SELECTED EVENT 019

寄り道できる、心の余白を

Released on 2022.11.25

10月12日に開催したイベント“ソウダルアが描く「丸の内」ビュッフェ”にて、鮮烈なパフォーマンスで独創的な料理の世界を表現してくださった出張料理人のソウダルアさん。このたび本番直前にインタビューを行ない、今回のテーマや、ルアさんが普段から大切にしている考えなどをお聞きしました。

出張料理人 現代美食家 ソウダルア

大阪府出身。5歳の頃からの趣味である料理と寄り道が高じて出張料理人となる。“美味しいに国境なし”というビジョンを掲げ、日本中でその土地にある食材のみを扱い、風土と歴史が交差する料理を表現。現在は和紙を大きな皿に見立てたフードパフォーマンスを通じて新たな食事のあり方を提案するほか、芸術祭でのレストランプロデュース、食に絡めた地方創生、フードエッセイの連載など、食にまつわるあらゆる分野で活動中。

自然界のものを人間界に引き渡す。それが、料理人の役割。

── まず、今回ご用意する料理のテーマについてお聞かせください。 今回は“「江戸」と「東京」のミックスカルチャー”というテーマで料理をご用意します。今もなお脈々と続いている江戸の食文化や現代の東京・丸の内が持つ個性を、ロングテーブルの上に散りばめながら、過去と現在が混然一体となった東京と、まだ見ぬ未来の東京を五感で味わっていただける食の世界を表現したいと考えています。

── 日本と海外ではなく、江戸と東京のミックスという点が興味深いですね。 多様な価値観が交錯する東京は、次々と新しい何かが生まれ続けているパワフルな場所です。一方、少し歩くだけでも特に丸の内周辺は、江戸の風情が色濃く感じられたりもしますし、鮨、鰻、天ぷらといった江戸の食文化は当たり前のように今の日本に根付いています。江戸と聞くと、自分に関係のない過去の出来事のように切り離してしまいがちですが、意識して見渡すとこの現代にもミックスさているので、今回もテーブルの上で歴史ごと混ぜてしまおうと思っています。

── 表現する上で、OCA TOKYOというこの場所のことも意識するのですか? もちろんです。この場所は、人と人とが交流を深めるプライベートクラブであり、各界をリードしていくメンバーの皆さんがいらっしゃいます。今後再び海外の方が日本に多くお越しになると思いますし、もしかするとOCA TOKYOで外国の方をおもてなしするメンバーの方もおられるのではないか、と考えました。そういった意味で、江戸や東京を感じる料理を提供するだけでなく、海外の方を意識したアレンジを要所に施しています。

── いわゆる伝統的な和食とは異なるものになりそうですね。 そうですね。伝統を真っすぐ体現してくださる料理人は、すでに各名店にいらっしゃいますので、今回は伝統を汲み取りつつより大胆なアレンジで臨むつもりです。また、コロッケやハンバーグといった「洋食」も日本独自に発達した食文化なので、そのあたりも僕なりの解釈で表現していく予定です。

── ロングテーブルに和紙を敷き、そこに素材を彩っていく。そんなルアさん独自のスタイルは、どのようにして生まれたのでしょうか? これまで出張料理人として世界各地を訪れるたびに、山も海も川も空もすべて、つながりあった1つの自然であることを肌で感じてきました。広い1つの空のもと、太陽や雨水が大地を育て、山から流れる川の水が海へ出て、再び水分が大気に上がり雨になる。そうやって循環する自然があるからこそ、お米、野菜、魚介といった恵みを僕たちは享受できている。そんな真っ当な気づきを得ながら活動を続ける中で出会ったのが、山梨でつくられている撥水性の和紙。この和紙を大きな器に見立てれば、今の思いを1枚の絵のように表現できる。そう考えるようになってからは、ずっと今のスタイルです。

── 出張料理人としての活動の中で、心がけていることがあれば教えてください。 やはり訪れた土地にある、食材、暮らし、文化、集まる人々に寄り添いながら表現することを意識しています。裏を返せば、僕自身、衝動的に創作意欲が沸き上がるタイプではないとも言えますね。いい意味でこだわりを持たず、その場にふさわしい食の世界を創造することに注力するよう心がけています。あとは先ほど話した自然への敬意を持ち続けることも大切にしています。きっと料理人って、自然界にあるものを人間界に引き渡す「橋渡し」のような役割だと思うんです。少なくとも僕は、そのために火を通し、味を付け、美味しくするという思いで活動を続けていますね。

── 最後にルアさんが考える「人生を謳歌する」ために大切だと思うことがあれば教えてください。 まずは、正解をつくらないこと。僕自身、もともと答えを出すことが好きな人間でしたが、ここ最近、正解を求めない感覚になってからの方が、心から楽しめていると感じています。信念は持ちつつも、わからないなりに動く。その状態って、案外人生を謳歌していると言えるのではないでしょうか。きっと子どもの頃から寄り道が大好きなことも関係しているかもしれません。寄り道って無駄なものだし、本来の課題を解決するために不要な行為じゃないですか。その無駄で不要なものを、いかに愛でることができるかってすごく大切で…。そう、お話しをしながら見えてきました(笑)。きっと僕にとって人生の謳歌するために必要なのは、正解をつくらず行動し、寄り道してもいい心の余白を持つことでしょうね。

猪と鹿肉でつくったジビエハンバーグ。小麦粉・卵を使わず
大豆をつなぎにするほか、キヌアというスーパーフードを入れるなど、
まさに進化系のハンバーグになっている。

ソース状のマッシュポテトに揚げたパン粉を散りばめて、
千住ネギという江戸野菜、カブの葉、お茶を使った
グリーンのソースを添える。その名も“シェアするコロッケ”。

海外の方が見て美味しいと感じる色合いになるように、
米酢でも赤酢でもなく梅酢を使った鮮やかなシャリのお鮨。

鰻の味付けも醤油、みりん、お酒をベースにしつつ、
赤ワインやコリアンダーなどを加えてアレンジ。

一夜限りのセレンディピティを感じる、刺激的で美しい
最先端のビュッフェスタイルをお楽しみいただきました。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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