SELECTED EVENTS 007

今こそ自由に、盆栽を愛でる

Released on 2022.02.18

1月14日に開催されたイベント『Art ACADEMY #3 伝統と応化』では、OCA TOKYOに、掛け軸、盆栽、盆石の「床の間三点飾り」をはじめ、全8点の盆栽が飾り立てられる中、美術家のミヤケマイさんによるトークショーを行ないました。今回はトークのお相手を務めた盆栽のエキスパート・田口文哉さんに、盆栽の魅力や可能性についてお聞きしました。

さいたま市大宮盆栽美術館 学芸員 田口 文哉

1977年生まれ。静岡県出身、さいたま市育ち。2009年、日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了、芸術学の博士号を取得。翌年に開館する大宮盆栽美術館の学芸員として採用され、盆栽の文化・歴史の研究をもとに展覧会企画や普及活動を担うほか、盆栽に関するテレビ番組の企画協力や出演、執筆など幅広い分野に携わっている。また、2020年からは日本大学大学院で日本美術史を担当するなど、精力的に活動を行なっている。

伝統が断絶している今こそ、盆栽の新たな転換期。

── まずは、田口さんと「盆栽」との出会いについて教えてください。 始まりは、大学院で博士論文を出して今後のことを考えていたとき。お世話になっていた大学教授から夜に突然電話がかかってきて「さいたま市が盆栽の美術館をつくるからその学芸員採用試験を受けないか?」と言われたのが、盆栽との最初の出会いです。当時は岩槻市(後にさいたま市に合併)という隣町に住んでいましたが、さいたま市に「盆栽町」という町があることさえも知らなかったほど関心がありませんでした。

── まったく無知の状態から、どのようにして興味を持ち始めたのですか? もともと日本美術の研究をしていたのですが、盆栽という視点で改めて日本美術を見つめ直すと、たくさんの作品で盆栽が描かれていることがわかりました。しかも、そんな視点で日本美術を語った人が誰もいなくて「これは、未開の研究ジャンルだ!」と思い、一気に興味がわいたんです。大学の図書館で「絵巻物全集」と「浮世絵全集」を全巻開き、どこに、どんな盆栽が描かれているか調査を始めました。それを通じて、日本では1300年代の絵巻物にすでに描かれていたこと、当時は「盆山」と言われていて「盆栽」という言葉は明治以降に生まれたことなどなど、様々な学びを深めながら、約10年かけて盆栽美術館なりの「盆栽文化史」をまとめ上げていきました。

── 植物としての盆栽についてはどのように理解を深めていったのでしょうか? 盆栽そのものについては、就職後、研修と称して大宮盆栽村の盆栽園に毎日のように通い、いろんな親方にレクチャーを受けました。今でもはっきりと覚えているのは、親方の「突っ立ってないで、腰を下ろして、見上げるようにして見てみろ」と言われて見た盆栽の姿。「大きく見えますねぇ!」と、素直に感動しました。それまでは「小さい木」というイメージだった盆栽が「凝縮して大樹を表現したもの」であることを思い知りましたね。今でも盆栽の初心者の方には「下から見てください」とお伝えしています。

── これからの時代において、盆栽は、どのように進化をしていくと思いますか? 歴史の流れを研究するうちに「盆栽は、都市化が進むたびに流行している」と思うようになりました。そして今、まさにその流れが来ている気がしています。最近驚いたのですが、サザエさんに出てくる波平さんが盆栽愛好家であることを、若者の多くが知らないんです。床の間を持たない日本人も増えていますし、もはや日本人も西洋人と同じ立ち位置で盆栽を見ている。そういった伝統が断絶している今こそ、盆栽の新たな転換期だと私は思っていて、既存のルールを飛び越えた、現代の生活様式に合う盆栽の在り方が、若い人や西洋人たちから生まれてくることを期待して観察しています。

── 今回のイベントの魅力を教えてください。 盆栽の展示というと、一間幅にずらりと並べて鑑賞する陳列会形式になりがちですが、今回は、OCA TOKYOの場に合わせ、ミヤケさんの含蓄に富む掛け軸とコラボレートした『飾りとしての盆栽』を意識しています。また、美術館で静かに鑑賞するのとは違って、飾りを愛でながら、自由に会話を楽しんでいただきたいとも考えています。「見て・話す」場というのは、伝統的な飾りを楽しむ在り方ですし、おそらく盆栽屋さんが見ても新鮮なイベントになると思います。楽しい会話に包まれながら、まさに「人生を謳歌する場所」にふさわしい豊かなひとときになると嬉しいです。

今回のイベントで再現した「床の間三点飾り」。
掛け軸:ミヤケマイ『One for All, All for One 知足』(2021)
盆栽:真柏/藤樹園

和室「一三」にて。飄々とした文人木は、侘しさが味わい深い。
掛け軸:ミヤケマイ『分福茶釜 Bunfuku Kettle to Boil Water』(2017)
盆栽:椿/藤樹園

遊び心を感じる、掛け軸との組み合わせ。
掛け軸:ミヤケマイ『蓬莱猫 Horai Lucky Cat』(2017)
盆栽:野梅

トークイベントでは、盆栽の歴史を少しだけ紐解きました。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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