OCA TOKYO BLOOMING TALKS 052

今こそ、世界と接続を

Released on 2022.11.25

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

ビッグデータ活用・分析の専業企業である株式会社ブレインパッドの代表取締役社長であり、OCA TOKYOメンバーでもある高橋隆史さん。データ分析分野のパイオニアとして日本の様々な企業の進むべき道を照らすと同時に、現代アートコレクターとして、日本の若手アーティストの支援活動なども行なっている高橋さんに、独自の目線で日本の今を語っていただきました。

データ分析18年間。痛感したのは、無力感。

── まずは、高橋さんが代表を務めるブレインパッドについてご紹介をお願いします。 ブレインパッドは、2004年3月に私と共同創業者の2人でスタートしたベンチャー企業であり、日本初のビッグデータ活用・分析の専業企業です。もともとは、企業の中に大量に蓄積されているデータをお預かりして分析をするという仕事から始まったのですが、その後の技術発展もあり、現在は従来の統計的な手法から、機械学習やAIなどの技術を取り入れた分析やアルゴリズムの開発、分析環境自体の構築などにも携わっています。また、最近ではいわゆるDXと呼ばれる、データやIoTを活用して事業を発展させていくためのコンサルティングのご依頼もいただいています。おそらく「データ分析の会社」というよりも、「データ活用にまつわる総合サポート会社」といった方がイメージに相違ないかもしれません。

── 改めて、企業にとってデータ活用のメリットとは何でしょうか。 共通して最たるメリットとして挙げられるのは、データに基づいた意思決定をすることによって、企業活動における様々な無駄を減らせるという点です。例えば、スーパーや飲食店ではここ数年、食品ロス・廃棄が問題になっていますが、売れる以上に仕入れてしまっているために、そこには無駄が起きてしまっているわけです。データ活用によって正しい需給バランスを予測できれば、その無駄を最小限に減らすことができる。我々が創業以来掲げている「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」というミッションには、そういったデータに基づく意思決定によってクライアントのビジネスを前進させ、世の中を良くしていきたいという思いが込められています。ただし、約18年間事業を行なってきて、自社の規模は拡大できたものの、ある種の無力感も大きくて…。

── 「無力感」という言葉はとても意外です。そう思われるのはなぜでしょうか。 私たちは、データ分析の能力を企業に供給すれば「日本の企業はもっと良くなる」と信じてきました。ですが、結論、日本企業の在り方までを変えることはできていません。データの分析はそもそもデータの性質に引っ張られてしまうのですが、そのデータの性質は、それを生み出すITシステムの用途に引っ張られてしまいます。例えば、オペレーションの効率化のために構築されたITシステムの上で、いくらそのデータ分析をしたところで、オペレーションの改善はできても、ビジネスを伸ばすところまで行きつくことはできない。これが多くの日本企業が陥っている「守りのIT」の上でのデータ活用の限界と言えます。いくらオペレーションを磨いても、肝心のビジネスモデルを変えられないのでは、未来を変えられない。すなわち、私たちの「未来をつくる」というミッションは達成できない。18年という月日をかけても、日本企業のこの根本的な課題を解決できなかったという点が、私が無力感を感じている最たる理由になります。

「攻めのIT」に投資できるかどうか。

── 「守りのIT」というキーワードは、日本のあらゆる産業の課題感にもつながるお話のように感じました。 そうですね。日本企業の多くはITシステムの構築に際し、「守りのIT」には向いている一方で、スピード・柔軟性・コストの面で「攻めのIT」には向いていない外部発注に依存する形になっています。だからこそ、事業会社がIT部門を内製化するなり、数少ない専門家が外部とコラボレーションするなりして、「攻めのIT」領域にいかなければならないというのが、日本企業がすべきチャレンジであり、これから我々がより力を入れていかなければならないところでもあると考えています。DXのコンサルティング事業をスタートした背景には、そういった思いがあります。

── そもそも、日本がそういった状況に陥ってしまった根本的な要因は何でしょうか。 インターネットの本格普及が始まり、ITの利活用がビジネスの差別化要因になった1995年以降のタイミングで、ITに対する投資を増やしてこなかったことが、現状を生み出している根本的な要因と言えます。95年の投資規模を100とするなら、日本は2015年にいたるまで横ばい。悪いときには95年度比でマイナスになってしまっていたこともありました。その一方、IT大国であるアメリカは、同じく95年の投資規模を100とするならば、その数値は年々増加傾向にあり、現在の投資規模は250程度と、2倍以上にまで上がっています。これは、日本人がITに向いている、向いていないという話ではありません。要は、国家規模での投資判断の失敗であり、マネジメントの失敗がそこにはあったと考えます。

── では、日本企業は「攻めのIT」への投資をこれから増やしていかなければならないのですね。 投資が可能な大企業はまだいいのですが、日本でIT投資が難しくなっている背景は、IT投資で上げられるビジネス成果が限定的になってしまう中小企業が圧倒的に多いというところにもあります。ITでレバレッジをかけるにしても元のビジネスが小さいと効果は限定されてしまいます。その限定的な成果の中から、優秀なIT技術者に、グローバル企業に引けを取らない水準の給与を出せる会社が日本にどれだけあるのか。ただでさえ希少なIT人材が、優秀な人材から順に海外に行ってしまうということにもなるわけです。この日本特有の産業構造やビジネスモデルの問題をいかに解決するのか…。明確な答えは私自身見えていませんが、いかなる業種のビジネスにおいてもITを活用して付加価値を生む「攻めのIT」への投資が必要不可欠であるという事実を、まずは国家規模での共通認識として持つことが大切になるのではないでしょうか。

アーティストの生き様に魅せられて。

── 高橋さんは現代アートコレクターとしても著名で、若手アーティストの支援なども行っていますが、アートのどんなところに魅力を感じているのでしょうか。 アートに関しては、実はアートが好きというより、アーティストが好きという感覚が強いです。自分自身のクリエイティビティとひたすらに向き合い続ける生き様が、私のような起業家とも通ずるような、いえ、それ以上のもっと純粋な形のようにも思えて。しかも、起業家であれば自分の在り方や事業形態をいくらでも変えられますが、アーティストはそれができない。自らのパッションやインスピレーションを形にして、それが受け入れられるかどうかという極めて厳しい戦いの世界にいるわけです。その生き方や自身への向き合い方がとにかくカッコいい。その部分に触れられるのが、現代アートの魅力だと個人的に思っています。

── 特にお気に入りのコレクションなどはありますか? 存命のアーティストではないのですが、これは草月流の創始者である勅使河原蒼風の『Inochi(Life)』という作品で、シンプルな中に躍動感も感じられて、とても気に入っています。そして何よりも、美しい。個人的な考えですが、アートは基本的に善なるものなので、この作品がいいなと思う共通の価値観を持った人たちとどんどんつながっていけるという側面も、アートのいいところだと思っています。アートとの出会いが、人との出会いでもあるというのが、私の持論です。

── AIが創作するアートについては、どのように感じますか? 正直なところ、現時点ではあまり魅力を感じないですね。というのも、アートの価値とは、その作品に作家の思想や背景が入り込むからこそ生まれるものだと思っているからです。AIに思想があるとは今のところ思えませんし、先ほど申し上げたように、私がアートというよりもアーティストが好きという理由にもつながります。AIがいくら美しい彫刻や絵画を形づくることができたとしても、それは単なる技術の進歩であって「そりゃあ、技術的にはできるようになるよね」くらいの感覚です。

── データドリブンな世界にいらっしゃる高橋さんだからこそ、逆にアナログともいえるアートの世界に魅力を感じ、大切にしていらっしゃるようにも思えます。 データではなくITの話になってしまいますが、ITとアートには共通点もあって。日本独自の発展の仕方だからこそ、世界のスタンダードから少し乖離してしまっているというところは、ITにも、アートにも言える課題だと思っています。つまり、世界のマーケットや、世界のそれらを評価する文脈と接続していかなければ、どんどん遅れをとってしまうということです。もちろん、戦略と確信を持って差別化のためにガラパゴス化しているのであればいいのですが、おそらく日本は、ITもアートも無自覚に今の状況になってしまっていると思うのです。
特にアートの世界では、日本国内で億単位の価格をつけた作品が、海外ではまったく見向きもされないなんてこともあります。日本のアーティストが世界に羽ばたけるような、そして世界と地続きに評価が上がっていくような取り組みを、国をあげて推進していけたら一番いいですよね。それにしても、ご質問をきっかけに頭を巡らせると、どうしても課題ばかりに目が向いてしまいますね(笑)。

OCA TOKYOに込められた意思への敬意。

── OCA TOKYOのどのようなところに魅力を感じているかを教えてください。 率直に、ビジネスの中心地である丸の内エリアで、これだけクオリティの高い個人のためのクラブスペースが存在していること自体、すごいことだと思っています。意思のあるところに道は拓けるとも言いますが、「今の時代には、このようなリアルなつながりを生み出す場が日本の中心に必要だ!」という強い意思を感じますね。大げさかもしれませんが、理想の世界というものは、「これが必要なのだ」という確固たる意思と、行動の積み重ねでしか生まれないと思っています。なので、そういう意味でも日本の中心で新しいつながりを育もうとするOCA TOKYOの意思に敬意を持って利用させていただいています。

── 最後に、高橋さんが人生を「謳歌」するために大切にしていることはなんですか? ちょっとした強さとしなやかさ。この2つが大切だと思っています。というのも、最近子どもと過ごす時間を大切にするようになり、改めてそう感じるようになって。例えば、何か辛いことがあったときに、それをバネにして伸びる人と、潰れてしまう人の違いは何か。それはきっと紙一重だと思うのです。そして、子ども自身の様々な出会いや出来事、周りの人にかけてもらえる優しい言葉なり、厳しい言葉なりを、親はコントロールできませんし、それは本人の生まれ持った運でしかありません。そう考えると、自分自身の人生を少しでもいい方向に導くために必要になるものは何か。それは苦難に折れないしなやかさと、自分を信じて前に踏み出せる強さではないか、と思っています。ですから、自分が後悔しない人生にするためにも、子ども自身の豊かな人生のためにも、この2つだけは子どもに与えられたらと思っています。

高橋 隆史

株式会社ブレインパッド 代表取締役社長

日本サン・マイクロシステムズ株式会社(現:日本オラクル株式会社)に勤務後、フリービット・ドットコム株式会社(現:フリービット株式会社)の起業参画を経て、2004年3月にブレインパッドを共同創業。代表取締役社長として、2011年9月に東証マザーズ、2013年には東証一部上場を成し遂げる。現在、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事、一般社団法人日本ディープラーニング協会理事、東京大学エクステション株式会社社外取締役を務めるほか、現代アートコレクターとして、アートアワード「WATOWA ART AWARD」の審査員を務めるなどアーティストの支援も行なっている。

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