OCA TOKYO BLOOMING TALKS 044

創造の本質と自由の探求

Released on 2022.09.02

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

1849年設立の光学研究所を起源に持つドイツのカメラメーカー「Leica Camera(以下、ライカ)」。同社が追い続ける卓越したものづくりは、普遍的かつ本質的な価値を追求し続けているように思えます。そんなライカの哲学やものづくりに対する思いについて、ライカカメラジャパンの代表取締役社長でありOCA TOKYOメンバーでもある福家一哲さんに話を伺いました。

京都とライカ、共鳴する「ものづくり」の精神。

── まずは今回の取材場所である「ライカ京都店」についてご紹介をお願いします。 この建物は大正二年にできた京町屋で、長くはお茶屋として使われていた場所です。この場にお店を構えさせていただく際、世界で統一しているライカのブランドイメージと、京都らしさをいかに調和させるか、ということを特に意識しました。歴史ある建物の趣を最大限に生かしながら、京都祇園の町並みに溶け込むように、なおかつライカの独自性を表現する。これは、ライカカメラ社としても初めての挑戦でした。例えば、ライカを象徴する赤の配色は和の文化に合わせた朱に近い赤に、入口は暖簾と行灯のみに。さらに店内の設えは、西陣織HOSOOの職人さんが手がけたソファや、木桶の伝統製作技法を貫く中川木工芸の職人さんによるスツールなど、日本の伝統文化を今に伝える職人の方々につくっていただいたものを設えさせていただきました。また、カメラバッグやレンズポーチ、扇子といったライカ京都店限定のグッズも京都の職人さんにおつくりいただいています。

── ライカが京都にお店を構えることの意義について、福家さんはどのようにお考えですか? 大前提として、京都は素敵な被写体が非常に多い場所ですので、この場にカメラや写真を楽しめる拠点があったらすごく楽しいのではないか、という率直な思いがひとつです。同時に、京都に息づく文化やものづくりの精神と、ライカの持つものづくりの精神にはとても親和性があると考えていて、きっと新たな価値の創造と発信ができる場になると考えました。最初は「なぜドイツのカメラメーカーが京都に?」というお声もありましたが、我々がいかにクラフトマンシップを大切にしている会社なのかを丁寧にご説明させていただいた結果、町内会や協議会の皆さまにもこうして迎え入れていただき大変嬉しく思っています。

── ちなみに、福家さん自身も愛用されているライカのカメラがあるとお聞きしました。 はい。ライカの「Qシリーズ」という、レンズ一体型のカメラです。レンズ交換型である上位機種の「Mシステム」や、もう少し小さいサイズのカメラも持ってはいるのですが、一番使う頻度が高いのはQシリーズ。例えば食事に出かけるときや、それこそOCA TOKYOのイベントに参加させていただくときなどにも、このカメラを持参することが多いですね。マジックアワーと言われる夕暮れどきのエモーショナルな時間帯や、控えめな照明のレストランなどでこのカメラを構えると、とても素敵な光の捉え方をしてくれるんですよ。

本質的な価値と、情緒的な付加価値。

── ライカのものづくりには、どのような哲学が貫かれているのでしょうか? 100年以上の歴史の中で培ってきた光学技術と、機械工学の最高レベルを目指し、常に革新を続けていくこと。かつそれを自社にいる職人たちの技で実現していくことが、私たちのフィロソフィーであり、存在意義だと考えています。また、ライカには“Das Wesentliche”という言葉が根づいているのですが、これはドイツ語で“本質的”という意味で、要するに「本質にこだわり、集中し、無駄なものは削いでいく」ことを表しています。私たちが手がけるカメラをご覧いただくとわかる通り、非常にボタンが少なく操作性もシンプルです。最新のデジタル技術を組み込みながらも、そこにお客様が気を取られることなく、純粋に写真撮影を楽しめるカメラを届けたい。そんな本質を捉えたものづくりを、何よりも大切にしているのです。

── そういった、本質的なものづくりができる秘訣があれば教えてください。 やはり、ライカのスタッフが全員、相当なカメラ好きであること。これに尽きると思います。いわば、カメラ好きが本気で「こういうものが欲しい」と思って生み出したカメラなわけです。売れるとか売れないとかではなく、もっと強い信念から生まれたカメラには、単なる機能だけでは語れない“情緒的な付加価値”が宿っています。そんな本気のものづくりが、同じカメラ好きであるお客様の心を掴んでいるのではないでしょうか。

── データやロジックでは語り切れない、感覚的で熱量のあるお話にも感じます。 特に日本は幼い頃からの知識詰込み型の教育とその評定など、左脳的な要素でその人の魅力や評価を決めてしまう傾向があると感じます。経済が安定的に成長している時代はそれで良かったのかもしれませんが、これから先は、成長の源泉となる新たな価値をゼロから創っていく時代になります。その場合、やはり感性、感覚、情緒といった右脳的な発想がより重要になってくるのではないでしょうか。

── ものづくりの世界に限らず、きっと多くの人たちが意識するべきテーマのように聞こえます。 そうですね。特に右脳的な発想として、創造(クリエイティビティ)と想像(イマジネーション)というふたつの“ソウゾウリョク”が不可欠だと考えています。このふたつを磨くためにどうすればいいか、正解はありませんが、私の知る限り、やはり多くの芸術にふれること、旅に出かけたり、いろいろな場所に行ったり、多くの出会いを経験することが大切だと思っています。毎日同じオフィスに行き、毎日同じデスクに座り、毎日同じ業務をし、毎日同じ道で同じ時間に帰るようでは、創造力も想像力も培うことが難しいでしょう。例えば、いつもとは違う道で帰ってみるとか、ほんの少しのことでもいいので、刺激を感じられる環境に自ら足を踏み入れることが大事ですよね。

神は、確かに細部に宿る。

── セイコー、エルメス、そしてライカと、ものづくりの世界に長らく携わっていらっしゃる福家さんならではの、学びや発見があれば教えてください。 最も感じるのは、「神は細部に宿る」という事実です。細部をおろそかにすることなく最後までこだわり抜くこと。そこにものづくりの本質があると私は思います。逆に、その矜持がなければ、作品や製品、ひいてはその文化というものは、いとも簡単に劣化してしまうのではないでしょうか。エルメスの5代目会長であるジャン・ルイ・デュマ氏は、「裏は表以上に美しくなければならない」という言葉を残しています。これも、人の見えないところまで手を抜かないことによって、ブランドに対する信頼が醸成されていくという信念の表れだと思いますし、強く共感します。

── 京都のものづくりの現場にも、まさにそういった矜持があるのではないかと思います。 そうかもしれないですね。京都には100年、200年という歴史を誇る会社やお店が当たり前のように存在しますし、創業以来ずっと同じ手順書や資料を使ってものづくりをしているケースも少なくありません。ライカもまさにそうで、特にレンズの設計に関しては、かなり昔のノートを未だに参考にしていたりします。大切な技術をどのように伝承してくかといった観点でも、京都とライカには共鳴する部分があると思えるのです。

── OCA TOKYOとしては「心地よい場をつくる」という意味で、今回のライカ京都店への訪問はとても貴重な機会になりました。お話の中にあったカメラに宿る情緒的な付加価値というものが、このお店にも貫かれているように感じます。 ありがとうございます。そういった意味では、OCA TOKYOは開業して1年ですが、すでにOCA TOKYOにしかない情緒というものが備わりつつあるように思います。というのも、私にとってOCA TOKYOは、なぜかとても安心感を覚える場所なんです。その理由は“人のぬくもり”にあると私は思っています。例えば、ラグジュアリーホテルや高級ブランドの店舗に訪れて丁寧な接客を受けても、同じ気持ちになれることは少ないです。きっとスタッフの皆さんや、メンバーの皆さんが醸し出す雰囲気や心配りの表れだと思いますし、これからもこうしたことを大事にしていくことで、OCA TOKYOのアイデンティティへと育っていくのではないでしょうか。

人生のオーナーは、自分自身。

── OCA TOKYOでは、普段どのような使い方をして過ごしていますか? また、今後企画してみたいアイデアなどがあればぜひお聞かせください。 普段は、食べたり飲んだりといった使い方が多く、いつも楽しいひとときを過ごしています。今後のことで言えば、OCA TOKYOでは興味深いイベントが多数開催されていますので、そういったイベントに関わるのも楽しいかもしれないですね。カメラや写真に特化したテーマでもいいですし、ものづくりをテーマにしてもいいですね。伝統技術を持つ職人さんや、老舗のものづくり企業の方をお呼びして、ものづくりに対する思いや価値観を伺えれば、面白いと思っています。

── 最後に、福家さんの考える人生を謳歌するために大切していることを教えてください。 私自身が大切にしているのは、「何に対しても自由でいる」ということ。人間はある種、制約のある環境の方が安心する生き物ですが、せっかく日本のような恵まれた国に生まれたのですから、時には人生を俯瞰し、「もっと自由でいられるのでは?」と自身に問いかけることも重要だと考えています。自分の人生のオーナーは、他でもない自分自身。周囲への思いやりと敬意さえあれば、他の何にも縛られることなく、自らが進んでいく道をもっと自由に選択していくことだってできるはずです。その選んだ道こそがきっと、各々の人生の謳歌につながっていくのではないでしょうか。

福家 一哲

ライカカメラジャパン株式会社 代表取締役社長

1960年大阪市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、服部セイコー(現セイコーHD)入社。2002年、エルメスジャポン時計事業部長。2007年4月より現職。世界初のライカ直営店であるライカ銀座店、京都の文化・職人技とのマリアージュで話題となったライカ京都店など、ライカストア/ブティックを軸に19世紀創業の名門、独ライカカメラ社の伝統と革新を具現化する。

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