OCA TOKYO BLOOMING TALKS 028

料理人の未来を拓く

Released on 2022.03.04

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

モダンフレンチレストラン『unis』のシェフとして、unisに併設する『Social Kitchen TORANOMON』(以下Social Kitchen)のディレクターとして、さらには多種多様な食に関する企画を手がけるカリナリープロデューサーとして。これまでの“料理人”のイメージに留まらない多彩な活躍をされているほか、OCA TOKYOにオリジナルスイーツをご提供いただいている薬師神陸さんに、ニューノーマル時代における料理人の在り方や、これからの可能性などについてお話を聞きました。

交流が生まれる場にふさわしいスイーツを。

── まずはOCA TOKYOへご提供いただいているスイーツについて、どのように考案されたものなのかお聞かせください。 まずは、OCA TOKYOを利用される方々の年齢層や男女比などを把握するところからレシピの考案をスタートしました。その結果として、毎日食べたくなる、それでいてちょっと懐かしさも感じられるようなアクセントを持つお菓子を揃えようと思い、いくつか提案させていただきました。

── それぞれのスイーツの具体的な内容についても教えてください。 1つ目が、愛知県のたまり醤油を使った「たまり醤油ブラウニー」。甘さの中にほどよい塩気を感じるようなブラウニーになっていて、スイーツを手に取りづらいという男性の方にもおすすめしたい一品です。2つ目が「黒胡麻クッキー」。通常は小麦粉で作るサブレ生地の半分以上を胡麻で作っているため、風味豊かな一方、形は崩れやすいというかなり攻めたサブレになっています。3つ目が「生姜フィナンシェ」。生の生姜を練り込んでいて、噛むと生姜がふわりと香るような、紅茶にもお酒にもあうフィナンシェです。4つ目が、ストロベリーの果肉をたっぷりと練り込んだ「ベリーベリースコーン」。こちらは今回提供したスイーツの中でも、唯一ヒートアップしてご提供する温かいスイーツとなっています。

── それらのスイーツを通じて、OCA TOKYOにはどのような場所になってほしいと思われていますか? やはり人が交流することで付加価値が生まれる場所であり、ご紹介によってどんどんファンが増えていく場所だと思いますので、世代や職種を飛び越えてコミュニケーションが生まれたり、そこに新しい仕事やクリエーションが生まれたりする場所になるといいですよね。場づくりという意味では、私が現在展開しているSocial Kitchenともシナジーがあると思うので、今後とも一人の料理人としてはもちろん、カリナリープロデューサーとしても何らかの形で携わっていけたら嬉しいです。

コロナ禍に届いた、世の中からのSOS。

── 薬師神さんが立ち上げたunisとSocial Kitchenについて、それぞれの特徴を教えてください。 unis は、“ハレの日の8席限定のシェフズテーブル”をコンセプトに、2020年12月にオープンしたモダンフレンチレストランです。その特徴の1つが、週4日のみの営業ということ。残り3日は、スタッフ一人ひとりが自分自身のためのインプットや外部の案件など、別の時間に充てる方針になっています。Social Kitchen は、unisに併設する料理人のためのビジネスプラットフォーム。いわゆるシェアードキッチンで、現在40名ほどのパートナーシェフが登録しています。基本的に無料で利用できるのが大きな特徴で、企業とのコラボやメニュー開発といった案件が発生し、そこで生まれる利益をレベニューシェアの形でキックバックしてもらうという料金体系になっています。新たな世代の新たな働き方という観点からも、この場がより多くの方々に認知されるよう活動しています。

── Social Kitchenが、新たな料理人のプラットフォームとして注目を集めた一番の要因は何だと思いますか? やはり新型コロナウイルスの影響が大きいです。飲食店が通常稼働できなかった中で、シェフたちは現実問題として新しい活動の場を探す必要があった。同時に多くの企業もニューノーマルに合わせた新しい企画を打ち立てなければならず、生産者の方々も、食材の在庫を大量に抱えてしまっているといった課題を抱えて困っていた。そういった食に関わる方々のSOSが、ここに集まったんです。Social Kitchenにいるメンバーはそもそも全員がミレニアル世代以下のシェフであり、社会貢献への意識や意味のあるものづくりへの熱量が高い世代なので、実際に多くのSOSに対する突破口として、レトルト食品や缶詰などのプロダクトが生まれる結果になりました。

── この場を立ち上げたきっかけは、コロナが影響されているのでしょうか? いえ、立ち上げ当初の想いはあくまでも、若い世代の料理人同士の新たな交流や意見交換、そして新たなビジネス創出の場をつくりたいというものでした。これまでは、例えば中華のシェフと和菓子のシェフとが関わることもなければ、バーテンダーさんとパン屋さんとが関わることも通常はあり得ませんでしたが、Social Kitchenでは、異なるジャンルの人たちが一緒にイベントを企画したりプロダクトを設計したりしながら、よりスピーディに実現できるようになった。この事実自体がとても意義のあることだと思っています。

レストランに対するプライオリティの変容。

── 現在取り組まれているプロジェクトとして、特に興味深いものがあれば教えてください。 今まさに取り組んでいて私自身も面白いなと思っているのは、お客様のゲノム(遺伝子)情報を用いたレストランをつくるというプロジェクトで、大手広告代理店とタッグを組んで進めています。具体的には、レストランを予約すると、まずゲノムの検査キットが送られてきて、それを返送いただくことによって、ご来店当日に遺伝子レベルでアジャストした料理をご提供するというもの。さらにこのレストランにはスタッフが誰一人立たず、全てをロボットによって提供しようと計画しています。そんな環境で、人は美味しいと感じるのか…?というのが1つのテーマです。ただこれにはすでに仮説が立っていて、きっと美味しくは感じられないだろうと私たちは思っています。

── 人の温かみがないから、でしょうか。 まさにその通りで、どんなに好きな料理で、それが遺伝子レベルで美味しいものであっても、やはり食とは人ありきであるという気づきを与える場所になるのではないかと想定しています。もちろん、実際にやってみなければわからない部分もあるので、だからこそ楽しみなプロジェクトですね。こういった一風変わったアプローチも、カリナリーのひとつの形だと思っています。

── 薬師神さんご自身の、食や料理人に関する感動体験があればぜひ教えてください。 感動という意味だと、実はunisをオープンしてからの方が感じることが多いですね。というのも、unisは“ハレの日のレストラン”を謳っている場所なので、例えばいらっしゃったお客様4組の内、3組のお客様がたまたま同じ誕生日だったり、「入籍したので来ました」というお客様がいらっしゃったり。目の前でプロポーズをするお客様もいらっしゃいましたね。決して大げさではなく、毎日がお祝いの場になるので、そのお手伝いをさせていただける私たちもとても幸せですし、unisを始めて良かったと思っています。

── まさにコンセプトが明確であるからこそのエピソードですね。 最近はレストランに対して、一部のフーディたちが、予約が取れないお店の予約を取ること自体をステータスにしてしまっている側面もあると思うんです。そういった方々は、例えばお寿司屋さんでお寿司が目の前に出されても、ずっと写真を撮っていたり、おしゃべりをやめなかったり、といったケースも…。もちろん極端な例ですが、そもそも食を目的としていないお客様の前では、作り手としてはモチベーションが下がってしまうものです。その点、unisの場合には明確なコンセプトを掲げているからこそ、本来の食べることや大切な人のお祝いをすることを一番のプライオリティとしている方々が、このお店を選んでくださっているんだろうなと感じています。

料理人の見本となる料理人を増やしたい。

── これからの時代、料理人や食に関わる方々がより幸せになるためには、どのような発想が大切になると思いますか? 一番大切なことは、シェアの発想だと思っています。OCA TOKYOの「人生を謳歌する」というコンセプトとも通ずる部分がありますが、料理人がその人生を謳歌する場所とは、やはりキッチン。であれば、そのキッチンを閉ざされた場としてではなく、料理人同士が自身の培ってきたスキルやアイデアをシェアし合えるオープンな場所にすることが必要なのではないでしょうか。その結果として、料理を作ることでお金をいただくという従来の働き方だけではなく、別の形でのクリエーションでもお金をいただけるような料理人が増えていくことになればいいと考えています。

── そうなれば、料理人の方々の働き方自体も大きく変わりそうですね。 unisのように、週4日営業で週3日はインプットに使おうという飲食店も今後は増えていくと思いますし、その他にも、レストランの業務が6割、他の仕事が2割、休みが2割というケースもあるかもしれません。ワークライフバランスや働き方改革が、業種・職種を問わず広く浸透しつつある今、これからは料理人の生き方のサイクルもそちら側にシフトしていくのではないでしょうか。そうなったときに料理人に必要なのは、やはり新たなアウトプットができる場所。その一つの候補として、Social Kitchenがこれからも機能していけたらいいなと思っています。

── ちなみに薬師神さんご自身は、unisやSocial Kitchenでの活動を通じてどのような未来を実現していきたいと考えていますか? 料理人という仕事のステージアップを考えたときに、これからの料理人の見本になるような料理人を増やしていきたいです。それこそunisを手伝ってくれているスタッフたちが独立したときや、Social Kitchenで活躍してくれているメンバーたちが数年後に新しいお店を持ったときなどに、彼ら彼女らが「〇〇さんのもとで働きたいと思ってきました」と言ってもらえるような存在になっていたら、私にとってこれほど嬉しいことはありませんね。

薬師神 陸

シェフ・カリナリープロデューサー

1988年、愛媛県出身。6歳で父を亡くし、働きに出ている母や幼い弟に料理を作り始めたことが原点。宮大工の祖父がかつて料理人を目指していたことも影響し、高校卒業後は辻調理師専門学校へ。卒業後は同校のフランス料理講師として活躍。2014年には『SUGALABO』の立ち上げから参画し、須賀洋介シェフの右腕として同店の人気を支えた。
2020年12月に『unis』を、翌月に『Social Kitchen TORANOMON』をオープン。

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