SELECTED EVENTS 005

花は季節を歌うように

Released on 2022.01.21

12月14日に開かれた『OCA TOKYO Christmas Party 2021 #1』では、来場者の前で圧巻のパフォーマンスを披露し、唯一無二のクリスマスツリーを生けた華道家の辻雄貴さん。今回のインタビューでは、そんな辻さんの考える「いけばな」の魅力や、表現をするうえで大切にしている思いなどをお聞きしました。

華道家・辻雄貴空間研究所 代表 辻 雄貴

1983年 静岡県出身。工学院大学大学院 工学研究科建築学専攻修士課程修了。人と建築と植物の関係性を考えながら表現される独自の「いけばな」は、既存の枠組みを超えた空間芸術として注目を集め、世界を舞台に日本の自然観・美意識を表現している。2016年、ニューヨーク カーネギーホール主催公演にていけばなを披露。2017年、スペインのフェリペ国王夫妻が訪日した際に、天皇皇后両陛下ご臨席のもと献花・室礼を行なう。

旬を届けるという役割が、「いけばな」にはある。

── いけばなで、クリスマスツリーを表現するというお題に対して、どのようなことを考えましたか? 実はこれまでもクリスマスツリーのご依頼をいただくことはあったのですが、すべてお断りしてきました。しかし、今回お引き受けしたのは、OCA TOKYOが目指すコンセプトに感銘を受けたからです。館内のアート、植物、インテリアにも愛情を感じましたし、様々なバックグランドを持つ人たちが集い、多様な価値観を受け入れる。そんな場所にふさわしいツリーにしたいと考えていきました。

── 使用した素材についても教えていただけますか? ツリーの土台に使ったのはクスノキで、これはとある神社の宮司さんから譲り受けたご神木なんです。その生命力をOCA TOKYOで再び蘇らせようと考えました。グリーンの部分は、猿の手のような葉をつける猿猴杉(エンコウスギ)、サボテンのように固い葉がつく石化杉(セッカスギ)、垂れ下がる枝が特徴的なしだれ松を使いました。赤い実ものは、西洋ウメモドキと南天の実、そして5、6種類の椿。すべて日本各地で採ってきた冬の植物たちです。海外では、このように多様な植物を生けることはできないので、つくづく日本は自然が豊かな国だと思いますね。

── どういったところに注目していただきたいですか? 冬は植物の生命力が最も低い時期。そんなタイミングに常緑樹や木の実、椿といった水持ちが良くて生命力の強い「旬」の植物を集めてクリスマスカラーを再現しました。特に具体的なポイントになるのは、椿の花です。常緑樹や赤い実は変化しない中で、椿だけが咲いては散りを繰り返す。クリスマスイブまでの季節を謳うように移ろう姿、この「花のリレー、循環」をOCA TOKYOで過ごされる皆さまに感じてもらえたら嬉しいです。
また、展示期間が終わってからも植物たちには役目が待っています。例えば、赤い実は粉々にして肥料になり、クスノキと杉は別のインスタレーションの場で使う予定です。今回に限らず、扱うすべての植物を循環させることをひとつのアートと捉えているので、イベントのために集めた植物の、その後の使い道も考えながら活動しています。

Photo : Yamato Ikehara (YUKI TSUJI +Plants Sculpture Studio Inc.)

── 表現をするうえで、どのようなことをいつも大切にしていますか? 旬を届けるという役割が、いけばなにはあるので、その時々の季節を大切にしています。特に「二十四節気」という2週間ごとに移ろう季節の廻りを意識して花を生けることで、植物の多様性を表現したいと思っています。あとは、現代のライフスタイルや空間にどのようにして植物の生命力を届けるかということも意識しています。節気の花を飾ることで場を清め、心地いい空気をつくる。それはきっと、現代の私たちにも必要な暮らしの潤いであり、価値のあることではないでしょうか。

── 辻さんは「謳歌」という言葉を聞いて、どのようなイメージが思い浮かびますか? 「謳う歌」と書くことから、お能や舞のような日本の伝統芸能が思い浮かびますね。人と自然が調和して美しい表現を生み出すイメージです。あとは自然の美しさや生命力を感じることが、人間の豊かさにもつながると思うので「植物」や「自然」という言葉も「謳歌」に紐づくキーワードだと感じています。人間の感性が痩せてしまわないように、今後とも植物を使った豊かな空間創造で、多様な表現にチャレンジしていきたいと思っています。

ライブパフォーマンスの様子。

廣野館長とのトークセッションの様子。

100名以上の参加者とともにクリスマスシーズンを味わいました。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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