SELECTED EVENT 018

水中に眠る、人類の営みを探る

Released on 2022.10.14

9月6日に開催したイベント「水中考古学から歴史を学ぶ」では、水中考古学者の佐々木ランディさんをお招きしてトークショーを開催。海底に沈む遺跡の魅力や、目から鱗が落ちるようなエピソードの数々に、胸躍るひとときとなりました。今回は、そんな佐々木さんに、水中考古学への思いや、海に囲まれた日本のポテンシャルなど様々なお話をお聞きしました。

水中考古学者佐々木 ランディ

1976年生まれ神奈川県出身。高校卒業後に渡米し、テキサスA&M大学で“水中考古学の父”と呼ばれるジョージ―・バス氏に師事。同大学院にて博士号(人類学部海事考古学)を取得。これまでアジアの水中遺跡調査に数多く参加するほか、文化庁「水中遺跡調査検討委員会」に関わり、日本の水中遺跡の保護体制整備に向けた調査を行なう。一般社団法人うみの考古学ラボを設立し、水中考古学の普及のための活動を続けている。

明日見つかる遺跡にこそ、本当の面白さがある。

── まずは、水中考古学とはどのような学問かを教えてください。 海や湖といった水域と人間がどういう関係を持っていたか、人間が海に対してどのような挑戦をしてきたかを、発見される物質から解明していく学問で、正確には「Maritime Archaeology(海事考古学)」とか「Nautical Archaeology(海洋考古学)」と呼ばれています。実は、水中考古学というのは学問の1分野ではなく「水中考古学技法」という手法のことなんです。

── 水陸問わず、考古学と言えば遺跡調査というイメージもありますが、陸での遺跡調査と水中とでどのような違いがあるのでしょうか? 一番の違いは、水中遺跡の方が保存状態が良いこと。水中はいわば真空パック状態なので酸化しないですし、50センチ以上の堆積で埋もれていれば、時が止まったかのような当時のままの状態で出会うことができます。あとは、極めてピンポイントな瞬間まで突き止められるところも特徴的ですね。陸上の遺跡だと1600年代の〇〇といったところまでアバウトには解明できるのですが、例えば、1628年3月17日に沈没した船の場合、その日付、その瞬間の状態までを読み取ることができます。

── 歴史が覆るような発見もあるのでしょうか? そのような質問をよくされるのですが、それはただ、学校で習った政治史が書き換えられるだけのこと。そもそも歴史って、ひっくり返ったりするような陳腐なものではありません。例えば、とある時代に沈没した船で、AさんとBさんが何を積んで何を目的に船を出したのか…。史実の表舞台に出てこなくても、当人からすればかけがえのない旅であり挑戦であり「歴史」だったわけです。そういった人類の営みを突き止めることが、純粋に面白いと私は感じています。派手な大事件や政治論的なものに執着して語られがちですが、歴史はそれだけじゃないと常々思いますね。

── 例えば、佐々木さんが面白いと感じる、水中考古学ならではのエピソードがあればお伺いしたいです。 南北戦争時代に、アメリカ南部連合国のために戦った「ハンリー号」という潜水艇があるのですが、その船長にまつわる都市伝説が1つあります。戦闘のときに銃撃されて負傷するのですが、当時の恋人からもらった金貨が銃弾を受け止めて致命傷を負わず生還できた、という話で。過去の歴史家たちは総じて「そんなのは嘘っぱちだ」と言って耳を貸さなかった。ところが2000年、船長の遺体とともにハンリー号が海底から発見され、同時に被弾して曲がった金貨も見つかりました。その金貨の裏には撃たれた日付とともに「私の命の守り神」と刻印されていたのです。どうやら、その伝説は真実だった。特に大きな歴史を変えたわけではないけれど、刻印してお守りにしていた船長の気持ちも想像できるし、すごく面白い話だと私は思います。

── 佐々木さんが、現在進行形でワクワクしているプロジェクトがあればご紹介ください。 とある一人の女子高生と一緒に進めている、京都府の丹後での水中調査プロジェクトですね。このプロジェクトは、もともと彼女が図書館で水中考古学に関する本に出会い、その魅力に目覚めたところから始まりました。彼女はSNSなどで「地元丹後で水中考古学をやりたい! 誰か協力してくれる人はいませんか?」と発信していて、偶然それを私が見つけたのがきっかけで動いていきました。クラウドファンディングで資金を400万円ほど募り、現在、水中遺跡を探す活動をしています。現代ならではのアプローチから始まったことも新鮮でしたが、何より「海の遺跡を守りたい!」という思いを持った若者を発見できたことも嬉しかったです。

── 海に囲まれた日本には、調査対象も無数にあるかと思うのですが、日本の水中遺跡調査はどのような状況でしょうか? そうですね…。例えば、壇之浦の戦いの「三種の神器」を発見してみては? とよく言われるのですが、おそらくパッと見はボロボロに錆びた金属片なわけです。おそらく地元の漁師さんが引き上げて、ゴミだと思って捨てられてしまっているのがオチだと思います。諸外国では法律で海から何かを引き上げた際は報告する義務があるのですが、日本にはそういった仕組みがありません。残念ながら日本では、調査する機会を多く逃してしまっているもったいない状況が続いていると感じています。

── 今回のイベントを通じてお伝えしたいメッセージがあればお聞かせください。 先ほど、日本の水中遺跡に対する課題を述べましたが、一方で、明日見つかる遺跡にこそ、本当の面白さがあると強く思っています。丸山遺跡も登呂遺跡もまだ見つかっていないことを考えれば、まだまだ日本の海域にはポテンシャルあるはず。そんな気持ちで動いているところです。

── 佐々木さんの考える「人生を謳歌する」ために大切だと思うことがあれば教えてください。 前例のないことに挑戦していく姿勢ですね。水中遺跡に関しても、1つの調査で何かを突き止めたときの達成感はかけがえのないものです。さらに、それが今の人類にとって未知なる出会いになるのがこの仕事の醍醐味。活動を始めた20年前に比べると少しずつ注目されてきていますし、引き続き自分が正しいと思うことを曲げずに、様々な証拠を積み上げながら世の中に示していきたいですね。

20年くらい使っているシュノーケルセット。
子ども向けの講演では被って登壇しているそうです。

佐々木さんの近著では、ご自身が水中考古学に興味を持った
経緯も含めて、様々なエピソードが掲載されています。

トークショーでの様子。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

Archives