OCA TOKYO BLOOMING TALKS 030

哲学と新世代

Released on 2022.03.18

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

一種のブームと呼べるほど、近年注目を集めている「哲学」。大学で哲学を学び、哲学を活用した事業やITサービス開発事業を行なうOCA TOKYOメンバーの吉辰桜男さんは、この現状をどう見ているのか。哲学的思考をベースにしながらも、20代ならではの視点も織り交ぜた刺激的なお話を聞かせていただきました。

就職はリスク。

── 吉辰さんが「哲学」に出会ったきっかけを教えてください。 哲学のことを体系的に学んだのは大学が初めてでしたが、振り返ってみれば、もともと哲学的な思考を好む性格だったように思います。小学校3年生の頃に「死」という概念に疑問を持ち、大人たちに聞いてまわったことがありました。すると誰もが「天国があるんだよ」とか曖昧に答えるばかり。「ウソじゃん!」と思っていましたよ(笑)。将来確実に訪れる「死」に、なぜ誰もきちんと対峙しないのかと、モヤモヤを抱えていました。

── すごい小学生ですね。そんな少年が、その後どのようにして哲学に惹かれていったのでしょうか? 高校がイギリス式インターナショナルスクールだったのですが、そこでは議論する機会がとにかく多くて。しかも、答えを出す議論ではなく「なぜこう思うのか」といった具合に、問いに問いを重ねていくようなスタイル。そんな物事を深掘りしていく姿勢が自分に合っていると感じ、徐々に哲学に惹かれていきました。

── 大学で哲学を学び、在学中に起業されたそうですが、その経緯を教えてください。 僕はそもそも、哲学はスキルセットだと思っていました。考える力を鍛える学問だから、どんな世の中でも通用するスキルだろうと。海外には哲学的思考を軸としたコンサルティング企業も存在しますし、イギリスでは哲学を学んだ人の多くが大企業や国の機関で活躍しています。海外では、哲学が教養として社会から必要とされているのです。翻って日本だと、哲学を学ぶのは少し変わった人であり、実用性がない学問、というイメージがあります。そのギャップに「これからは絶対に日本でも哲学が必要とされる」と感じて、思い切って起業しました。

── 起業には当然リスクもあるように思うのですが、就職という選択肢はなかったのでしょうか? なかったですね。今の時代、会社なんていつ潰れるかわからないですし、そこで得たスキルが将来的に役立つかどうかも不透明。それよりも哲学的思考による価値提供は、長期的視点で見ても必要性を感じたので、自分ではむしろ就職こそリスクであり、そのリスクのない道を選んでいるつもりでした。

哲学は、訓練で身につけるもの。

── 昨今、ビジネス界隈でも哲学は注目されていますが、そんな現状をどう感じられていますか? 嬉しい反面、哲学に対する誤解も多いと感じます。例えば「ニーチェの思想」に感銘を受け、それをただ真似てみることは、哲学的姿勢とは少し違うものです。どちらかと言えば「ニーチェはこう言っているが、本当だろうか」のように疑問と論証を繰り返すこと自体が哲学です。まさに僕が高校時代に議論していたように、問いに問いを重ねて、問いを深化させていくことこそが、哲学の本来の在り方だと考えています。

── 特にビジネスでは、性急に答えを求めてしまいがちな気もします。 決して「哲学でお悩み解決!」みたいなことではないのです。哲学は、問いを深めることで、新たな発見や価値創造につなげていくもの。加えて、訓練が必要なスキルなので、数冊本を読むだけで身につけられるようなものでもありません。疑問を持ち、それをオープンな対話で深めていくことで少しずつ体得していくことができます。もちろん歴史上の哲学者たちは問いに問いを重ねてきた結果を本などに残しているので、参考になるものもたくさんあります。事業でも、そうした先哲の知恵を課題解決のサポートとして使うことはあります。

── 実際のビジネスではどのようにして哲学が役立てられるのでしょうか? ある企業から「若手社員のエンゲージメントを高めたい」というご依頼を受けたときのこと。彼らはもともと「10年後のビジョンを持たせれば、若者は積極的に社内で活躍してくれるはず」と考えていました。ところが、実際に僕たちと若手社員を交えたオープンな議論の場を設けたところ、その考えはまったくの見当違いでした。「ビジョンを持ちたくない」とか「固定した生き甲斐は重荷になる」といった趣旨の発言が複数の若手社員からあったのです。生まれながらにして変化の激しい時代を生きてきた若手社員たちにとって、10年後などわかるはずがないという感覚だったのでしょう。正直、今の時代で10年後を正確に予測できる人はまず存在しません。「夢や生き甲斐を持たせようとする」という施策は、若手社員たちに対する押し付けでしかなかったと、その場で気づくことができました。

── 今の若者らしい考え方かもしれませんね。 そうですね。結局この会社のケースでは「若者にどうやってビジョンを持たせるか」ではなく「短期的な成長の実感や他職種の経験を推進することで、エンゲージメントを高める」という結論に落ち着きました。課題を見誤れば、いつまでも問題は解決しません。このケースの場合、「10年後のビジョンを持たせる」という暗黙の前提を疑うことで、より本質的な課題を設定することができたのです。

意味や価値の追求が必要な今の時代にこそ。

── 改めてお聞きします。今、そしてこれからの時代になぜ哲学が求められていると思いますか? 戦後などは、とにかく経済成長をしようと目の前の課題に対して誰もがわかりやすく行動できた時代だったと想像できます。しかし今は物質的な豊かさより、意味や価値の追求が必要とされる時代。ビジネスでも、より抽象的な課題や、そもそもの問題提起を始めるところを求められており、そんな時代だからこそ哲学的思考が重宝されているのではないでしょうか。

── 今までと同じアプローチのビジネスは通用しなくなってきている、ということですね。 その通りだと思います。目まぐるしく変化する社会において、未来を予測することはどんどん難しくなっていきます。外部的な変化を完全には予測できなくなるなか、複雑な課題の本質を突き止めたり、自分たちの内なる理想を突き詰めたりすることが非常に重要。そういった柔軟な姿勢やバランス力も必要だと感じます。

── 吉辰さん本人としては、どんな理想を掲げていますか? 日本に哲学的思考をもっと浸透させることが理想のひとつです。また、2020年にはウェブサービス開発会社を立ち上げ、現在はZEFTというギフトを取り扱うサービスに注力しています。簡単に言えば、ギフト商品を3つ選ぶことで、送りたい相手がその3つの中から1つを選んで受け取れるサービスです。選ぶ側の時間や決断のコストも減らしながら、受け取る側の「自分のために選んでくれた」という感触も大切にしています。目指しているのは、ギフトのショップではなく、ギフトを贈る行為自体をより良いものにするツール、もしくはコンシェルジュ的な立ち位置です。ギフトは本来、贈る側ももらう側も楽しいことであるはず。でも自分だけのことではないため、選ぶ難しさがあり、ミスマッチの可能性が大きい。そこにこのサービスの可能性を感じています。

── このサービスにも哲学が関係しているのですか? ギフトという行為自体「時間をかけて選んだ」「手に入りにくいものを手配した」など、多くの場合、冗長性が評価される側面があります。闇雲に便利さばかりを追求したギフトサービスでは、むしろギフトの喜びは失われることすらある。そのため、ギフトにおける文化やマナーとはそもそも何なのかといった、答えを出しにくい要素にアプローチする必要が出てきます。そうしたスペキュラティブな発想に基づいたサービス設計は、哲学的な思考と関連しているかもしれません。結局のところ、僕は問題提起することが好きだということで、幼少期から変わらないですね。

一緒に問いを深めましょう。

── 普段、OCA TOKYOはどのように使われていますか? 平均すると週1、2回は訪れています。テレワーク中心なのでここで働くこともあるし、仲間やお客様との打ち合わせにも利用しますね。1人のときは、頭の整理をするのに最適な場所です。思考が行き詰まったら外の景色を見てひと息つくのがルーティンになっています。

── 仕事にもリラックスにもうまく使い分けていらっしゃいますね。 アクセスも良くて便利だからたくさん来てしまいますね。あとは6階のバーカウンターで、たまに1人で飲むのですが、バーのスタッフの方に中国と関わりがあることを話したら、中国の白酒(ばいじょう)を仕入れてくれていて嬉しかったですね。中国の方にとても喜んでいただけるお酒なので、いつか中国から人を招いてご馳走したいと思っています。こうして人と会うこと、話すこともそうですし、館内に置いてある一つひとつのモノに発見があって刺激的です。きっと客観的にみても、僕は相当OCA TOKYOを楽しんでいると思います。

── OCA TOKYOで今後やってみたいことなどはありますか? せっかく素晴らしいメンバーがいらっしゃるので、哲学的思考を用いて語り合うイベントは企画してみたいですね。定期的に、お酒を片手に気軽に来られるような。毎回テーマを設けて、その領域の哲学の専門家をお招きするのもいいかもしれません。様々な方との出会いを楽しみながら、「問いを深める」という行為をこの場所から広めていけたら嬉しく思います。

吉辰 桜男

クロス・フィロソフィーズ株式会社/ENVLOP株式会社

上智大学哲学科卒業。在学時、哲学科の講師とともに、哲学的思考によるコンサルタント業を行なうクロス・フィロソフィーズ株式会社を創業。2020年にはITギフトサービスを手がけるENVLOP株式会社を立ち上げ代表取締役CEOに。20代にして2社の経営幹部を務めながら、日々精力的に活動している。

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