OCA TOKYO BLOOMING TALKS 050

「継承」と「編集」

Released on 2022.11.11

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

家具を通してライフスタイルを提案する。そんな創業時から変わらない理念のもと、日本のライフスタイル空間を創造し続けているアルフレックスジャパン。同社の代表取締役社長であり、OCA TOKYOメンバーの保科卓さんに、アルフレックスジャパン創業者である父・正さんから受け継いだ思想や、自身が取り組んできた事業の変革、そして日本のライフスタイルの変化などについてお話を伺いました。

生活の中心は人。インテリアは脇役。

── まずはアルフレックスジャパンについて、改めてご紹介をお願いいたします。 アルフレックスジャパンは、イタリアでモダンファニチャーの思想と心地よい暮らしのあり方を学んだ私の父が、帰国後の1969年にスタートした「イタリア生まれ、日本育ち」の家具ブランドです。当社で製造・販売している家具の多くは、目立ちすぎず、シンプルながら飽きのこないデザイン。なおかつ長く使えるよう、道具としての機能が充実していることが特徴です。基幹ブランドのほか、ディストリビューターとしてイタリア直輸入のブランドをいくつか取り扱っており、このブランドの中には、OCA TOKYOで使っていただいているソファやテーブルのブランド『モルテーニ』も含まれています。

── 「家具を通してライフスタイルを提案する」という、企業理念の背景にある想いについてもお聞かせください。 そもそも生活の中心は人であり、家具やインテリアは脇役。そんな考えが、根底にあります。ですから私たちが提案したいのは、家具そのものではなく、その家具による空間全体のスタイリングやお客様の豊かな暮らしの実現なのです。これは父がアルフレックスジャパンを創業したときから現在に至るまで、当社の行動の軸になっています。

── 企業理念のほかに、お父様から受け継がれた価値観があれば教えてください。 「正々堂々としていなさい」ということと、「とにかく謙虚でいなさい」ということでしょうか。前者は、回り道をしたり、姑息な手を使ったりせず、どんなことがあっても道の真ん中をまっすぐに進みなさいという教えです。後者は、どんな人に対しても偉そうにすることなく謙虚に接していると、自然と信頼や評価も集まってくるという教えだと受け取っています。幼い頃からことあるごとに言われてきたので、本当に私の中に染みついています。これらの価値観は、自社の社員や、自分の子どもたちにも受け継いでいけたらと思っていますね。

揺れ動く「プロダクトアウト」と「マーケットイン」

── 代表として事業を推し進めていく上で、お父様と衝突することなどはありませんでしたか? 今でこそ笑って話せますが、2013年前後の世代交代の際には、それぞれの熱い思いがぶつかり合うこともありました。特に激しかったのは、当社がそれまで当たり前に続けてきた「プロダクトアウト」による製品開発が、バブルがはじけ、21世紀になった段階からどんどん厳しくなっていった頃。お客様の声をもとにニーズを把握し、開発を行なう「マーケットイン」に移行すべきだという提言をしても、当時の父は聞く耳を持ちませんでした。いや、父のデザインやモノづくりは本当に素晴らしいのです。しかし、それが市場で売れるか売れないかは、まったく別の話で…。「いいものをつくれば売れる」という考えから脱却する必要があった。しかし、その議論をするだけで2年程は衝突していたことを覚えています。

── その衝突は、どのように落ち着いたのでしょうか。 ひとつには、社外取締役の方々がうまく間に入り、取りまとめてくださったことが大きいです。また、私が社長に就くタイミングから、マーケットインのビジネスへと社内を変革していく中で、だんだんとそれが機能しだし、実際の数字にも表れてきたことが良かったと思っています。業績として良い結果が出たことで、父も納得してくれましたね。時代に適合したいろんなやり方があるのだと。そういう意味では大きなターニングポイントになったと思っています。ただし、最近ではこのマーケットインの考え方が、また私の中で変わりつつありまして…。

── と言いますと、マーケットインでは限界があるということでしょうか? すでに世の中にはモノが多くありすぎるため、マーケットインはマーケットインでも、その中でより良いものを求めるお客様が増えてきているのです。新たな家具を世に出す際にも、より研ぎ澄ましたものを出していく必要があるように感じています。つまり、改めてプロダクトアウトの考え方が重要になってきていると思えるのです。その背景には、昨今の日本におけるライフスタイルの変化も大いに影響していると感じています。

── 保科さんは、日本のライフスタイルの変化をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。 ここ2年程は、新型コロナウイルスの影響もあって「やること」と「居場所」の線引きがどんどん曖昧になってきていると感じています。リビングで仕事をする人もいれば、ダイニングで宿題をやる学生もいますし、ベッドルームにパーソナルソファを置いて寝る前に寛ぐご夫婦もいます。そういった時代だからこそ、家具に求められる機能もどんどん変わってきていて。例えば、当社が今年出した新作テーブルの中には、ダイニングより低く、ソファよりはちょっと高い、64cmというサイズのものがありました。このサイズなら食事もできますし、仕事や勉強に使うこともできる。ちなみに私自身、家具はもちろん、照明、カーテン、グリーンに至るまで、日ごろから自宅を使って実験的に使い心地を試しています。ここ3、4年で思うのは、庭やバルコニーにずっと置いておける家具や屋外用のラグなど、インドア・アウトドアを超えて過ごすための、“新しい暮らし”を感じるような製品が増えてきていること。ちょっと先の未来には、「リビング」や「ダイニング」といった用途を限定する間取りそのものがなくなるかもしれないとさえ思いますね。

戦いながらも、つながらなければならない時代。

── SDGsやサステナビリティといった観点で、日本の家具業界が抱える課題についてはどのようにお考えですか? 日本の家具業界は横のつながりが弱いこともあり、まだまだ課題感を共有できていないと改めて感じています。というのも先日、2年ぶりにミラノサローネ国際家具見本市を訪れたときのこと。この2年の間に、イタリアの家具業界のサステナビリティへの取り組みがとてつもなく進化していることを知ったのです。具体的には、「この製品がこれまでに比べて何%リサイクル可能になっているのか」という指数を、どのブランドも共通のフォーマットで製品の横に表示しているという状態。ブランド同士が戦いながらも、同じ目線に立ってゴールを目指している様子がすぐにわかり、私自身とても感動しました。

── 日本では、そのようなムーブメントを起こすことは難しいのでしょうか。 もちろん、早かれ遅かれそういったムーブメントは必ず出てくるはずです。世の中的にサステナビリティへの関心が高まる中で、お客様のお声が高まれば、家具業界としても必ず行動に移さなければならないですしね。その際には、業界全体が協力し合い、戦いながらも同じ目標に向かって目線を持てるがどうかが、何よりも重要になるでしょう。我々としては、そういった時代が早く到来してほしいと思っていますし、積極的に参加していきたいと思います。

── アルフレックスジャパンとしては、サステナビリティに関してどのような取り組みをされていますか? 当社の製品は、いかに長く、安心してお使いいただけるかということをとても大事な項目としており、その上でメンテナンスも見据えた商品開発を行なってきました。これまでにリリースした製品は、今現在もすべて自社でメンテナンス対応が可能です。何世代にも渡って家具を使い続けてくださるお客様も多く、ときには「数十年愛用したソファをフルメンテナンスして、結婚する子どもに持たせたいんです」といったご要望をいただくことも。そんな思いのこもったお言葉をいただけると、家具屋をやっていて本当に良かったと思いますね。そういった意味では、サステナビリティやSDGsなどの言葉が叫ばれるようになるずっと前から、同様の取り組みを続けてきた会社であると自負しています。また、近年は「エコ・プロジェクト」と称して、家具を作る際に出る端材を使ったエコバッグやルームシューズなどの製作をするほか、直近では、お客様のライフステージが変わったことなどを理由に当社の製品を手放す場合、下取り・修繕対応を行ない、次のお客様へとつなぐアップサイクルサービスもスタートしました。既に販売終了した20年30年前の製品がアップサイクル製品として店頭に並ぶこともあり、懐かしんでいただけるお客様や、新たな価値を感じていただける若年層のお客様も多くいらっしゃるため、我々自身とても新鮮な気持ちです。

自由になれる時間を、人生を楽しむエネルギーに。

── OCA TOKYOに対する印象を伺えますか? 茶室があったり、シアターがあったりと、ワクワクできるコンテンツがたくさんありながらも、人と空間と家具とが出過ぎることなく、バランスよくミックスされている場所だと感じています。インテリアデザインも素晴らしいですし、いい意味で日本っぽくないですよね。あとは、現代アートやグリーンがセンスよく取り入れられている点も非常に気に入っています。インテリアと同様にアートやグリーンは、その空間にゆとりや潤いを与える大切な要素。私自身、暮らしを楽しむ上でとても大切にしていますので、OCA TOKYOの上質な空間づくりにはシンパシーを感じますね。

── 最後に、保科さんが人生を謳歌するために大切していることを教えてください。 とにかく前向きで、元気でいることが一番だと思っています。そのために私自身が実践しているのは、時間を見つけてギャラリーや展示会に足を運んだり、お茶のお稽古に通ったりすること。アート作品に触れているときは、自身の解釈で誰にも文句を言われず、その時間を楽しむことができますし、お茶をたてているときには、頭の中がリフレッシュできて心地いいんです。また、新しい家具と住まい方の実験の場にもなっている東京の自宅とは別に、河口湖にもうひとつ自宅があり、こちらは30年以上前に自社が開発したウィークエンドハウスなのですが、内装含めできるだけ昔からの雰囲気を壊さないように使ってきました。忙しく過ごす東京での生活と自然の中でゆったり過ごす河口湖、両極端の家を行き来しながら過ごす中で、ふと常識や固定概念から自由になれる時間があって、それが自分にとって、人生を謳歌するためのエネルギーになっているのかもしれませんね。

保科 卓

株式会社アルフレックスジャパン 代表取締役社長

1965年京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、1988年にアルフレックスジャパン入社。以来、輸入部門、管理部門、経営企画部門などを経て、2008年にイギリスにてMBAを取得。帰国後の2013年、代表取締役社長に就任。創業時の理念を受け継ぎ、現代の経営戦略で同社の成長を目指している。

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