OCA TOKYO BLOOMING TALKS 047

核にあるのは、オリンピズム

Released on 2022.10.14

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

バドミントン日本代表として2度のオリンピックに出場するなど、スポーツ業界で長年活躍された後、フィールドをビジネスの世界に移してもなお、さらなる輝きを放ち続けているOCA TOKYOメンバーの池田信太郎さん。常に世界を舞台に業界を切り拓かれてきた池田さんの中にあるエネルギー、そして核心ともいえる想いなど、様々なお話を伺いました。

「やっと仕事ができる」と思った、現役引退。

── まずは、池田さんが現在どのようなお仕事をされているのかを教えてください。 マーケティングやパブリックリレーションなどの領域で分析・戦略構築を手がけているフライシュマン・ヒラード(以下フライシュマン)の日本法人に所属しており、シニアコンサルタントという立場で様々なクライアントのビジネス戦略構築をお手伝いしています。

── アスリートから、まったくの畑違いのビジネスコンサルタントへの挑戦、当時は不安もあったのではないでしょうか。 自分の中では「スポーツの世界だから」「ビジネスの世界だから」という線引きはしていなかったです。すべては1本の線でつながっていると思っていたので、キャリアを変えることに不安はありませんでした。逆を言えば、不安を感じないために現役時代から自分自身の社会におけるバリューがどこにあるのかをしっかり見極めようとしていましたね。そこを見誤ってしまったら、ラケットを置くタイミングも間違えてしまいますし、きっとキャリアチェンジも難しくなってしまっていたと思います。本当にやりたいことや好きなことをやるためにも、自身のキャリアを点ではなく線で描くことはとても大切だと考えています。

── スポーツとビジネスのフィールドで、何か共通項を感じていましたか? いかにビジネスをグロースしていくか、プランを立て、シェアリングし、分析するといったプロセスは、アスリート時代に試合に勝つためにしていたプロセスとすごく似ていると感じます。特にフィジカルで勝負するタイプではなく、頭を使って考え抜いてプレーするスタイルだったので、今の仕事でもアスリート時代に培った力を発揮できている自負はありますね。

── どのような背景や思いがあって、ビジネスの世界へ飛び込んだのでしょうか。 もともと「現役を辞めたら次はビジネスがしたい」という気持ちが強かったので、バドミントンの引退後のキャリアについては、かなり早い段階から構想を練っていました。実は、北京オリンピックに出場したときには、「ここでメダルを取れたら引退しよう」とも思っていて。実際にはメダルが取れず、ロンドンオリンピックにも出場させていただくことになるのですが、2015年に現役を引退したときには、率直に「やっとビジネスができる」という思いがありました。学生時代から読み漁っていたビジネス書の影響も大きかったと思います。特に起業家と呼ばれる方々が情熱を持って仕事に向き合い、目標を達成していく成功の物語を読んでは「ビジネスってすごくいいな」と感動していたので。

負けることへの、圧倒的な拒否反応。

── ビジネスの世界にも活きているアスリートならではの思考という観点で、お考えがあればお聞かせください。 スポーツの世界では、代表選手ともなると全員が必死です。ただその先で“勝てる人”と“勝てない人”にはやはり明確な差がありました。まず言えるのは、練習の質が圧倒的に違うということ。例えば、練習時の100mダッシュを最後のコンマ数秒まで、誰よりも本気で走れるかどうか。このほんの小さな差が、大きな差になるというのが僕の持論です。もうひとつは、自分自身の課題や成長できるポイントがどこにあるのかをしっかり考察できているかどうか。例えば、与えられた練習メニューをアレンジして、自分にとって最高のメニューに仕上げられることを“勝てる人”は実践していました。これら2つは、ビジネスにも言えることだと感じています。仕事においても「これやっといて」と言われたことを、それしかやらない人と、プラスアルファで何かをやれる人とでは、まったく成長が異なりますよね。どこの世界においても、特に第一線で“勝てる人”の共通点は、そういったところにあると思っています。

── 池田さんにとって、活躍のフィールドを変えようと、“勝つ”ための思考は変わらないわけですね。 その通りです。ちなみに、ビジネスの世界に来たからこそハッとさせられたこともあります。それは、自分の中に“負けると悔しい”という気持ちが強くあること。思い通りのパフォーマンスを発揮できなかったときや、プレゼンなどで負けたときなど、周りのメンバーは「次を頑張ろう」と割とすぐに気持ちを切り替えるようですが、自分は負けに対する悔しさを誰よりも感じるんです。それはやはり、勝ち負けで評価されるスポーツの世界に長くいたからだと思います。ビジネスは勝ち負け以外の側面があることは、頭ではわかっていても「自分は負けた」「なんで負けたんだ」という気持ちが押し寄せてくる。そして、「次はもっとこうしよう」「こうしたら絶対に成功する」ということをひたすら考えてしまう。それは、もしかしたら僕の中にあるアスリートの血なのかもしれません。

オリンピアンたるもの、社会でのロールモデルであれ。

── 本日は、池田さんがロンドンオリンピックに出場された際の貴重な「参加証明書」もご持参いただきました。こちらに関するエピソードもぜひ伺えますか? 北京、そしてロンドンと、2度のオリンピックを経験させていただきましたが、特にロンドンが印象に残っているんです。というのも、今は当たり前のように多様性の時代と言われていますが、このときから、障害者の方、そしてパラスポーツへの理解というのが世界で浸透していったと感じます。特にパラリンピックのプロモーションが印象的でした。「Super Human」というメッセージングで映像が流れたんですが、これが本当に格好良かった。まさにパラスポーツに“スターを描く”という、ロンドンのカルチャーが遺憾なく表現された作品でしたね。選手のパフォーマンス自体ももちろん素晴らしかったですが、何よりも、現地の国民性やスポーツに対する眼差しに感動したことを覚えています。

── 日本のスポーツ産業の抱える課題にもつながるようなお話ですね。 そうですね。日本のスポーツ産業は、海外と比べると非常に遅れていて、あくまでも教育の延長上というイメージがまだまだ根強いです。海外ではもっと多くの人が、映画やコンサートのように高揚感をもって楽しむエンターテイメントとして定着しているのに、日本はまだそこまで到達していません。ことバドミントン界においても同様の課題があり、「協力してほしい」というお声がけをいただくこともあるのですが、本当にお力になるためには、まだまだ自分の力が足りないと思っています。
というのも、バドミントンは個人競技であり、チーム競技と比べると選手個々人に対するエンゲージメントがどうしても強くなってしまうんです。例えば、ある選手が引退すると、その選手のファンも“ファンを引退”してしまい、バドミントンという競技自体にファンが定着していかない。そんな現状があるのですが、1つのスポーツとしてサステナブルな成長を目指すためには、この根本的なエンゲージメントの形を変えていく必要があるのです。このような課題にアプローチをさせていただくためにも、まずはコンサルタントとして幅広く経験を積んでいきたいと思っています。

── オリンピックという舞台を経験したからこそ、池田さんの中に生まれた価値観のようにも聞こえます。 確かに、自分の中には今もオリンピアンとしての経験が強く根付いているように感じます。スイスはローザンヌにあるIOC本拠地のミュージアムには、“オリンピズム”の理念、つまり「オリンピアンたるもの、社会でのロールモデルであれ」という言葉が残されているのですが、心のどこかで、すべてのアスリートにそうであってほしいと願っている自分がいるのです。社会に出たときに、「オリンピックに出ました。でもスポーツ以外何もしていませんでした」となってしまうのではなく、オリンピアンならではの存在感やリーダーシップを発揮してほしい。僕自身、常にそうなれているとはもちろん言えませんが、そうでありたいと心から思っていますし、その矜持こそが、今のビジネスに向き合うスタンスにもつながっています。

メンバーの方々と、スポーツを通じたコミュニケーションを。

── 池田さんは、OCA TOKYOを普段どのように利用していますか? 5Fのフロアで仕事をしたり、ランチをしたりすることが多いです。食事には現役時代から気をつけているのですが、OCA TOKYOでは魚料理をはじめ、様々なバランスのいい食事をいただけるのがすごく嬉しいですね。夜は、メンバーの方々とワイン会をご一緒することが多くて、最近ではブラインドでワインを楽しむことにも挑戦しています。ワインに関する知識はまだ浅いですが、葡萄の品種や産地について思いを巡らしながら、大人の嗜みとして楽しんでいます。

── 今後、OCA TOKYOでやってみたいイベントなどはありますか? アスリート出身ですので、やはりメンバーの方々にスポーツに触れていただいたり、一緒に楽しんだりできるようなイベントができたらいいなと思っています。例えば、ワールドカップが開催される時期に、この場を飛び出して一緒に観戦するツアーがあると、すごく盛り上がりそうな気がしますね。

── 最後に、池田さんが思う人生を謳歌するために大切だと思うことを教えてください。 謙虚であることを、常に大切にしています。謙虚さがあれば、自ずと相手の意見を受け入れる姿勢が生まれますし、友好な人間関係が築ける気がしています。多様な価値観があふれている世の中をともに生きていくからこそ、謙虚であることは、人生を謳歌するために必要不可欠な要素だと考えています。

池田 信太郎

フライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社

1980年生まれ。5歳からバドミントンを始め、2006年と2008年には男子ダブルス、2012年には混合ダブルスで全日本総合選手権優勝。2007年に開催された世界選手権では、日本男子初のメダルを獲得。2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックに出場した後、2015年9月に現役を引退。現在はフライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社にて、FHスポーツ&エンターテイメント事業部のシニアコンサルタントとして活躍。東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会ACメンバー。

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