SELECTED EVENTS 006

主語は小さく、関係は対等に

Released on 2022.01.21

現状の寄付活動における多くの問題に迫る映画『ポバティー・インク あなたの寄付の不都合な真実』。OCA TOKYOでは12月8日に本作品を上映後にトークショーを開催。今回は、トークゲストの一人であるMotionGallery代表の大高健志さんに、この映画を通じて感じたことや、ご自身の活動に対する思いなどをお聞きしました。

MotionGallery 代表 大高 健志

早稲田大学政治経済学部卒業後、米系コンサルティングファームにて戦略コンサルタントとして勤務。その後、東京藝術大学大学院で映画製作を学びながら、クリエイティブと資金とのより良い関係性を構築するべく2011年にクラウドファンディングプラットフォーム「MotionGallery」を立ち上げる。以来50億円を超えるプロジェクトの資金調達から実現をサポート。2015年度のグッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」を受賞。また、2022年下北沢に文化の共有地となるミニシアター『K2』を立ち上げるなど、様々な領域で活動中。

一人ひとりの消費行動も、クリエイティブな表現手段。

── 今回の作品を観て感じたことや、印象的なシーンなどをお聞かせください。 わかりやすいのは「魚を与えるのか、魚の釣り方を教えるのか」についてのシーン。物資が大量に届くことで、自給するきっかけを奪ったり、既存の小さなビジネスの根を絶やしたり、スタートアップの若い芽を摘むような、自立を妨げる結果に陥っている事例が紹介されています。「魚を与えるのか、魚の釣り方を教えるのか」の、どちらがより持続的支援なのかという話がこれまでありましたが、よりどちらがプラスかという話ではなく、「魚を与える」ことはむしろ大きなマイナスを生んでいるという話。つまり、短絡的な物資の供給は、当事者のためになるどころか、ある種の攻撃になってしまっているわけです。2016年に公開された作品ですが、寄付ビジネスの構造的な問題に気づかせてくれる映画だと思います。

── 大高さんの考える、健全な支援の形とはどのようなものですか? まずは「Peer to Peer」であること。お金を渡す側と受け取る側がある程度対等でなければ、かえって悪い結果を生む可能性すらありますから。さらに重要なのは「小さな主語」で考えること。例えば「アフリカを救おう」だと、主語が「国」や「大陸」のように大きく、大きすぎるがゆえに大事なものを見過ごしてしまうことが多い。まさにこの映画でもそこが描かれているように感じます。もっと支援を必要とする個人の声がダイレクトにつながり合い、そして相互にフィードバックされるような仕組みが必要です。その点クラウドファンディングでは、当事者と支援者がダイレクトにつながります。また、お金を介した投票によって当事者のプロジェクトを実現させるという意味では、寄付ビジネスよりも対等な関係でお金が動く仕組みだと思います。

── MotionGalleryにおいて、大高さんが大切にしていることは何ですか? よくお話しするのは、ドイツの現代美術家で社会活動家であるヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」という概念です。まず前提として、すべての人間はアーティストであるべきだと彼は言います。その真意にあるのは、一人ひとりが芸術家くらいの自意識を持って責任ある行動や選択をすることで、美術作品としての彫刻のように社会が創り込まれていくという考え方です。例えば、アンフェアな関係で大量生産された安くて人気のある商品と、フェアトレードで地球環境に優しい割高な商品。どちらの商品を選ぶかで、社会そのものが変わっていきます。「社会を創造する」と捉えれば、一人ひとりの消費行動は、クリエイティブな表現手段になる。僕は、クラウドファンディングの本筋は、この「社会彫刻」だと思っています。誠実なプロダクト、アート活動、まちづくりなど、当事者の思いに対して応援が集まりカタチになる。そんなふうにクラウドファンディングが機能していくと嬉しいです。

── 大高さん自身もMotionGalleryを活用して「ミニシアター」を応援していますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか? コロナ禍における制限によって多くの映画館やミニシアターが営業自粛を強いられてきました。そんな中、MotionGalleryで有志を募った『ミニシアター・エイド基金』では、改めてミニシアターが持つ社会的意義を感じました。2022年1月から下北沢にオープンする『K2』というミニシアターも、MotionGalleryで資金を集めたのですが、支援とともに寄せられるコメントを拝見するだけでも、多くの方が映画館を必要としていることがわかりました。まちづくりの観点でも映画館は文化の醸成や人々の交流を担います。きっと映画館には、ビジネスの文脈では伝えきれない可能性があるのだと感じます。

── OCA TOKYOの「シアター」には、どのような魅力があると感じますか? 映画を観た後にする会話って、僕はとても楽しいことだと思っているのですが、街の映画館で隣の席の知らない人に「どうでした?」と話しかけるのは難しいですよね。しかし、会員制のプライベートクラブにあるシアターであれば、そうやって会話をすることも自然にできるのではないでしょうか。落ち着いたラウンジや飲食ができる場所もあるので、映画を観て会話を楽しめる場所になると面白くなると思います。

上映後のトークショーの様子。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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