OCA TOKYO BLOOMING TALKS 034

“いい人”という境地

Released on 2022.05.20

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

ファンドマネージャーとして確かな実績と信頼を築いてきた、OCA TOKYOメンバーの藤野英人さん。ビジネスで栄光も挫折も経験してきた藤野さんは、仲間には“いい人”であることを最重要視されています。“いい人”とはどんな人のことなのか、そしてその真意はどこにあるのか。コミュニティ活動や移住についてなど、多面的に質問を織り交ぜながら、藤野さんの人生観やそのお人柄に迫りました。

おばあちゃんが、倒れていたら。

── 藤野さんが金融業界に進もうと思ったきっかけを教えてください。 そもそも金融業界に行くつもりはありませんでした。大学時代は裁判官や検察官になりたいと考えていましたが、卒業時に司法試験に受かっていなかったので、2年くらいの社会勉強のつもりでたまたま入社したのが、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)でした。配属されたのは、中小企業に投資する部署。そこでは中小企業の経営者が毎日やって来て、約90分、自分の会社の話を聞かされるのですが、それがもう、苦痛で…(笑)。生臭いお金の話は多いし、きっとこの人たちは全員悪人だろうと。将来、裁判官か検察官になって「いつか全員暴いてやる!」と考えていたくらいです。

── 現在の活躍ぶりからはまったく想像できない姿ですね。 ただ、1年、2年と来る日も来る日もそんな話を聞いていると、少しずつ共感していき、いつしか「こういう人になりたい」と、憧れる存在に変わっていきました。彼らは私に対して90分間「靴下だけ」「水道の栓だけ」「コンドームだけ」など、自社の事業内容のことだけを延々と語ります。でもそれによって、身の周りのあらゆるものに深いストーリーがあると気づくことができました。世界がどんどんカラフルに見えるようになり、彼らの側に行ってみたい気持ちが日増しに膨れ上がって、2003年に起業を果たしました。

── 事業は順調に進みましたか? スタートから数年は順調で、会社の時価総額も30億円にまで達していました。しかしながら、ご存知のリーマンショックです。経営状況は一気に悪化。手元に残ったのは、1株1円で売却した3,240円のみ。なぜここまで失敗したのかを振り返りましたね。結果、ビジネスを優先するあまり相性やビジョンが合わない人とも一緒に働いていたことが間違いだった、という結論に至りました。これを機に、好きな人、信頼できる人、つまり“いい人”と、これからは仕事をしていこうと、気持ちを新たにした次第です。

── 藤野さんにとって、どのような人が“いい人”なのでしょうか? 簡単です。目の前でおばあちゃんが倒れているのを見たら、たとえ重要な仕事に間に合わなくても、他のことは一切考えずに真っ先に助ける人ですね。そうでなければ、少なくともうちの社員にはなってほしくないです。もっと言えば、その遅刻を許さないお客様は、お客様でなくてもいいとも思っています。目の前のおばあちゃんを助けること以上に、人として重要な仕事はないはずですから。

人間性と、キャピタリズム。

── “いい人”と聞くと、ビジネスにおいては頼りない印象もありますが。 むしろビジネス要素、つまり収益性で見ても“いい人”と働くほうが良いと考えています。ゴールドマンサックスに在籍していたときの話ですが、あの会社はセクハラやパワハラの類にめっぽう厳しく、それが発覚したらどれだけ優秀でも社長であっても即クビです。もちろん、仕事ができる人間がクビになれば瞬間的に業績は悪化します。しかし、長期的に見れば真面目な社員たちへの信頼を示す正当な判断なので、結果として収益はついてくるのです。当時の人事部長が「これは人権の尊重でもあるが、キャピタリズムでもある」と話していたのも、とても印象的でしたね。つまり人間性は、資本主義社会において非常に重要だということです。

── 藤野さんが“いい人”集団を率いるときに意識しているのはどんなことですか? うちの会社はものすごく自由です。そもそも僕が集団の中で強制されたり束縛されたりするのが苦手で。だから、僕も上司たちもほとんど指示を出しません。社員には自分のやりたいことを日々自由に提案してもらっています。それぞれが自立した集団として、自分の人生を自分で切り開いていける人の集まりであってほしいし、そのためのサポートはもちろん惜しみません。

── 社員の方には、自由ゆえの大変さもあるように感じます。 社員の主体性は最大限に尊重しつつ、「心身が病んでいないかどうか」は、常に注意して見ていますね。明確な指示がないことで、何をしたらいいかわからないと悩む人は、どうしても出てきてしまう。そうなったとき、その人がきちんと仕事ができる居場所を確保してあげることも大切だと考えています。

── 最近は、下戸の集まり「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」を立ち上げるなど、コミュニティ活動も精力的ですね。 僕はもともと、家で本を読んだり将棋を指したりするのが好きなインドア派で、バリバリ集団行動していくような人間ではありません。その一方で「社会がこうなったらいいな」という思いはあるので、それを実現させる手段のひとつとしてコミュニティの活動をしています。おかげさまでFacebookの「ゲコノミスト」グループは5,000人を超えましたし、他にも僕は日本最大級のピアノサークル「ツイッターピアノの会」の主宰もしています。会社も含めてどのコミュニティも特徴は、ゆるいこと。例えば「ツイッターピアノの会」は会員名簿も会費もない。いつ来てもいいし、いつ離れてもいい。時としてコミュニティは、ひとつの理想や考え方を盲信させるような強制力を感じます。そんな息苦しさが嫌で、常にゆるい集団形成を理想としていますね。

たった1回のキャンプが、移住のきっかけに。

── 最近東京から逗子に自宅を移されたそうですが、そのきっかけを教えてください。 遠因となっているのは、5年ほど前、スノーピークの山井太さんにキャンプに誘ってもらったことだと思います。当初はそこまで乗り気ではなく、山井さんが「キャンプとは人間性の解放だ」とカッコよく話されていたのですが、まったく響きませんでした。正直、マーケティングトークと思って聞いていました。実際に始まってみると、雨も降ってきて、寒いし、暗いし、心細いし…。参加を深く後悔しましたね(笑)。

── インドア派、でしたよね。 それで渋々テントの中に入って、暗闇の中でランタンの明かりをつけた瞬間、「なんだこの圧倒的な安心感は!」と、ちょっとした感動がありました。でも今度は、寝るのが不安です。普段は冷暖房完備の中、ふかふかなベッドで気持ちよく寝ていますから。布切れ1枚で覆われたテントの中、固い土の上で寝られるわけがないと。それでもシュラフ(寝袋)に入った瞬間に「なんだこの暖かさは!」と、だんだん魅力がわかってくるわけです。東京で寝ているときは、毎日夜中の2~3時に目が覚めて、マーケットの動きを見てもう一度寝るのが習慣になっていました。ところが、キャンプでは朝までぐっすり。鳥のさえずりで目が覚めたのです。この心地よさが「人間性の解放」なのか。そう認めざるを得ませんでした。

── 健康的であり人間的、そんな生活の再認識があったのですね。 その通りです。もともと僕はものすごく働く人間でした。ゴールドマンサックス在籍時は、365日労働かつ、火曜と木曜は寝ずに働いていましたから。何年か経つと案の定、体を壊してしまいました。でもそのおかげで、人にはそれぞれのキャパシティがあり、それを超えてはいけない。自分のキャパシティを守れない人は他人のそれも守れない、と気づくことができたのです。

── 藤野さんのお話からは、つくづく身をもって知ることの大切さを感じます。 そう、そこで逗子です。例のキャンプの後、自然が豊かな拠点を求めて逗子に別荘を設けました。何度か利用しているうちに、逗子だとテントの中のように朝までぐっすり眠れることに気づきまして。そんなときに、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが起こった。多くのことがリモートになり、オフィスに頻繁に行く必要がないことがわかり、思い切って東京の家を手放しました。今は焚き火ができる庭があって、海も山も近くて、とても健康的な生活が送れていると思います。

謳歌とは、楽しい方を選ぶこと。

── オフィスは今もここ丸の内にありますね。 そうですね。東京で仕事をする機会ももちろん多いので、家はいらないまでも、やはり拠点がほしいと考えていました。そこで思い出したのがOCA TOKYOです。以前からOCA TOKYOメンバーである渋澤健さんに誘われていたのですが、東京に家がなくなったことで、まさにベストな選択肢だと感じてメンバーになりました。

── OCA TOKYOのどんなところが気に入りましたか? オフィスも近いし、アクセスの良さももちろん知っています。ただ、仕事面での使い勝手だけではありません。レストランが美味しいのも大事なポイントです。お気に入りは、カニクリームコロッケ付きの大きなエビフライ定食(※)。赤だしの効いた味噌汁もいいですね。ナポリタンの上にハンバーグが乗った「大人のナポリタン」も、子どもの頃に食べたいと思った夢のメニューのようで最高です。味、価格、ボリューム、空間と、会食にも最適だと感じます。あとはピアノがある個室「Orchestra」があったことも大きな決め手のひとつ。コンクールの練習のために何度か使わせてもらいましたし、仕事でもプライベートでも楽しめる場所として最高だと思います。
※現在のメニュー表には掲載されていないメニューとなります。

── Book Barでは、ノンアルコールカクテルも提供しています。 僕自身が下戸なので、もっとノンアルコールのメニューがあっても嬉しいくらいですが、特にノンアルコールのジンは市場価値を含めて可能性があると思います。植物由来なのでフレーバーを楽しめますし、きっとこういう飲み方をしたいと思う下戸の方は多いと思います。OCA TOKYOでもそのうち下戸パーティーを開いてみたいですね。

── 藤野さんが人生を謳歌するために必要だと思う考え方を教えてください。 選択肢があったら、面白い、ワクワクする、楽しい方を選ぶことだと思います。先日、11歳の小学生から「ビジネスパートナーになってほしい」と連絡を受けました。詳しく話を聞くと、面白そうだと感じたし、すぐに快諾しました。もちろん、まだ売上はゼロなので給料もゼロ。他の会社からそれなりの報酬をいただけるポストにお誘いいただくことも正直多いのですが、それでも、小学生の起業家をバックアップすることのワクワク感が上回りましたね。僕にとっての楽しさは、やりがい、社会性などにも通じています。楽しいことをしている方が顔つきも良くなるし、パフォーマンスも高くなる。そして何より、楽しそうにしている人に、人は集まってきます。常に難しい、怖い顔をしている人より「なんだかいつも楽しそうにしているな」と思える人のほうが、一緒にいたいですよね? OCA TOKYOでもそうやって、楽しく、ゆるく、つながっていけたら嬉しいです。

OCA TOKYO Book Barで提供しているノンアルコールカクテル「ミント畑で捕まえて(The Catcher In The Mint)」。ミントを中心にスパイス、ハーブ、柑橘類を加えたヴァージンモヒートです。

藤野英人

レオス・キャピタルワークス株式会社

野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)などを経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。下戸が集うゲコノミクスや、日本最大のピアノサークル「ツイッターピアノの会」の主宰も務めるなど、コミュニティ活動にも精力的。2020年、逗子に移住。

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