OCA TOKYO BLOOMING TALKS 053

幸福度を高めるヒント

Released on 2022.12.09

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

起業、ダボス会議のメンバー、政府各省の審議委員からテレビキャスターまで。輝かしい経歴を持つOCA TOKYOメンバーの藤沢久美さんは、一度そのキャリアを断捨離し、大学院へ。先日ようやくビジネスの現場に復帰し、再スタートを切ったばかりです。なぜそのような決断に至ったのか。そしてこれからのキャリアをどう考えられているのか。ご自身の人生の歩みとともに、グローバルに活躍されてきた藤沢さんならではの視点で、日本の未来についてお話ししていただきました。

日本を、世界を、中立的に盛り上げる。

── 藤沢さんが理事長を務める国際社会経済研究所の事業内容を教えてください。 簡単に言うと、NECグループのシンクタンクです。時代の転換点にある昨今、新しい市場を探索、提案すると同時にグローバルリスクも考慮し、未来を見据えた経済活動を研究しています。これからは、ひとつの企業で何かを成し遂げていく時代ではありません。日本を、世界を、一緒に盛り上げていく。そんな姿勢を打ち出しているため、より中立的な動き方をしています。例えば、カーボンニュートラルについて。ヨーロッパはすでに温室効果ガスの排出権取引などを標準化し、うまく市場に落とし込んでいます。その取り組みを参考に日本も標準化をリードする分野を見つけることができれば、きっと世界に貢献できるはず。そのような考え方で、様々な企業やアカデミア、研究所、政府などと議論を重ねています。

── どんなきっかけで研究所の理事長になられたのでしょうか。 「日本“やばい”な」という思いが数年前からあったんです。アジア圏における日本人の給料の低さ然り、グローバルな視点を持てば、“やばい”ことは顕著で…。先日もGoogleが日本に1000億円投資するというニュースを喜んでいましたが、これって発展途上国への支援モデルですよね? また、国全体としても長期ビジョンがなく、目の前の出来事に対応していることが多いように感じていました。個人など小さな単位でできることには限界がある。だからこそ、大企業が率先して動くべきだ。そう考えていたときに、研究所から声をかけていただいて。これは天の啓示だなと思い、即答に近い形でお引き受けすることにしました。

── 一度ご自身のキャリアを断捨離してから現職に就いたと伺いました。継続してご活躍する選択肢もあったかと思うのですが、なぜそのような決断をされたのでしょうか。 ふと自分を振り返ったとき「このままだと私、“名誉職のおじさん”みたいだな」と思ってしまって(笑)。いろんな場面に顔を出すだけの仕事が増えて、もちろんそれも面白いんですが、役回りとしてどうしても手触り感が少なくてそう思ったのかもしれません。もっと自分の手足を動かしながら、やりたいことをやりたい。そのためには、手に持っているものを一度手放す必要があると考えました。そして、自分のこれまでの人生を冷静に見つめ直すためにも、ほとんど知見がないスポーツについて大学院で学ぶことにしたのです。

── 具体的に得た学びがあれば教えてください。 最も大きな学びとしては、スポーツが、外交のひとつとして機能していること。例えば、日本と北朝鮮は国のトップ同士で直接話すことが難しくても、アスリートがスポーツを通して裏で話をすることがこれまでにもあったように。他にも、FIFA(国際サッカー連盟)に加盟する国と地域の数は、国連の加盟国数を上回っているなど、文化外交的な側面としてスポーツに可能性を感じました。ただ、より自身が知らない世界を見たほうがいいと先生に言われ、なぜか出身地にちなんで「奈良県のサッカーの発展」というテーマで研究することに(笑)。結果的に視野が大きく広がりましたし、その後、世界の若きビジネスリーダーを奈良へ招くような機会をつくることができました。今でも私は、奈良の歴史や偉人たちの哲学から多くのことが学べると思っていて、その話をしたくなるくらい、実は奈良にハマっているんです。

未来を語れば、会社は伸びる。

── 藤沢さんは様々な経営者を相手にインタビュアーとしても豊富な経験をお持ちですが、こちらはどのようなきっかけで始めたのですか? 私はもともと、世の中のほとんどは大企業がつくっているものだと思っていたのですが、自分で起業して仕事をしていくうちに「意外と私たちのような小さな企業が、リスクを取りながら世の中をつくっているのかも…」と思い始めました。同時に、よその社長はどう考えているのか気になって仕方なくなり、ある雑誌社に経営者にインタビューをする企画を持ち込んでみたんです。それがきっかけで、これまで1000人以上の国内外のリーダーたちにお会いすることができました。

── すごい人数ですね。特に印象に残っているイタンビューはありますか? 先日お亡くなりになってしまいましたが、靴下の製造販売を手掛けるタビオ株式会社会長の越智直正さんです。社長を務めていた頃にインタビューをしたのですが、印象的だったのは「僕は本当に靴下が好きで、気を抜くとつい靴下のことを考えてしまうんだよ」とのセリフです。普通は気を抜くと考えが止まるはずなのに、越智さんは逆でした。「つい靴下を口にしてしまうんだ」といったお話もされていて…。こちらが笑ってしまうほど、靴下に対する愛があふれていました。私もそのくらい仕事を好きになれたらいいなと。あとは「神様は、乗り越えられない苦難は絶対与えないんだよ」と言われたことも記憶しています。実際に何度もピンチを乗り越えてこられた方なので説得力もあり、すごく前向きな気持ちにさせてくれるインタビューでした。

── 社長をインタビューすることの価値を、どのあたりに感じていましたか? ひとつは、元気がもらえることです。社長は大半の方が超ポジティブですから、インタビュー後は毎回すごく元気になれます。もうひとつは、未来が見えることです。やはりその事業、業界のことを日々真剣に考えているので、彼ら彼女らにはある程度の未来が見えています。これは経験則から導いた個人的な考えですが、先が見えている社長がいる会社は伸びます。ZOZOを創業した前澤さんだって、最初は100年先の話ばかりしていたし、オイシックスの高島さんも立ち上げ当時から「農協に代わる存在になる」と言っていて、現在の躍進がある。だからたとえ荒唐無稽でも、未来を語ること、考えることは重要だと思います。そして私は、そんな多様な未来を聞かせてもらうことを純粋に楽しんでいました。

── 「未来が見える」と聞くと、確かにワクワクしてきますね。 実は幼少期からずっと未来のことを知りたがる性格で。小学生のときに人が死ぬことを初めて知って「私が死んだあと、この世の中はどうなるんだろう?」という思いから、高校生くらいまでずっと占いの勉強をしていました(笑)。就職も証券アナリストというある意味で未来を予測する職業を選びましたし、現在も私の原動力のひとつとなっています。それでいろいろと経験してわかったのが、未来は知るものではなく、自分でつくっていくものということ。世界中のたくさんの人が思い描く未来を掛け合わせていけば、より幸せな未来がつくれるはずです。国際社会経済研究所では、そんな未来の実現に貢献できればと考えています。

2000年続く日本。その事実に胸を張ろう。

── 今後日本の幸福度を高めるために、藤沢さんならどんな活路を見出されますか? まず、いろいろな人や物事と関係し合いながら、生きている実感が得られることを、私は「幸福」と呼びたい。そして質問への答えですが、簡単に言えば、自信を持つことが活路の第一歩になると思っています。ただ本当に自信を持つには、誰かから必要とされたり認められたりしないとなかなか継続できません。かく言う私も、大学院で人生の棚卸しをしていく中でようやく「私は自信を持っていいんだ」と気づくことができたくらいです。なので自信を持つためにも、仲間や居場所の存在はとても重要だと感じます。

── 現在の日本は、自信をなくしてしまっている状態ということでしょうか? あくまで私の感覚ですが、そう思います。でも、日本はすでに強みをたくさん持っています。今はそれをうまく活用できていないから自信が持てないだけなのかもしれません。人間もそうですよね。他人から見ればすごく魅力的な部分があるのに、ついつい他人と比較してネガティブな部分ばかり見てストレスを抱えてしまう。日本の強みを探せばきりがないと思うのですが、例えば、日本という国は2000年続いています。世界中で持続可能な社会をめざしている昨今では、胸を張れる事実です。同じようにして日本企業のいいところを再認識し、それを活用しながら世界に貢献していく。私としてはそんな仕事をすることで、日本の幸福度向上に寄与していきたいと思っています。

── 幸福は企業活動以外の部分にも当てはまると思いますが、藤沢さんは仕事をしていないときはどのように過ごされているのですか? 山梨の鳴沢村という富士山の1合目くらいに自宅があるんです。家での楽しみは、庭に来る小鳥やリスに餌をあげること。でも、単純にあげるだけだと彼らが持つ野生の力が失われるかもしれないので、蓋をかぶせたり箱に入れて餌を隠したり、ぬいぐるみを置いて仕掛けを作ったりします。ある程度挑戦させるよう仕向けるわけです。すると、最初は苦労するんですが、何回もチャレンジして餌を取る。その瞬間を目撃しては、毎回感心していて。そういった野生動物とのふれあいに、ちょっとした癒しをもらっていますね。

── 山梨と東京とはどのようなバランスで行き来されているのですか? 大まかに言うと、平日はずっと都内で仕事をして、週末だけ山梨に帰って自然にふれるような生活です。そんな私にとって、都内にいながらリラックスできる心地よい中間地点が、ここOCA TOKYOなんです。

雑草のように生きていく。

── OCA TOKYOの普段の使い方や、利用してみて感じる魅力を教えてください。 おもには食事か打ち合わせに使っています。食事は本当に美味しいので、会食としてよく利用しています。仕事の打ち合わせも、会社でするよりもOCA TOKYOの方がリラックスしてできるので気に入っています。あとは、想定外の嬉しい出会いがあるところもOCA TOKYOの魅力ですね。以前、シェアオフィスに入っていた時期もあるのですが、OCA TOKYOはそれほどビジネスライクな空間ではないので、食事をしながら気楽に人とも会えるし、友人のそのまた友人のように、自然で心地よいつながりもあって、それがきっかけでいくつか小さなプロジェクトが始まりました。まさにこの場所のコンセプトでもあるセレンディピティを肌で感じています。

── OCA TOKYOで企画してみたいアイデアなどがあれば教えてください。 先ほどお話した、私がハマっている奈良について誰かと語り合いたいですね。歴史を知るという観点でもシンプルに面白いのですが、今後ビジネスでリーダーシップを取ろうと考えている若い世代の方たちも思わず唸るような、組織づくりや経営のヒントが学べると思います。

── 藤沢さんが人生を謳歌するために大切にしていることを教えてください。 好きなことをする。これに尽きます。でも、ただ好きなことに突き進むだけではありません。私の場合は、そこに雑草戦略を掛け合わせていました。ブルーオーシャン戦略と同様ですが、自分が好きなことで、かつ多くの人が行かないような方向に行くことで、なんとか生き残って来られたなと。雑草って、うまく隙間に生えますよね。名のある花のように決して華やかではないけれど、多少踏まれても平気な逞しさもある。そして、私という雑草にも、やがて名前がつくと嬉しいなと、ポジティブに未来をイメージしながら楽しく生きていくつもりです。

藤沢 久美

株式会社国際社会経済研究所 理事長

大阪市立大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1995年に日本初の投資信託評価会社を起業。1999年に同社を売却後、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画し代表を務めるほか、公職や上場企業の社外取締役を歴任するなど幅広く活躍。現在、NECの中立的シンクタンク国際社会経済研究所にて、未来を見据えた経済活動を研究している。

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