OCA TOKYO BLOOMING TALKS 024

いま、本を読むということ

Released on 2022.02.04

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

あらゆる情報が目まぐるしく駆け抜けていく現代において、「本のある空間」や「本のある時間」の価値はどのように変容しているのか。そんな疑問を投げかけたのは、OCA TOKYOのブックバーを手がけたブックディレクターの幅允孝さん。OCA TOKYOの選書に込めた思い、本の魅力や可能性についてお聞きしました。

1000冊すべてに、選書の理由がある。

── まずはOCA TOKYOのブックバーについて、どのようなアプローチで選書されたのかを教えてください。 選書をするにあたっては、OCA TOKYOのメンバーにオンラインインタビューをさせていただきました。いろいろな本をお見せしたり、お話をしたりしながら、まずは大きなテーマを設定していった感じです。例えば「ビジネスパーソンの方が多いから、やはり“ビジネスの変遷”は大きなテーマになりそうだな」とか、「何を食べるか、何を飲むかといった、“食や身体”への関心も高そうだな」とか。実はインタビューの中で言われた些細なひと言もヒントになっていたりします。そういったインタビューを通じてテーマを設定した後に、実際の細かい選書を進めていったという流れですね。

── 具体的な選書の理由などを伺える本はありますか? そうですね。例えばこの『焚き火大全』という本は、メンバーの堀内勉さんにインタビューをした際に、「薪ストーブとか暖炉っていいよね」という言葉からインスピレーションを受けて選んだ本になります。丸の内と焚き火、都会のど真ん中に自然という、ある種アンマッチな面白さがあると思ったんです。その他にも、メンバーの中には猫派の方が多いようだったので、深瀬昌久という写真家が愛猫を撮影した写真集『Afterword』や、日本画家である熊谷守一が猫を描いた画集『熊谷守一の猫』なども選書しています。ブックバー全体で1400冊ほどを選書しましたが、実はその一冊一冊すべてに、選んだ理由があるんですよ。

── 棚に置かれている本は、今後動きがありますか? 「100年後をどう生きるか」というテーマになっていた棚があるのですが、それを今後はOCA TOKYOメンバーの棚にしたいと思っています。まだ企画段階ですが、OCA TOKYOのメンバーに並べる本を選んでいただいたり、メンバーご自身の著書を並べたりする棚があってもいいなと考えています。そういった棚から、新しいコミュニケーションが生まれてくれたら嬉しいですね。

孤独の中にある豊かさ。

── 幅さんは、本の魅力はどのようなところにあると思いますか? 第一に、情報の責任の所在がはっきりしているという点ですね。具体的には、著者であったり、注釈であったり、引用であったり。エビデンスがはっきりしていて、情報も推敲されているんです。紙の本であれば、書き直しが不可能なのでなおさらですね。また、コンテンツに接している時間を自分で牛耳れるところも本の魅力だと思っています。映像コンテンツはどうしても受動のスタンスになってしまいがちですが、本は明らかに異なります。1つの言葉やアイデアに立ち止まって考えることができる。シンギュラリティを迎えるこれからの未来に向けて、自分の意見は自分でつくらなければならないことを考えても、本にやれることはまだまだあると思っています。

── 「本を読む」という行為は、それだけ自発的なものなんですね。 その通りです。読書という行為自体は、すごく範囲が小さいエンターテインメント。ひとりで始められるけれど、逆を言えば、ひとりでしか始められない。現代の多くのエンタメがシェアの考えをベースにしている中で、本は明らかに孤独に陥らざるを得ないコンテンツです。それを寂しいと思う方もいるかもしれないですが、僕はその中に豊かさがあると思っていて。書き手と読み手が1対1で向き合うことで、精神の受け渡しのようなことができている。そう考えたら、読書は決して寂しいものではなく、むしろとても有意義なものではないでしょうか。

── ちなみに、書籍のデジタル化が進んでいることに関してはどのようにお考えですか? 決してデジタルの本が悪いとは思いませんし、私自身、新書や漫画などはデジタルで読むことも多いです。要は使い分けが大事であって、デジタルであろうが紙であろうが、書いてあるテキストが読み手のどこかに刺さって何かしら作用する状態がつくれるかどうかだと思います。ちなみに私の場合は、デジタルで読んだ本で「もう一回読み直すだろうな」と思ったものは、結局紙の本で買い直すことが多いですね。

── それはなぜでしょう? 安心して忘れられるからですかね…。デジタルのそれよりも、やはり自分の身体に近い部分がありますから。毎日手に取るものでなくても、視界に入るだけで、自然と自分の一部になってくれているんです。例えるなら、スマホでたくさん写真は撮るけど、その後の写真は見なかったり、そもそもどこにあるかわからなかったりする方も多いですよね。結局一番見るのは、出力して、額縁に入れて飾っている思い出の一枚だけだったりする。そういう意味でも、物質としてそこに“在る”ことの強さは、否定できないと思います。

読ませるのではなく、差し出す。

── ブックディレクターとして、幅さんが今まさに取り組んでいることや、これから挑戦したいことなどがあればぜひ教えてください。 本当にいろいろなことをやらせていただいているのですが、例えば、クリエイティブ・ディレクションを手がけた「こども本の森」では、中之島に続いて、岩手の遠野や神戸の選書・配架もやらせていただいています。他にも、神奈川県立図書館のリニューアルプロジェクトを神奈川県の教育委員会顧問として現在進行形でお手伝いしていたりもします。最近では、選書・配架とは別の領域から、本の“差し出し方”を考えるような機会も増えてきました。

── 差し出し方、ですか。 例えば、書棚の下の床材まで考えたりするんです。新刊の書架の前は、人流の回転を高めるために硬めの床にしたり、郷土資料の書棚の前は、じっくり読んでもらうためにカーペットの毛足を他よりも8mmくらい長くしてふかふか感を出したり。その他、そばに置く椅子の座面の高さからマテリアルの柔らかさまで。つまり、それほど周辺環境のことまで考えないと、本を手に取ってもらえない時代になっているんです。ブックディレクターとして、どういう本を選ぶかももちろん大事ですが、その本をいかに差し出すかも大事だということ。そこを、こちらの作意すら感じさせないさり気なさで、気づけば本を読んでいたという状態を、どうやってつくるか。そうやって、最近は“差し出し方”を、かなり意識して取り組んでいます。

本に深く潜るスイッチを置いておく場所に。

── 読み手の視点で、「本を読みたい」「没入したい」と思ったときに、やるべきことや気を付けるべきことがあれば教えていただけますか? 今の時代はとにかく時間の奪い合いが激しいので、そもそも本を読む時間を確保すること自体が大変ですよね。本の世界に深く潜るためには、それなりの時間の確保とモチベーションが必要です。ですから “読書のジム化”と言いますか、「この曜日はこの場所で本を読む」といったスイッチを入れられるような、場所と時間をルーティーン化するというのもひとつの手だと思います。

── では、OCA TOKYOのブックバーには、どのような場所になってほしいと思いますか? もちろん本を読むための場所として使ってもらえたら嬉しいですが、OCA TOKYOのブックバーにいる人が全員本を読んでいたら、それはそれでちょっと怖いかなと思います(笑)。本を手に取る自由も、手に取らない自由もある中で、家とはちょっと違う読書のスイッチを置いておく。そんな意識でこの場所を使ってもらえたら個人的には嬉しいですね。

幅 允孝

ブックディレクター。BACH代表。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど、様々な場所でライブラリーの制作をしている。最近の仕事として、「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」での選書・配架、札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン、サンパウロ、ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。安藤忠雄氏の建築による「こども本の森 中之島」ではクリエイティブ・ディレクションを担当。近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛ける。早稲田大学文化構想学部非常勤講師。神奈川県教育委員会顧問。

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