OCA TOKYO BLOOMING TALKS 027

天然水が担う、新時代の役割

Released on 2022.03.04

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

OCA TOKYOでも取り入れられている、紙パックウォーター「HAVARY'S(ハバリーズ)」。参加型SDGsアイテムとして、飲むだけにとどまらない新たなコミュニケーションを生み出しています。そんなハバリーズの若き代表でありOCA TOKYOメンバーの矢野玲美さんのサステナブルなビジネス感覚に迫ります。

家業も社会課題も、上向きにしていきたい。

── そもそもどのような経緯で新規事業を立ち上げたのでしょうか? もともと私の実家がファミリービジネスとして、ペットボトル入りミネラルウォーターを製造する会社を経営しており、祖母の代から大分県にある羽馬礼を中心に、複数の水源を持っていたんです。私も商社勤めと並行して家業を手伝っていたのですが、水業界はレッドオーシャンで、差別化が難しいうえに価格崩壊を起こしているような状況でした。家業はもちろん、業界全体を盛り上げていくためには、これまでの流れを大きく変える必要があると感じていました。そんな課題がある中で、世の中ではSDGsを通して脱プラスチックの流れが広がっていました。海外ではペットボトルではなく紙パック入りでミネラルウォーターが売られていて、商社時代にも飲む機会が多々ありましたが、日本には紙パック入りの水はまだ売られていない…。であれば、日本初の紙パックのミネラルウォーターを私たちでつくろう。そう思い立って、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催までのローンチを目指して、駆け足で進めていきました。

── コロナ禍での新規事業立ち上げは、大変だったのでは? そうですね。2019年の秋ごろから準備を始めて、製造が決まった段階がまさにコロナ禍の真っ只中だったので大変ではありました。しかし同時に、ステイホームがあったことで私たちがどれだけの量のペットボトルを消費しているかを目の当たりにすることができました。多くの人が自分の暮らしを見つめ直すきっかけになったのではないでしょうか。やがて社会全体のSDGsへの取り組みも加速し、消費動向も変化してきたことが追い風となり、ローンチ当初からメディアに取り上げられる機会に恵まれ、大きな注目を集めることができたと思います。

ハバリーズの要となる2つのポイント。

── 商品開発をした際に、こだわったことを教えてください。 2つの点にこだわりました。1つ目が資材の調達です。「紙パックの水」と言っても既存の牛乳パックをそのまま使っては、ミネラルウォーターに特有の匂いが移ってしまいます。日本で紙パックのミネラルウォーターが売れなかった理由がまさにそこだったので、資材のリサーチやパッケージ会社探しにかなりの時間をかけ、最終的に日本テトラパック社が開発した紙パックに。100%再生できるうえにアルミの特殊フィルムが内側に貼られているので匂いが移らず、賞味期限も大幅に延ばすことができました。
2つ目はブランディングです。水は、そもそも差別化が非常に難しい商品です。さらに「水はタダで飲めるもの」という消費者の感覚もあいまって薄利多売になりがちでした。また、単純に水の容器をペットボトルから紙に変えただけでは、競合他社や大手企業が参入した際にすぐに追いつかれてしまいます。そこでSDGsへの取り組みや環境配慮に対する意思表示ができる「コミュニケーションツール」としてブランディングすることにしました。

── 実際にブランディングによる手応えは感じていますか? SDGsの取り組みとしてハバリーズを選ぶというお客様がほとんどなので、こちらの意図は伝わっていると感じています。環境配慮を掲げる企業の担当者に「今週、環境のために何かいい選択をしましたか?」と伺うと、具体的に答えられる方はほとんどいません。これは、まだまだSDGsを当たり前のこととして企業文化に落とし込めていないということです。そんな状況で、会議に出すミネラルウォーターをペットボトルから紙パックに変えることは、SDGsの入口として非常に具体的で気楽なアクションとなります。このように、環境配慮されているものを選ぶことが当然となっていく動きが、今後も広がっていくのではないでしょうか。

気楽に始められる。だから、広がっていく。

── 新しい市場を開拓する際に、意識したことはありますか? 相手に寄り添って伝えるように意識しました。エコな取り組みは共感を呼びますが、馴染みのない相手に強制しすぎてしまうとサステナブルではなくなる可能性も孕んでいます。まずは「サステナブルアイテムを選ぶだけでも、環境配慮の意思表示になる」とハードルを下げて伝え、個人も企業も、ストレスにならない範囲で、自然な形で環境問題に取り組めるように提案しています。
一方で、すでに当然のこととしてSDGsに取り組む企業もありますから、その先のリサイクルの回収やドネーションをどのようにしていくのか、具体的に提示する必要もありました。そこでハバリーズでは、ライフサイクルアセスメント(LCA)という環境影響評価の手法を用いて、原材料から製造、出荷されるまでのプロセス全体に対して評価し、「ペットボトルのミネラルウォーターに比べ、ハバリーズの商品は56%のプラスチックが削減されている」、「地球温暖化リスクは40%低減されている」と、具体的な数値を提示し、ハバリーズを選ぶことで起こる環境へのメリットを見える化しました。このように事業を持続可能にしていくために利益を生み出しながらも、最終的な回収までサポートしていこうという考えで慎重に戦略を立てていきました。

── 330mlという飲みきりサイズなのも、取り入れやすく感じます。 ありがとうございます。まずは会議や販促品などで利用することを想定して330mlの飲み切りサイズにしたのですが、環境配慮の視点で見ても良いサイズだと思っています。飲み切れずに容器に残ってしまった水は、リサイクル時の邪魔になりますし、少しでも飲み残しを軽減できれば、水という資源を守ることにもつながりますから。

── ハバリーズがスピード感をもって展開できた理由はどこにあると思いますか? 時代が後押ししてくれたことはもちろん、家業を通して業界特有の暗黙のルールや市場動向を把握できていたことで、「まずは始めてみる」ことができたのだと思います。さらに、まだ商品がないコンセプト段階から「私はこういうものをつくります」と宣言し、草の根的に営業していて、そのときに興味を持ってくださった皆さんが、商品化をすごく喜んでくれたんです。そうした嬉しいリアクションが口コミにもつながったのかもしれません。さらに動き出した後も、キャップをポリエチレンから100%植物由来のサトウキビ樹脂に変更するなど、何を優先させるかを都度判断したこともスピーディな商品化につながったと思います。

── SDGsに対して意識の高い企業や人から注目を集めるのも納得です。 ありがとうございます。SDGsの原則として、「誰ひとり取り残さない」という考え方があるのですが、水は誰でも飲むものですから、TPOや好みに関係なくあらゆるシーンで適応できます。私たちは今後も、取引先の大小にかかわらずハバリーズを提供していきたいと思っていて。その大きな経済圏に加わることで、より多くの人にハバリーズが届けられると考えていますし、本物のサステナブルな流れをダイナミックに創ることができると信じています。

── ローンチから2年弱ですが、新たな動きは生まれましたか? 最近は、教育現場への導入が進んでいます。実は最初に「SDGsのビジネスモデルの事例として授業で取り上げたい」という連絡をいただいたのは、高校生の方からでした。立ち上げ当初は想定していなかったターゲット層だったので、嬉しい驚きでしたね。そして子どもたちと接すると、価値観や感覚が全く違うことがわかりました。子どもたちはSDGsもLGBTQ+も当たり前のこととして捉えているので議論も先進的ですし、私たちもたくさんの学びと気づきを得ています。

OCA TOKYOは、バランス感覚を培える場所。

── 矢野さんの今後の目標についてもお聞かせください。 まずは、これまで様々な人たちとビジネスを展開することができ、おかげさまで私自身もビジネスマンとして成長できたと思っています。我が子のようなハバリーズに私自身が育てられている、そんな感覚もありますね(笑)。そして今後についてですが、ハバリーズは、気候変動や海洋汚染など環境問題の観点はもちろん、事業承継、教育、女性のエンパワーメント、地方創生など、様々な観点からアプローチすることができると考えています。とある行政とタッグを組んで水道関連事業にも取り組んでいますし、何かしら社会課題に効果的なインパクトをもたらすことを意識して動いています。

── 最後に、OCA TOKYOで今後やってみたいことを教えてください。 近年、様々なコミュニティサロンが生まれていますが、OCA TOKYOはプライベートクラブとして洗練されているにも関わらず、ハードルが高すぎることも、カジュアルすぎることも、年齢層に偏りがあることもない。とてもバランス感覚の良い場所だと思います。しかも、かなり早い段階からハバリーズを導入していただいており、新しい価値観をキャッチして受け入れる柔軟性と積極性を感じました。私自身も家が近いのでたびたび利用していますが、今後はSDGsをキーワードに他業種の方を交えた意見交換会など、様々なイベントを企画していきたいと思っています。社会貢献を軸にした価値の創造。そんなテーマを、OCA TOKYOメンバーの方々と一緒に考えていけたら嬉しいですね。

矢野 玲美

株式会社ハバリーズ代表取締役社長

1993年、京都市生まれ。大学卒業後、技術系商社に入社。中東プロジェクトを担当しながら、家業であるペットボトル入りミネラルウォーターの製造会社で役員も務める。2018年、25歳で事業承継し、2020年6月にサステナブルな紙パックウォーターを扱う株式会社ハバリーズを起業。

Archives