変えたりするうちに、灰色だった世界に再び色が戻ってくるような不思議な体験もしました。天啓を得るような、何か偉大な力によって私は生かされている。そのことを確信した瞬間でした。後で紹介する本のタイトルにありますが、それが私なりの『どんなことが起こっても、これだけは本当だ、ということ。』です。

難しそうな本が、よく売れる時代。

── 今日は最近気になっている本を2冊持参していただきました。1冊目は先ほどお話されていたものでしょうか? はい。加藤典洋さんという方の著書で、最近講演会などでよく引用させていただいています。このタイトル、実は映画監督の宮崎駿さんのエピソードが元になっています。ある日宮崎さんが10歳くらいの子どもが遊んでいるのを眺めながら「自分はこの子に何を伝えられるだろうか」と考えたそうです。そのたどり着いた答えが「どんなことが起こっても、これだけは本当だ、ということ」だったのだとか。そしてそれを物語で表現したのが「千と千尋の神隠し」です。たとえ世界を変えることができなくても、少しでも世の中を良くすることはできる。その大切さをこの作品で伝えています。

── 自分の「本当だということ」は何だろうか? と考えさせられます。2冊目の本についても教えてください。 宇野重規さんの『保守主義とは何か』です。「保守主義」と聞くと、昔からあるものを絶対的に守ろうとすることを想像しがちですが、この本はむしろそれを否定する内容です。先に哲学の話を少し入れるとわかりやすいと思います。哲学は、ざっくりと合理論と経験論の2つに分かれます。合理論は「人間とはこうあるべき」と理想を定め、そこに現実の人間を合わせて世界を築いていく考え方。経験論は「多様な人間がいる」とまず現実を認め、そこから最大公約数的に世界を考えていきます。この本に書かれている保守主義は、経験論に近いのです。歴史的な様々な事実がある中で、理想と違うことを排除するのではなく、そのすべてに敬意を払いながら、世の中のあるべき姿を考えようとする姿勢こそが、本来の保守主義であると書かれています。

── タイトルだけ見ると難解な内容に感じますが、そうご紹介されると興味が持てます。 最近はこうした難しそうな本がよく売れていると聞きます。『読書大全』もそうですが、鈍器本と呼ばれる分厚い本や、資本主義を主題にした本、哲学の本などが軒並み好調なのだそうです。7、8年前に「資本主義に関する本を出したい」とある出版社に話したことがあるのですが、当時は「そんな難しい本は売れない」と一蹴されました。ところが今は、当時考えていたような内容の濃い、より本質的な本が売れています。新型コロナウイルスの影響で「世の中はこれからどこへ向かうのだろう?」と、多くの人が真面目に考え出したのではないでしょうか。いずれにしても、現在の「読書」はとても良い方向に向かっているように感じています。

ニュートンとも、対話ができる。

── ここで改めてお聞きします。堀内さんにとって「読書」とは何でしょうか? 読書とは、著者との出会い、そして対話だと思っています。例えば、有名な作家さんに「丸一日話を聞かせてください」なんてお願いはできません。でも、本を通じてならそれができる。しかも何ひとつ不平不満を言わずに淡々と語りかけてくれる。また、世界中の人やこの世を去った人にも簡単に会えるところもすごいところです。例えるなら「ニュートンと話したい」それを唯一実現させられる方法が読書なのです。あと本を書くとわかるのですが、1冊書くためにものすごいエネルギーが必要で、私も『読書大全』は命を削って書いた感覚があります。それがわずか2千円前後で手に入り、好きな時間に好きなだけ読める。ある意味対話以上の価値があるとも思います。

── ここOCA TOKYOも「出会い」の場としては共通点があるのかもしれません。 まさに私は、OCA TOKYOは出会いの場だと思っています。それこそ読書と同じ感覚です。人間が心を動かされることは、私は2つしかないと思っています。ひとつは、圧倒的な大自然を目の前にすると感動する。もう一方は、人の情熱や行動に感動する。OCA TOKYOでも、もちろん読書でも、そんな心を動かされるような出会いがあると嬉しく思います。

── OCA TOKYOでお気に入りの場所はありますか? 5階の階段付近のソファ席です。さっきもそこでオンライン会議をしていました。ソファが広くて落ち着く場所なので気に入っています。7階で食事もよくしますし、あとはシアターも良いですね! 空間的なことに加えて放映されている映画が素晴らしい。他ではなかなか観られない、学びにつながる良質な映画がピックアップされています。暇なときは大体ここにいます。東京には週2くらいで来ていますので利用頻度も高いです。あとこの場所はもともと、私が勤めていた銀行があった場所。元同僚からも、どんな場所に変わったのかよく聞かれたりもしますし、今こうして話をしていることも不思議に思えてきます。

── かつての修羅場のような場所が、時を経てご自身の居場所になっているわけですね。最後に、堀内さんが読書を通じて出会った金言をいくつか教えていただけますか? 「他人の人生を生きることで、自分の人生を無駄にしないでほしい」という、スティーブ・ジョブズの有名なスピーチがあります。私はこれが大好きで、自分の人生を生きたいという思いを強く持っています。若い頃は周りに流されるように勉強して、銀行員になって...。と、まさに他人の人生を生きていました。振り返ってみれば、人と違うことを面白いと思う性格だったし、それに気づかせてくれたのが読書でしたね。同じ意味で、マリリン・モンローが言った「私が私でなくなってしまうなら、何になっても意味がない」も好きな言葉のひとつです。傍目から見ると、世の中の多くの人は、自分が自分でなくなろうと必死になっている気がしてなりません。とはいえ、自分らしく生きることは、簡単そうでなかなか難しい。そんなときに、灯火のように人生を導いてくれる。それが読書であると、私は思うのです。

堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長
日本興業銀行(現:みずほ銀行)、ゴールドマンサックスを経て、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFOを歴任。現在は100年企業戦略研究所所長(株式会社ボルテックスのシンクタンク)、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会的投資推進財団評議員などを兼務。『読書大全』の著者としても知られている。

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