SELECTED EVENTS 012

今こそブータンに学ぶ

Released on 2022.06.17

ブータン王国の山奥にある小さな村を舞台に、都会から来た若い教師と村の子どもたちとの交流を描いた映画『ブータン 山の教室』。OCA TOKYOでは5月20日、本作品を上映後にトークイベントを開催しました。今回はトークゲストである写真家の関健作さんにインタビュー。ご自身が撮影した写真を前に、ブータンの学校で体育教師を経験したときのエピソードをはじめ、ブータンの魅力や、近代化によって変化する現地の人たちのリアルなど、関さんならではの視点でお話を伺いました。

写真家関 健作

1983年生まれ、千葉県出身。2006年、順天堂大学スポーツ健康科学部卒業。2007年から3年間、ブータンの小中学校で体育教師を経験。2011年から写真家として活動する傍ら、一般社団法人アスリートソサエティのメンバーとして、東京五輪に参加するブータンのアスリートの支援活動を行なう。APAアワード2017写真作品部門 文部科学大臣賞、第13回「名取洋之助写真賞」、KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭2019ポートフォリオレビュー賞、FUJIFILM AWARD大賞などを受賞。

自分にできることを一生懸命やる。そこに心を打たれる。

── さっそくですが、今日着ている素敵な衣装について、まずご紹介いただけますか? これは「ゴ」と呼ばれるブータンの男性が身に着ける民族衣装です。ビジネスシーンで着るものなので、足元はソックスと革靴で着こなすのがポイントの1つです。体育教師として現地に赴任していた当時もこれを着て通勤していました。

── 現地で過ごす中で感じたブータンの魅力をいくつか教えてください。 まず僕が出会ったブータンの人たちは、皆さん楽天家であまり深く悩みません。ニコニコしながら冗談交じりで会話をするのでとても気持ちが明るくなります。あとは仏教的な価値観が自然に浸透していることも魅力だと思いますね。今でも覚えているのは、小学5年生の女の子が僕に飴を1つ渡して「今日は私の誕生日だから、私が生まれたことに感謝します。ありがとう、先生」と言われたこと。そんな習慣は日本にないのでとても驚きました。

── 今回の映画の主人公も教師でしたが、関さんはご覧になって率直にどのように感じましたか? やはり同じ教師という立場もあって、いろんなシーンに共感しましたね。村の子どもたちが先生を必要としているところ、学校の設備が充実していなくても手作りで揃えていくところは、当時の自分を思い出します。僕が赴任した学校も、最初は体育の授業をしたくてもパンクしたボールが1つあるだけ…。映画では黒板やバスケットゴールなどを手作りしていましたが、僕も教室のゴミを丸めてボールにしたり、生徒と一緒に山から竹を採って来てハードルを作ったりしていました。

── 映画の中で印象に残っているシーンがあれば教えてください。 村長の言葉で「この国は世界で一番幸せな国と言われているそうです。それなのに先生のように国の未来を担う人が幸せを求めて外国へ行くのですね」というセリフですね。ブータン出身である監督自身もこのセリフを届けたくて映画にしたのでは? そう思うくらい印象に残りました。自分たちのアイデンティティに今こそ誇りを持とう。そう呼びかけているようにも感じました。今年のアカデミー賞にノミネートされたこともブータン映画史上初の快挙ですし、監督自身もこの映画を通じてその誇りを体現したのではないでしょうか。

── ブータンのリアルという意味で、最近のブータンについてもお聞かせください。 ここ15年でブータンも近代的になりグローバル化が進みました。都市部では交通渋滞も起きますし、ディスコやクラブも増えています。インターネットも普及してスマホで世界中の情報を手に入れることもできます。僕自身、オーストラリアに移住したブータン人への取材や、ブータンのヒップホップカルチャーをテーマに撮影をする中で感じているのは、近代化するブータンを歓迎する若者と、問題視する敬虔な仏教徒の人たちという二極化が起こっていること。どちらが正しいかを判断することは非常に難しいですが、少なくとも「世界一幸せな国」と言われるブータンでも、いろんな思いで揺れ動く人たちが懸命に生きていることを感じます。

── 時代の変化が激しく、天災、ウイルス、戦争など不安定な状況が続く世界の中で、改めて私たちはブータンから何を学ぶべきだと感じますか? 世界のどこかで良くない出来事が起こったとき、ブータンの人は必ずお祈りをします。それも真剣に。東日本大震災では国中のお坊さんが集まってお祈りをしましたし、国王夫婦も被災地に訪れ祈りを捧げました。そんなことをしても誰も助からないじゃないかと、冷たい目で見る人もいるかもしれません。それでもその純粋な姿勢を見ていると、現実に悲観するでもなく、見て見ぬふりをするでもなく、自分にできることをただ一生懸命やっているようにも見えて心を打たれます。近代化が進んでも変わらないそんな姿勢に、学ぶべき大切なものがあると僕は思っています。

── 最後に関さんが、人生を謳歌するために大切にしていることを教えてください。 やはり自分が夢中になれるテーマで撮影や取材をしているときが、僕にとって人生を謳歌している瞬間なので、そのために大切なのは、自分にとって心地よい環境に身を置くことだと思います。実は最近、丹沢山脈のふもとに引っ越したんですが、今の環境が大好きなブータンと重なって居心地がいいんです。現地の家庭と同じように薪ストーブを自宅に置いたりして生活を楽しんでいます。そうやって日々の暮らしを充実させながら、そのエネルギーを今後の創作活動につなげていけたら嬉しいです。

ダルシンという、死者を弔う経文が書かれた108本の旗の写真。
「風になびくことで空気中に祈りが広がる。そんな目に見えないものをブータンの人たちは信じています(関)」

ヒップホップカルチャーの撮影と取材は、学校の教え子がラッパーになったのがきっかけ。
「ヒップホップは、彼ら自身の拠り所だったりもしますね(関)」

トークセッションでの様子。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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