SELECTED EVENTS 008

抱きしめて、心を解かして

Released on 2022.04.01

児童婚/強制結婚の慣習にラップミュージックで抗う、アフガニスタン出身の少女を追ったドキュメンタリー映画『ソニータ』。OCA TOKYOでは2月22日、本作品を上映後にトークショーを開催しました。今回はトークゲストの一人である俳優のサヘル・ローズさんにインタビュー。この映画で感じたことや、ご自身の生い立ち、個人での支援活動を通じた思いについてお話を伺いました。

俳優 サヘル・ローズ

1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、映画、舞台、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。芸能活動以外にも、国際人権NGO「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めた。今後も世界中を旅しながら、難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンといった子どもたちとともに生きていくことが目標。

大人たちを救うことで、救われる子どもたちがいる。

── サヘルさんは、この映画からどのような刺激や気づきを得ましたか? 改めて思ったのは、ソニータはすごく強い子だということ。彼女が歌うラップの言葉、プロモーションビデオ、そして音楽の力をすごく感じました。きっとソニータが世界中に受け入れられたのは、音楽を嫌う人が世界にいないからではないでしょうか。

── 俳優でもあるサヘルさんは、映画や音楽をはじめとするアートにどのような可能性があると思いますか? アートやエンターテインメントは、声を届けられない人たちの代弁者になれる1つの武器。しかも、銃のように命を奪うことなく、人の心に訴えかけることができます。特にドキュメンタリー映画が優れているのは、作品を通して人々の生活を覗かせてもらえるところ。例えば、ニュースだけだと断片的にしか伝わらないことも、ドキュメンタリーであれば当事者の生活を感じながら思いを巡らせることができますよね。

── 日本で生活しているとキャッチできない問題を知る。そんなきっかけになる映画だとも思いました。 彼らの風習や生活を感じながら、問題を考えるきっかけになる映画でしたね。日本で生活していると、温かい食事や安全に寝ることができる場所など、すべてのものが当たり前にあると感じてしまいます。でも実は、当たり前ってどこにも存在していないと私は思っています。世界を旅して難民キャンプを訪ねても、彼らは路上生活することが当たり前、水道がなくて雨水を飲むのが当たり前です。この映画で言えば、母国の情勢が不安定で、親が娘を売る風習があって、女性が歌を自由に歌ってはいけない。それがソニータの当たり前。みんなそれぞれ違った当たり前の中で、懸命に生きているのではないでしょうか。

── サヘルさんは、児童婚の根本的な問題はどこにあると感じますか? ソニータのお母さんは、自分が児童婚で結婚しているにも関わらず、娘を売ることに対してまったく悪意がありません。10代のうちに結婚させれば、ソニータの生活を守れるし、家族にもお金が入ってくる。その選択肢しかないと信じてしまっている被害者の一人なんです。このような現状を解決するためには、正しい教育を行き届ける必要があるし、子どもたちを救う以前に、置き去りにされた大人たちを救う必要性を強く感じます。

── 現在、Facebookで本映画の主人公であるソニータさんとつながっているとお聞きしました。今の彼女の様子を見て、サヘルさんはどのように感じますか? 彼女の投稿を見ると、今もアメリカでラップを歌い続けていて、笑顔を見せてくれています。何より嬉しくなるのは、自分のことを売ろうとした母親を憎むのではなく、すごく大事に思っていること。私自身も孤児院の経験、貧困、差別といった体験を経て「許せる心を持ち続けること」を大切にして生きているので、とても勇気づけられました。どんな暴力や言葉に出会っても、その人たちを抱きしめて、心を解かして幸せにする。誰かを幸せにできることで、自分も生きていけると信じているので。

── サヘルさんの考える「人生を謳歌する」ために大切だと思うことがあれば教えてください。 自分の生い立ちの影響もあって、正直「人生を謳歌する」ということがわかりません。私を引き取ってくれた養母、活動を通じて出会う子どもたち、心でつながるファミリーが世界中にいて、そのファミリーを守るために毎日必死に生きています。いまだに生きることが苦しくて、ひどく落ち込むこともあります。それでも毎日誰かと出会って、その人に喜んでもらえると、その瞬間、自分が生きることに意味があると思えてくる。そういった意味では、毎日が謳歌なのかもれません。今日出会った人、明日出会う誰かから、私は「生きることの謳歌」をいただいているのかもしれないですね。

上映後のトークショーの様子。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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