OCA TOKYO BLOOMING TALKS 049

時代の変化とワインと人と

Released on 2022.10.28

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

希少性の高いカルトワインを含めたカリフォルニアワインを数多く取り扱い、長年にわたって日本国内での流通を支え続けていらっしゃる株式会社中川ワイン。同社の代表取締役であり、OCA TOKYOメンバーでもある中川誠一郎さんに、ワインインポーターとしての目利きのポイントや、印象に残っているオークションのエピソード、そして中川さんが考えるワインの普遍的な価値などについて、貴重なお話の数々を伺いました。

40年間、ただ愚直に、正直に進んできた結果。

── まずは中川ワインの事業やその特徴などについて、改めてご紹介をお願いします。 中川ワインは創業から約40年、おもにアメリカはカリフォルニア、特にナパ・ヴァレーのワインを取り扱い、日本国内の問屋さんに卸す輸入卸事業を展開している会社です。小売店やレストランを保有しない事業形態のため、何よりも注力しているのは、お客様を魅了し続けるためのワインポートフォリオを、常に見直し更新し続けること。現在では、取り扱っているワインの実に97~98%がエクスクルーシブ、つまり中川ワインのみが輸入権利を保有しているワインとなっています。

── 中川ワインがそれほどの信頼をワイナリーから獲得できているのはなぜでしょう。 1つ挙げられるのは、品質管理だと自負しています。例えば、ワインのラベルにほんの少しのキズが入っているだけでも、ボトルにほんの小さな気泡が入っているだけでも、それが味にまったく影響ないとしても“不良品扱い”としてお客様にご提供することはいたしません。ある意味、愚直に、そして正直すぎるくらいにそのスタンスを貫いてきたことが、今日のワイナリーからの信頼、そして卸先のお客様からの信頼にもつながっているのだと思っています。

── ちなみにOCA TOKYOにも、中川ワインで取り扱っているワインを卸していただいていると伺いました。 そうですね。OCA TOKYOに卸しているのは、おもに食事に寄り添うワインで、価格帯も様々です。オー・ボン・クリマやハーラン・エステートのほか、地域こそ違いますが、一部ピノ・ノワールやメルローのワインも置いていただいています。フレンチやイタリアンだけでなく、バラエティに富んだOCA TOKYOのお食事のシーンに合うようなワインをご用意していますので、OCA TOKYOで過ごす時間をより豊かなものにするアイテムとして、ぜひ多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいですね。

ワイン界における、スター誕生の瞬間。

── インポーターとして、日頃ワインの良し悪しをどのように判断されているのか。差し支えない範囲で伺えますか? もちろん味が美味しいことは言わずもがなですが、ワインは月日を重ねていくごとに味が変化していくものなので、この先の時代のニーズやトレンドを踏まえた判断をとても大切にしています。その中で大きなポイントになるのが、ワインの「酸」。酸が弱いと、長期熟成していくうちに、味がどんどん淀んできてしまいます。一方で、酸がしっかりしているワインほど、長期熟成に耐えうるワインとも言える。ただし、これはあくまでも判断軸の1つであって、例えば、果実味の強いワインが人気になる時代もあれば、アロマが立ったエレガントなワインが人気になる時代もある。そういったトレンドを見据えながら、オークションでワインの価値をいかに見極められるかという点も、インポーターとしての腕の見せ所だと思っています。

── 特に印象的なオークションのエピソードなどがあれば、ぜひお聞かせください。 中川ワインとして特に印象的だったオークションと言えば、やはり創業者である私の父が、「スケアクロウ(かかしの意)」を競り落としたとき。このワインは、中川ワインが1本約30万円という当時としては破格の金額で競り落としたことによって、ナパ・ヴァレー一帯でどんどん評価を獲得していった、いわゆるカルトワインの1つです。まさに、スター誕生の瞬間とも言える光景を目撃したわけですが、大喜びの父の横で、私は頭を抱えたことを覚えています。実は大幅な予算オーバーで…。「父よ、このお金は誰が払うんだ!」と、心の中で思っていましたね(笑)。

── そういった“スター”を生み出したことで、中川ワインの見られ方も大きく変わったのではないでしょうか。 そうですね。スケアクロウを競り落としたことによって、多くのワイナリーから「うちのワインも買ってほしい、輸入してほしい」という声がより多く届くようになりました。つまり、中川ワインが扱うワインを、マーケットバリューの高い素晴らしいワインとして評価されるようになっていったのです。すでにカリフォルニア現地でのオークションに参加し始めてから15~16年という月日が経過していますが、未だにこういった評価を受け続けていることはとてもありがたいと思っていますし、これから先、変わらぬ声をいただくためにも、やはりポートフォリオの健全化というのが、中川ワインとしては重要だと考えています。

ワイン造りの現場で、いま起きている変化。

── ちなみに、昨今の地球温暖化や天災の影響などによって、ワイン造りの現場にも変化が起きていると伺いました。 そうですね。もともとワイン造りの現場で課題に挙げられていたのは、地球温暖化に起因する山火事。一番ひどいケースだと、山火事の影響でブドウの木が燃えてしまったり、火事の煙でブドウが燻されて、ワインに使えなくなってしまったり…。生産者のことを思うと言葉もありません。ちなみに、カリフォルニアで山火事による大きな被害が出たのは最近では2020年。そのときの教訓から、今ではブドウを早く摘むワイナリーの数も増えてきています。

── 早摘みのブドウを使うことによって、ワインの味への影響はないのでしょうか。 そう思われる方も多いのですが、実はここに、カリフォルニアワインの大きな技術発展があると私は感じます。というのも、実際に早摘みのブドウから造ったワインを試飲させていただくと、決して線が細いわけではなく、果実味が浅くなってしまうわけでもなく、多くのワインが素晴らしい味わいに仕上がっています。こういった進化が見られるのは、ブドウへの水やり量や収穫タイミングなど、製造過程においてある程度の自由度の高さを持つカリフォルニアワインならではと言えるのではないでしょうか。

ワインはいつも、楽しさの真ん中にある。

── 中川さんが考えるワインの普遍的な価値について、ぜひお考えをお聞かせください。 ワインを飲むことで場が明るくなることはあっても、場が沈むことはまずないですよね。それはワインが、その場にいる人たちのことを結び付けることができる、楽しいお酒だからです。大切な仲間との集まりはもちろん、初対面同士のビジネスの会合などでもそれは同じ。ワインを通じて、「今日こんなのを飲んでみようと思うんです」「こちらの料理とよく合いますね」という会話をみんなで楽しめるというのは、やはりワインならではであって、そういった人のつながりや楽しい場を生み出せることが、ワインの普遍的な価値だと思っています。

── 中川ワインとして定期的にワイン会を開催されているのも、そういったワインの魅力や価値を多くの方に伝えたいという思いからでしょうか。 そうですね。当社では1959年から現在に至るまでワイン会を続けていますが、当時の日本はビールと日本酒くらいしかお酒の選択肢がなかったため、「ワインは初めて飲む」という方も多くいらっしゃったそうです。現在では、財界、スポーツ界、芸術界など、様々なフィールドで活躍されているワイン好きの方が集まる当社のワイン会。私自身、そこでの出会いを通して、「場を楽しくする人は、ワインに関する共通の話題を提供できる方である」ということを、改めて考えるようになりましたね。

── そのような考えに至ったのはなぜでしょうか? 言ってしまえば、ワインを楽しむ場で、仕事の話や政治経済の話をすることは簡単。ただしそういう話ばかりする方は、おのずとワイン会には誘われなくなってきます。一方で、皆が楽しめるような、ワインに関する共通の話題を提供できる方は、本当に歓迎されます。私が聞いた中で特に印象に残っているお話は、「ホテルの格は置いているハーフボトルの種類の数によって決まる」というもの。「夫婦二人でホテルのレストランに行って、フルボトルしかなかったら、せいぜい2本しか楽しめない。でもハーフボトルなら、4種類のワインを料理とあわせて楽しめる。そういったところまで気遣いができているホテルこそが本物なのだ」というお話なんですが、その日のワイン会の参加者たちが非常に盛り上がったことを、昨日のことのように覚えています。

60歳を超えてからを、いかに楽しめるか。

── 今後、中川さんがOCA TOKYOで企画してみたいイベントなどはありますか? ワインを何種類も比較しながら飲む機会って実はそれほど多くないと思うので、私がワインの説明をさせていただきながら、メンバーの皆さんに飲み比べを楽しんでいただくような機会はぜひ設けてみたいと思っています。イメージとしては、中川ワインのワイン会をOCA TOKYOでも開催してみるといったところでしょうか。ワインをその歴史やストーリーと一緒に味わえばより美味しくより楽しくいつまでも記憶に残ります。その場での話題や普段聞けない裏話などを、別の場でご友人にお話いただければ、きっとそのご友人にも楽しんでいただけるはず。ワインを通じたコミュニケーションの魅力は、そういったところにもあると思っています。

── 最後に、中川さんが人生を謳歌するために大切していることを教えてください。 人生100年時代と言われる中で、60歳が定年だとしたら、学生を終えてから引退するまでがおおよそ38年。そこから平均40年生きるとしたら、人によっては現役時代より長いセカンドライフを過ごすことになります。なので、これからはむしろ定年後の時間をいかに楽しめるかが人生最大のテーマだと私は思っています。そう考えたとき、やはり交流できる仲間が必要で、誰かに頼られたり、お酒の席に誘っていただけたりすることが、すごく大切になってくる。おそらくOCA TOKYOというこの空間こそ、私たちの人生を謳歌する場になるのだろうと思っています。

中川 誠一郎

株式会社中川ワイン 代表取締役

1963年生まれ。慶應義塾大学卒、コーネル大学院卒。東京銀行、世界銀行を経て現職。カリフォルニアワインを中心に輸入・販売を行ない、日本国内でカリフォルニアワインの魅力を広めることに貢献。一世を風靡した「カルトワイン」をはじめ、現在も希少価値の高いワインの数々を日本に紹介している。

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