OCA TOKYO BLOOMING TALKS 043

楽観力が、未来を拓く

Released on 2022.08.19

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

軽井沢にある全寮制国際高校ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(以下UWC ISAK)の代表理事を務めるOCA TOKYOメンバーの小林りんさん。「チェンジメーカー(変革者)を育てること」を信念とするUWC ISAKでは、どんな教育が行なわれているのか。小林さんが多様性や主体性を重んじる背景や想いが、あふれる熱意とともに伝わってきました。

学校は、永遠に完璧にならない。

── 小林りんさんが代表理事を務める「UWC ISAK」の概要を教えてください。 長野県軽井沢町にある全寮制のインターナショナル高等学校で、80以上の国から多様なバックグラウンドを持つ生徒たちを受け入れています。現在の生徒数は200人。そのうち7割の生徒が返済不要の奨学金を受けていることも大きな特徴のひとつです。私たちが大切にしているのは「チェンジメーカー」を育むこと。どんな状況でも行動を起こし、ポジティブな変革をもたらすことができる若者を多く生み出すため、日々多様なカリキュラムのもと教育を行なっています。

── 開校が2014年なので、そろそろ卒業生たちが社会で活躍している頃かと思います。成長した「チェンジメーカー」を何人かご紹介いただけますか? 生徒たちの進路や、やっていることがあまりにも多様で絞り切れないのですが、例えば、イギリスの大学に行きながら母国で政党を立ち上げ、その傍らスタートアップ企業でマネージャーを務めているスロバキア人の卒業生がいます。現在も政党での活動を継続しながら、会社で300人ほどの部下の管理を任されているそうです。あとは、在学中からドキュメンタリーフィルムに興味を持っていたフィリピン人の女の子は、卒業してから現在はロンドンで100人規模のアーティストを組織して「フィルム×アート」というテーマで展覧会を主導しているそうです。他にも宇宙領域やバイオテック、はたまた国際協力関係など、様々な領域で活躍している教え子たちがいますが、総じて言えるのは、みんなそれぞれが「好き」や「得意」を明確に持っていたこと。卒業後もその興味を主体的に深めながら、自分らしく輝いています。

── 皆さん、行動力があって積極的なパーソナリティが伝わってきます。 彼ら彼女らと話すと、人生を楽しんでいるのが伝わってきます。決して順風満帆ではないですが、失敗した経験を涙ながらに、あるいは笑顔で語ってくれます。私たちもまだまだ駆け出しの学校として、より多くの生徒たちに自分らしい人生を歩んでほしいと願っているので、そのために学校側も変わり続けなくてはと動いているところです。

── 具体的にどのように変わろうとしているのでしょうか。 私たちの教育カリキュラムに、実践的にリーダーシップを身につけていく「リーダーシップ・プロジェクト」というものがあるのですが、それをゼロベースで再構築中です。より一人ひとりに寄り添った教育のパーソナライズ化を図るために、先生や生徒、卒業生までヒアリングを進めていて、自分たちがこれまでやってきた成果を振り返ると同時に、再構築のために改善しなければならない課題を徹底的に洗い出しています。

── 変革を進めていくうえで、UWC ISAKが目指したい姿や理想像はありますか? そもそも「学校は、永遠に完璧にならない」というのが組織内での共通認識です。多くの企業も、そして人間も同じだと思うのですが「ここで100点だ」と満足した時点で成長は止まってしまいます。「チェンジメーカーを育てる」ことを掲げる私たちが、成長を止めてしまってはいけない。時代の流れだけを考えても、10年前と現在の「チェンジ」は、まるで別物。特に昨今はSNSなどの発展によって、個々人が社会を動かせる時代です。そういう時代に、生徒一人ひとりの自分らしさを最大限引き出せるようなサポートとはどのようなものか。そのような問いと真摯に向き合う日々です。

夢を叶えるには、初めの一歩から。

── 生徒それぞれが自分らしい「チェンジメーカー」へと成長していくために、心がけてほしいことは何でしょうか? 初めの一歩をとにかく踏み出すことです。悩むくらいなら、まずやってみる。すると成功するか失敗するか、結果はその2つだけ。もし成功したら「良かった」と思いますよね。失敗しても「転んでしまったけど思ったほど痛くはないな」で済むことも多い。それがわかると、また次の一歩が踏み出しやすくなるし、成功からも失敗からも学ぶことができるようになる。ですから生徒たちには、立ち止まって考えているだけでは成長できないという意識で「迷ったら即行動」を心がけてほしいと伝えています。

── それは社会人にも言えますし、多くの人が夢を叶えるために心がけるべきことのようにも思えます。社会人目線に立ったときにより意識すべきことはありますか? こと社会で言えば「What is most important?」と「What is most needed?」の接点で、人は活躍するというのが私の考えです。まず自分は何にワクワクするのかを知る。そのうえで社会は今どんなことを求めているのかを知る。その接点を考えれば、おのずと答えが見えてくるはずです。…なんて、偉そうに言っていますが、私自身その答えを見つけたのが34歳。ユニセフを退職して、ゼロからこの学校を設立しようと決意した頃です。それまではずっと、自分の興味と社会の需要との間で揺れ動いていましたね。ですから悩んでいる生徒にもよく言うんです。「たった3年間で答えが見つかるなんて、むしろ怖いよ」って。夢を叶えるのに早いも遅いもない。とにかく大事なのは常に自身に、先の2つを問い続けること。そして一歩を踏み出すこと。結果として夢を叶えた私ですが、これからも引き続きこの問いかけは続けていこうと思っています。

ベストフレンドがいる国を「攻めよう」と思いますか?

── ご自身の学校運営では、多様な価値観が調和する場づくりを心がけているかと思います。そんな小林さんは、最近のロシアによるウクライナ侵攻のような状況をどのように受け止めていますか? ロシアの問題に限らず、近年はブレグジットからトランプ現象まで、違う価値観を否定し攻撃する動きが目立ちますよね。多様な価値観は、理想的には受け入れたり理解して歩み寄ったりすることで均衡を保つものですが、これが極めて難しくなっていると感じます。環境問題も含めて、あまりに異なる価値観がぶつかり合ってなかなか結論が出ない。これらの複雑な問題は、もしかしたら私たちの世代では解決できないのかもしれないとさえ感じます。でも、次の世代の人たちにその可能性を託したい。そう考えたとき、やはり教育という分野は、より大きな意義を持つような気がしています。

── UWC ISAKの生徒たちは、今回の紛争についてどのように受け止めている印象ですか? まず前提として本校には、国籍も人種も価値観もバラバラな生徒が世界中から集まっています。当然、ロシア人もウクライナ人もいるわけです。今回の紛争についても一様ではありません。日本人は割と欧米に近い見方をしている人が多い印象ですが、言うまでもなく、中国やインドなどのアジア諸国、はたまた中近東やアフリカ諸国の人ではまた違ってきます。とにかく多様な視点や考え方に、学校生活という日常の中で、しかも仲の良い友人という関係性の中で自然とふれることができます。どんなメディアの報道よりも多様で、ある意味バランスの取れた考え方ができる環境になっていると思います。

── ハッとさせられます。私たちも、何かしら意識の変化が必要だと感じました。 ありがとうございます。日本で暮らしていると、多様な価値観を自分事にしにくいかもしれません。しかし、国内であっても経済的な格差や宗教、歴史観、ジェンダーなど、価値観の違う人はたくさんいます。そういった人たちとの交流を通じて、お互いの違いを知り、多様性のあるべき姿をそれぞれが見つけていけるといいですよね。

── OCA TOKYOも多様なバックグランドを持ったメンバーの皆さまが心地よく過ごせる場でありたいと常々思っています。UWC ISAKの学校運営にも、多様性を尊重した取り組みがありましたら教えてください。 1つご紹介するなら、おそらく日本では本校だけだと思うのが、男子寮でも女子寮でもない「ブレンデッドハウス」という寮があること。そこでは、男子寮と女子寮いずれにも属したくないジェンダーの生徒たちが、自分たちでルーミングなどを決めて運用しています。そういった生徒の声は、いろいろな学びや気づきを与えてくれるのでありがたいです。最近もある生徒から「政治的な思想に多様性がない」と指摘されました。本校に来る生徒は、ほとんどリベラルな子ばかりなので、保守的な意見が入り込みにくいと。これは生徒から言われて初めて気づいたことです。そうやって生徒たちから教わるという意識も持ち合わせながら、どこまで多様性を内包できる組織でいられるのかを、これからも追求していきたいですね。

悲観は気分。楽観は意志。

── 小林さんの拠点は軽井沢ですが、OCA TOKYOはどのくらいの頻度で使われていますか? 月に2、3回は利用しています。会食に利用することが多いですが、東京との行き来の際にアクセスがいいので、時間があるときに立ち寄るようにしています。今日もこれから会食で、7階のレストラン7th Kitchenを使わせていただく予定です。

── 今後OCA TOKYOに期待することがあれば教えてください。 ここ最近、兼業や複業、プロボノ、ボランティアなどを通じて社会的に意義のあることをしたいという人が増えているように感じます。一方で、私の周りには、私を含め空き時間に手を貸してほしいという教育関係者が多い。なので、例えば教育関係者でそういった方々とのマッチングにつながるようなイベントがあれば大変嬉しいです。結果としてより多くの人が教育に携わる機会が増えると非常にありがたいですね。

── 最後に、小林さんなりの人生を謳歌するためのコツを聞かせてください。 アランというフランスの哲学者が「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」という言葉を残していて、私もその通りだと思っています。何か起きた際に、目の前のネガティブな材料を見て嘆くのはただの気分。でも、そのネガティブの先にある未来を見て楽観的に考えることは、その人の意志なのです。これからの時代はますます個が尊重されるようになり、個の力で謳歌していく必要があるでしょう。そうなるとただ待っていても始まりません。自ら行動しなければいけないのです。必ずリスクもあるし、ときには失敗もある。でも、だからこそ楽観的に考え、自分の意思で未来を切り拓いていく。そんな楽観力こそが、人生の謳歌に直結しているのではないでしょうか。

小林りん

UWC ISAK Japan

経団連から全額奨学金をうけて、カナダの全寮制高校(Pearson College UWC)に留学。大学では開発経済を学び、後にUNICEFのプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。2014年に軽井沢で全寮制国際高校を開校し、2017年にUWCへ加盟。多様なバックグラウンドを持つ生徒を世界中から受け入れ「チェンジメーカー」を育てるため、日々教育活動に力を注いでいる。

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