OCA TOKYO BLOOMING TALKS 026

香りと人の、化学反応

Released on 2022.02.18

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

1階の隠し扉を抜けた瞬間、エントランスでパッと香る軽やかな香り。あるいは各フロアの深く穏やかな香り。これらの香りをプロデュースしたのは、OCA TOKYOメンバーであり、スペースアロマスタイリストの山内みよさん。空間全体の雰囲気をつくり、自然と人に寄り添う香りの世界について、OCA TOKYOの中を歩きながらお話をお聞きしました。

香りの世界は、化学の世界。

── 早速ですが、今私たちがいる受付のフロアもとてもいい香りがします。山内さんは空間と香りについて、どのようにお考えですか? ありがとうございます。香りは目には見えないので、空気中で自然と人にはたらきかけることができます。ですから空間を演出する手段として、とても効果的なものだと私は思います。多くの方が利用する空間で、いい香りがすると気分も良くなりますし、今みたいに「いい香りですね」と会話のきっかけも生まれます。OCA TOKYOで初めてお会いになる人同士のコミュニケーションを、香りからも生み出していきたいですね。

── 人と香りの関係については、いかがでしょう? これは身体のメカニズムに関係する話になるのですが、嗅覚は、視覚や聴覚と違って、大脳皮質を経由せず大脳辺縁系へ直接はたらきかけます。よく香りで昔の思い出がよみがえるのも、こうしたメカニズムが関係していると言われています。また、海外ではアロマセラピーが植物療法として人体への効果が認められています。例えば「ラベンダーにはリラックス効果がある」といった具合に、天然のアロマオイルは本来、それぞれ特質を持ち、効果・効能を語れるものなのです。

── 香りは、想像以上にロジカルに語れるものなんですね。 そうなんです。実は香りの世界って、皆さんのイメージよりもずっと化学の世界です。それぞれの成分はすべて化学式で表すことができますし、香りのブレンドは化学反応そのもの。どんな香りにするか、どのような効果を期待するか、緻密に設計することができるのです。

カウンセリングから始まる、よりパーソナルな調香。

── そんな香りの機能を、どのような場所に提供していますか? 天然の香りには、人の気持ちを整える作用があります。例えば、プライベートな内容を伝えなければいけない弁護士事務所では、安心感を与える香りを室内に漂わせたり、大人でも緊張してしまう歯科クリニックでは、血流を上げてゆったりした気分になれるものを待合室で香らせたり。その場所の雰囲気や目的に合わせて最適な香りのブレンドを考えていきます。

── 香りは「人の好み」といった感覚的な要素もあると思うのですが。 たしかにそうですね。人の香りの好みに関しては、生まれやライフスタイルなど様々な点から好みの違いが出るものです。そこで弊社では、細かいカウンセリングをさせていただき、クライアントがその空間で求めている香りを分析し、香りをストーリーとして表現できるようつくっています。 例えば小説の一部や音楽、歴史、食などといった 様々な表現で、より香りのイメージをお伝えできるように、カウンセリングシートとともに、プレゼンテーションを行ないます。 一方、近頃では、香り産業にも先端技術を応用したアプローチが進んでいます。フードテックをイメージしてもらうと近いかもしれないですね。現在は、個人の遺伝子を分析することで、その人はどんな食べ物を好むか、どんな食べ物にアレルギーがあるか、わかるようになってきています。香りもそれと同様のことが研究され、今後さらに技術が進歩すれば、遺伝子分析によって個人の好みにピタリと合わせた香りをつくることができるのかもしれませんね。それも楽しみです。

香りをもっと身近に、効果的に。

── 山内さんが香りに興味を持ったきっかけは何ですか? 父の仕事の関係で、海外で生まれ、長くスペインのマドリードで育ちました。日本と違ってヨーロッパでは、多くの人が香水をつける文化があります。しかし私は、幼少時はその文化に慣れることができず、香りがきついとさえ思っていました。ところがやがて成長するうちに日常的に家庭内で香りを楽しんだり、自分に似合う香水を身につけるヨーロッパの人々のライフスタイルに憧れたりするようになり、香りを纏う文化へ興味を持つようになりました。
また、学校の課外授業では、ハーブ農園へ行くこともあって、そこでラベンダーやローズマリーを収穫し「ハーブチンキ」と呼ばれるハーブのアルコール漬けをつくった記憶があります。古くから伝わる効果効能のあるお薬のような存在なので、火傷やすり傷に塗るほか、ヘアミストや入浴剤としても使うことを知りました。

── 海外の環境と比較して、日本における香りをどのように感じますか? 海外と比べると、日本では香水をつける人はそこまで多くはないですし、アロマやハーブを日常的に使うことも少ないですよね。歴史的に見ても、様式や作法がある「香道」のような、すこし高貴なものとして香りが存在していたこともあり、日常的に香りを楽しむ機会が少なかったのだと思います。天然の香りは様々な効果を期待できるものなので、もっと身近にその空間に合ったカタチで多くの人に届けられたらと思います。

人の動きが、新たな香りを生み出してくれる。

── OCA TOKYOの香りは、どのように開発されましたか? まずはOCA TOKYOのコンセプトに沿って香りを考えていきました。偶然の出会いから化学反応が生まれる場所にふさわしい香りとは? メンバーの皆さんにどのような気持ちで過ごしてもらいたいか、そんな思いをふくらませていきました。OCA TOKYOメンバーの皆さんは、自らのスタイルや嗜好をお持ちの方々ですから、特定の国やスタイルを強く意識するものではなく、様々な人と分かち合える心地良さを意識して香りをブレンドしています。

── 具体的にどのような香りをブレンドしていますか? 特定の国を意識する香りではないのですが、丸の内という歴史的な立地を考え、 日本の神社仏閣の建材にも多く使用されている、ヒノキやホーウッド(芳楠)を 使用することで一つの個性を表現しています。具体的には、落ち着きのあるエレミと華やかなベルガモットにより、奥行きのある香りに仕上げ、OCA TOKYOのエントランス、3、4、5階に提供しています。
ブレンドする種類は同じですが、各場所で濃淡をつけて印象を変えています。最初の隠し扉から入るエントランスは、ファーストインプレッションとなる場所なので、驚きや軽やかさのある香りに、3階は優しく香るように、4階は個室などもあるので、ゆったりとした香りをイメージしています。また、5階にはカフェスペースがあるので、食べ物や飲み物の香りを邪魔しないように調整しています。ここまでは同じ成分ですが、6階のブックバーはブレンドを変えています。

── それはどんな香りですか? ご友人と会話を楽しんだり、打ち合わせをしたりする空間とは違い、お酒の提供もあるよりパーソナルな時間が流れていると感じたので、重めのゼラニウムエジプトにパチュリやブラックペッパーといった甘くスパイシーな香りを加えています。ソファや本棚のある空間でゆったりと、本の世界や自分の内面の深いところに向き合える、そんな香りをイメージしています。他には、お手洗いや各所に置かれているアルコールスプレーの香りです。殺菌作用があり空気清浄効果があるウッドをベースに、ハーブによる爽快感のある香りにしています。

── こうしてお聞きしてみると、香りを意識して過ごしてみても、OCA TOKYOの魅力を楽しめると思いました。 OCA TOKYOは3階から6階まで、螺旋階段でつながっていますよね。ここを人が行き来することで、各フロアの香りが混ざり合い、また別の香りが生まれるようにしています。ですから階段を上り下りするときは、ちょっとだけ意識してみてください。きっとご案内する人の中には、階段の途中でお気づきになる方もいらっしゃるかもしれません。人と人とが行き交うことで、新たな香りが生まれていく。そんな動きがある香りこそ、OCA TOKYOにふさわしいと考えています。驚き、感動、ひらめき、様々なものが結びつき、新しい価値が創られていく素敵な瞬間のそばに、心地よく寄り添えれば幸いです。

山内みよ

株式会社アロナチュラ代表取締役。スペースアロマスタイリスト。天然香料による調香をし、 ホテルや商業施設、クリニックなどに香りを演出。様々なシーンや空間に合わせ、香りによるストーリーを表現。天然成分の効能や意味を生かした構築型の調香を得意とする。自社ブランド『Aronatura』では、国内の間伐材を用いたアロマディフューザーが林野庁後援「ウッドデザイン賞」を受賞。様々な企業の香り商材の企画製造を行なう。aronatura.net

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