OCA TOKYO BLOOMING TALKS 045

デジタルマネーのその先へ

Released on 2022.09.16

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

株式会社Kyashの代表で、OCA TOKYOメンバーでもある鷹取真一さん。近年隆盛のデジタルマネー分野の中でもひと際注目を集めているベンチャー企業Kyashは、どんな信条のもと、どのような未来予想図を描いているのか。鷹取さんからは、ただの貨幣の代替ではなく、価値交換のあるべき姿といった、ロマンあふれるお話をお聞きできました。

創っているのは、お金の高速道路。

── 鷹取さんが代表を務めるKyashは、どんなサービスを展開していますか? 「価値移動のインフラを創る」というミッションのもと、人々がもっとお金を自由にやりとりできるようなサービスを生み出しています。その核となっているのが、デジタルウォレットアプリのKyashです。より安価で迅速な送金を実現できるのが、このアプリの強みのひとつ。東日本大震災のとき、当時東北を助けようと多くの人が支援に動きました。ところが送金に限った話で言えば、例えば100円を送るのにも300円の手数料がかかってしまう。そんな現実を変えるためにKyashが存在していると言えるかもしれません。このような取り組みを僕は「お金の高速道路を創る」と表現しています。

── 新興の金融サービスというよりも、むしろ新しい銀行に近い存在のように感じました。 たしかに銀行のように社会性が強い点は、Kyashの特徴のひとつですね。そして思うのは、これから銀行業界は、最も産業変革が起こりうる領域だということ。例えば小売業界で言えば、メーカーと小売店が別々の、いわゆる製販分離がなされてきた。でも銀行は、それらをすべて自分たちだけでやってきたので、新しいサービスが生まれにくかった。アメリカなどでは、特定のコミュニティに特化した銀行サービスがいくつも生まれています。多様なユーザーにより便利なサービスを届けるという点で、この業界には大きな可能性があると考えています。

── そこに対してKyashでは、具体的にどんなサービスに取り組んでいますか? 最近の事例では、フードデリバリーのmenuさんへの導入ですね。menuさんには多くの配達員がいて、ほとんどがフリーランスやギグワーカー。従来は、何回か働いた分の報酬を月に1度まとめて支払うスタイルが業界内でも一般的でした。それをKyashの導入によって、1件の配達が終わって報酬が確定した瞬間、その日の分が受け取れるような仕組みを提供することができました。

── 日払いでもらえることは、多くのギグワーカーたちのニーズを満たしていそうです。 おっしゃる通りです。アルバイトの求人広告では「日払い可」にするだけで求人倍率が12倍上がると言われているぐらいですから。パートやアルバイトはこれまで従業員と同じく「銀行経由か現金の手渡しでしか報酬の支払いができない」と法律で定められていましたが、給与のデジタル払いが解禁されるような動きも始まっています。そうなれば、より多くの人にKyashの利便性を感じてもらえるようになる。今こそ僕ら、そして業界としても、時代のニーズに応えられるサービスを前に進めていけると感じています。

100円の送金に手数料が300円。そんな世界を変えたい。

── 業界の変革に関わるような大きなチャレンジをしているKyashですが、どんな経緯や思いがあって立ち上げたのでしょうか? 先の東日本大震災の話を、銀行で働いていた時代に経験したのが大きかったと思います。当時の僕としては、お金が動く場所で、同時にお金が目減りしていく感覚でした。100円の送金に300円の手数料がかかる仕組みのままでいいのだろうか。より良いお金の社会インフラを構築することが必要だと、そのときに強く感じたんです。

── 本当にその通りですね。 そういった思いを持ちながら、少ししてコンサルティングの会社に転職をします。僕自身、30歳くらいまでに「自分の人生はこれだ」というものを見つけていたかったので。そこでは、スマートフォンを起点とした今で言うDXのような事業に携わっていたこともあって、銀行での経験も合わせると、自ずとやりたいことが見えてきたんです。自分の考えが明確になってからは居ても立ってもいられず、上司に即「退社したい」と伝えました。上司からは「せめてひと月半、プロジェクト終了までは」と説得されたのですが、大人げない僕はひと月半すら待てないモードだったので「頭が狂ったと思ってください」と言って、強行突破しました(笑)。

── Kyash立ち上げに際してはどんな構想を思い描いていたのですか? 実は、最初の資金調達のとき、こんなふうに投資家さんたちに熱く語ったんです。2020年、東京オリンピック・パラリンピックでテレビに映る選手たちは、KyashのQRコードを胸につけています。そこからテレビ越しに世界中の人々が「感動をありがとう」と1ドルでも100円でも送金ができる。そんな仕組みを創りたいと思っているのです、と。

── 夢がありますね。実際、今回の東京オリンピック・パラリンピックではボランティアへの送金という形でKyashが関与したと聞いています。そういった公共性の高い分野への貢献は今後も考えられているのでしょうか? そうですね、理想とする形そのままは実現できませんでしたが、少しでも関わることができて嬉しく思っています。インフラを志すKyashとしては、当然パブリックセクターに近い領域でより力になれると考えています。具体的にはコロナ禍での給付金や医療従事者への手当など、少額かつ多頻度の送金事業です。このあたりでの実績が増えていけば、自らの強みを再認識できると同時に、さらに事業を押し進めていく勇気にもなる。今後お金の新しいインフラとしてより社会の重要なピースとなっていきたいと思っています。

「なんか、いい」。そんなアート的な思考もヒントに。

── Kyashが描く未来はどんな世界なのでしょうか? 僕らが掲げているビジョンは「新しいお金の文化を創る」です。一般の生活者の方に対して中立的なインフラとしてのサービスを作りたいという思いがあります。Visaカードが使える場所(加盟店)で使えることでクレジットカードと同等の役割を果たすことはもちろん、QR・交通系の決済にも紐づけられるほか、必要であればATMからも引き出せます。さらにそれらのお金の動きを一元管理できることで、生活者にとってのフィナンシャルサクセスの実現を目指しています。とはいえ、資本主義を突き詰めて、世の中が生産的で合理的であり続ければいいかと言えば、僕は、それだけではないとも思っています。

── なぜそのように思うのでしょうか? 結局、日常に喜びや感動をもたらしているのは、芸術やスポーツなどが多いと思っていて。しかし、その界隈にお金がきちんと行き渡っていない状況があるのも事実。個人的には、もっと一芸に秀でた人たちへより身軽にお金を届けていく仕組みが必要だと日頃から感じているからです。「1円」は「1ありがとう」。そんな「エネルギー」のやりとりにこそ価値がある。もっと言えば、お金の動き方や在り方そのものを、新しい文化にしていきたい。そんな思いが強いんです。

── お金の移動の裏にある「思い」に、フォーカスしているんですね。 おっしゃる通りです。Kyashのミッションは「価値移動」であって「資金移動」ではありません。当然、お金だけが価値ではない。アーティストやアスリートの活動の一部をサポートするとか、プロジェクトに参加するとかも立派な価値の移動だし交換だと思います。例えば画家は、基本的に作品を売ることでしか報酬を得られない。僕は本来、その人がその人であることへの価値がベースにあるべきだと考えています。音楽の世界では「ファンクラブ」という枠組みでそれを実現しているように。そうした根本的な部分から働きかけることで、芸術や文化を支えていけると嬉しいです。

── アーティストやアスリートへの興味関心はいつ頃から持っていましたか? 原体験で言えば、幼少期にバイオリンを習っていたことですね。母親の趣味でレッスンに通い始めたのですが、演奏しながら寝てしまうくらい、それはもう残念な感じで(笑)。なので、僕には到底できないことができる人のことは、心の底から尊敬しています。

── ここOCA TOKYOにも、鷹取さんのように音楽やアートに興味があるメンバーが多くいらっしゃいますし、関連のイベントもよく開催されています。 まさに、僕がOCA TOKYOに入らせていただいた理由のひとつがそれです。この場所は、アート、音楽、食といった日常を豊かにするテーマや人への感度が高く、多様な価値観に対して広く開かれた場であることに共感しました。館内にも作品が飾られている、現代アーティストの前田紗希さんと話す機会が何度かあったのですが、話していて面白かったのはビジネスとアートが対極にあるということ。ビジネスはこれまでの常識や合理的判断を積み上げていって、正解は後からついてくるもの。でもアートは、いきなり目の前に自分の正解が現れる。「こうこうこうだから、いい」ではなく「なんか、いい」から始まる。ビジネスにはなかなかできないアプローチだと思いました。でもKyashはある種、創造的なビジネスですし、そうしたアート的な思考がヒントになる部分も必ずある気がしていて。そういった意味でも、やはりこうした人たちとの交流は刺激になりますね。

選んだ道を、正解にしていく。

── OCA TOKYOを利用してみて、どんなところに魅力を感じますか? OCA TOKYOはイベントでの交流はもちろん、この空間にいるだけでも、他の場所にはないインスピレーションが受けられるような気がしています。現在Kyashのデザインチームが出来上がりつつある段階なので、チームのさらなるデザイン力向上のためにも、アート的な文脈で刺激を受けられることはとても有意義だと感じています。

── これからOCA TOKYOに期待することがあれば教えてください。 僕が個人的に着目しているのが、アートの共同所有です。1つのアートを複数人で所有して、例えば今月はOCA TOKYO、来月はKyashのオフィス、その次は別の所有者の自宅といった具合に、1ヶ月ごとに飾る場所を変えていくとか。これはOCA TOKYOに期待したいというより、Kyashとして仕組みの構築を通じた「価値移動のインフラを創る」ことで貢献できたら嬉しいと思っています。

── 鷹取さんが人生を謳歌するために大切にしていることを聞かせてください。 決めた道を正解にしていくことです。たとえ選択を間違えたとしても、その瞬間だけを見て腐らないこと。選択のミスはたくさん起こります。Aを選んでミスしたのであれば、改めてBに向かえばいいだけ。要するに人生は、今という足元と、これからという前を見て、どう正解にしていくかを模索するプロセスの繰り返しだと思うんです。どんなことにおいても、チャレンジをして正解であろう方向に進んでいく。そのワクワク感は、まさに謳歌そのものですし、常に正解を目指し続ける姿勢は、人生をずっと謳歌することとほぼ同義だと思います。その点で僕は自分自身が夢とロマンを持てるものにチャレンジし続けられているので、本当に幸せですし、ありがたい人生だと感じています。

鷹取 真⼀

株式会社Kyash

早稲田大学大学を卒業後、三井住友銀行、米系戦略コンサルファームを経て株式会社Kyashを2015年に創業。「新しいお金の文化を創る」をビジョンに掲げ、デジタルマネーによる資金移動のインフラ構築を進めながら、お金を含めた「価値」をより世の中に循環させていけるような未来を日々模索している。

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