SELECTED EVENTS 016

アートと対話の創造体験

Released on 2022.09.16

数々の現代アートが展示されているOCA TOKYOでひと際目を惹くのが、階段吹き抜けにある椿昇氏の「scratch」。その作品から受けたインスピレーションを集めて、OCA TOKYOオリジナルの日本酒を造る。そんな斬新かつ創造的なワークショップが、7月12日・26日・28日に、OCA TOKYO周年特別企画として開催されました。今回はイベント全体のファシリテートを務めた、美術鑑賞ファシリテーターの小田川悠さんにインタビュー。自身の活動のことや、今回の企画に対する思いなど様々なお話をお聞きしました。

美術鑑賞ファシリテーター 小田川 悠

アートコミュニケーション「ランドリー」代表。県立の特別支援学校・盲学校勤務、平塚市美術館と小学校とが連携したプログラム「対話による美術鑑賞」に参加後、独立。作家の表現に寄り添った、対話による美術鑑賞のアートワークショップを企画開催。ZEIT-FOTO kunitachiクリエイティブディレクター、日本最大級のコレクションを誇るTAGUCHI ART COLLECTIONのワークショップアドバイザリーを務めるほか、現代美術とおしゃべりできるアートカードゲーム「PLAY!たぐコレ」の企画協力を手がける。

自分一人では気づけない、視点や言葉に出会える魅力。

── 小田川さんはOCA TOKYO にあるアート作品についてどのような印象を持ちましたか。 アート自体の個性は際立っていながら、深海の奥底のような深みがあるのに、圧迫感を感じさせない。すごく巧妙に空間と調和しているのが、見事ですよね。作品だけでなくインテリア、照明、音、香りなども含めた空間全体でそう感じるのかもしれません。そして今回の企画で皆さんと鑑賞した椿さんの「scratch」は、人のぬくもりとか、近づいて触りたくなる感覚があって、OCA TOKYOという人が集まる場所にふさわしい、人を惹きつける魅力が詰まった作品だと感じます。

── アート作品から「日本酒」を創造するという本企画には、どのような面白味や可能性があると感じますか? 現代アートと日本酒。まずその掛け合わせにドキドキします。日常的な映画や音楽と比べるとどうしても遠い存在のような現代アートが、日本酒という多くの人が関心を持てるジャンルとつながることで、結果的に身近なものになれる。そんな機会に関われることがすごく嬉しいですね。

── 今回のワークショップの体験を通じて感じてもらいたいものなどがあれば教えてください。 今回は、実物の鑑賞はもちろんですが、 対話のきっかけとして各オブジェをカードにしたものをご用意しました。30個すべてのオブジェをじっくりと見たのは初めてという方も多かったのですが、それらを眺めながら「scratch」から受け取ったインスピレーションを、まずは素直に話してみてほしいですね。自由に気軽に、日本酒に寄せすぎなくても大丈夫。そう思えるのは、もう一人のファシリテーターであるSake Business Laboratoryの鈴木更紗さんの存在が大きいですね。彼女がググっと日本酒の方向へまとめてくださるのでとても心強いです。

── 小田川さんが感じる「対話による美術鑑賞」の魅力についても教えてください。 誰かとおしゃべりしながらアートを鑑賞することで、自分だけでは気づかなかった視点や刺激を言葉として受け取ることができます。自分からも他者からも、いろんな言葉があふれていく。その体験こそ最大の魅力だと思います。もちろん対話型鑑賞には、昨今話題のアート思考やクリティカルシンキング、コミュニケーション能力の向上といった、自分磨きのような話もあるにはあるのですが、個人的にはそこまで重要だと思っていません。もっと素直にアートにふれて、誰かと交わした言葉、受け止めた感情そのものに僕は価値を感じます。今回も、ふとしたきっかけで「そういえばあのときOCA TOKYOで…」といった具合に“過去の記憶との再会”を、いつか果たしてくれたら僕としてはすごく嬉しいです。

── 最後に OCA TOKYO の「鮮烈に人生を謳歌する」というコンセプトにちなんで、小田川さんが「人生を謳歌する」ために大切だと思うことを教えてください。 僕自身で言うと「人生を謳歌するぞ!」と強く意気込まない方が、意外と鮮烈に人生を謳歌できている気がします。これは、対話の場としての美術鑑賞やワークショップ全般にも通じる話ですが、一人ひとりが持っているそれぞれの時間を楽しむように、お互いの肩書を意識せずフラットに、そして、その時々の出会いをフランクな会話で楽しむことが大切なんです。特にアートは、作者の個性が鮮烈に表現されたもの。つまり、アート鑑賞を通じて僕たちは作者と出会っている。そう捉えることもできますよね。そんな体験を通じて共感したことはもちろん、共感できないことでさえも思いっきり楽しむことができれば、その時間は豊かなものになると思います。美術鑑賞も日常生活も、そうやって自分と他者との関係を楽しむことが、人生を謳歌するヒントになるのかもしれないですね。

みんなで対話をしながら、椿さんの作品を鑑賞。

自由な発想で作品から受けた印象を言葉にしていきます。

集まった言葉をヒントにどんな日本酒が導き出されるか、
鈴木更紗さんが対話を重ねながらまとめていきます。

小田川さんが手がける「PLAY!たぐコレ」も、
対話をしながら様々な現代アートにふれるカードゲームです。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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