OCA TOKYO BLOOMING TALKS 056

新たなワイン文化を、日本に

Released on 2023.01.13

OCA TOKYO BLOOMING TALKS

BLOOMING TALKS

自然体でテーマと向き合い、出会いに感謝し、相手を思いやりながら、
会話が咲く。笑顔が咲く。発見が花開く。

そんなコンセプトでお届けするOCA TOKYO限定のWEBメディア。
「BLOOMING TALKS」

新鮮な出会いと、魅力ある人たちの言葉を通じて、人生を謳歌するヒントを発信していきます。

新しいこの場所で、きょうも、はなしを咲かせましょう。

フランスのブルゴーニュ地方で育ち、現在は日本を拠点にワインベンチャーの代表を務めるOCA TOKYOメンバーのマチュー・タンロンアンさん。自身をOCA TOKYOのヘビーユーザーと語るマチューさんに、ブルゴーニュと日本におけるワイン文化の違いや、顧客とレストランとをつなぐワインプラットフォーム「ノムリエ」を立ち上げた背景、そしてプライベートでのワインとの向き合い方など様々なお話を伺いました。

日本という“不思議な国”に魅せられて。

── マチューさんの出身地であるブルゴーニュはワインの産地としても有名ですが、幼少期からどのような環境でワインと触れ合ってきたのでしょうか? 実家がワインの造り手だったわけではないのですが、ブルゴーニュ自体、やはりワイン産業で成り立っている地域ですので、生活の中には当たり前のようにワインの存在がありました。毎年、収穫の時期になると学校も休みになりますし、畑作業を手伝える人は全員手伝いにいくような環境です。私自身、高校生の頃からアルバイトとして畑作業や醸造作業を手伝っていました。

── ブルゴーニュならではのワインに関する慣習やイベントなども多いのでしょうか。 大規模なものとしては、「オスピス・ド・ボーヌ」というワインオークションが世界的に有名ですね。ブルゴーニュだけでなく全世界のワインが集まり、地域全体が非常に盛り上がる期間です。そのほか、毎年ブルゴーニュ各村の持ち回りで「サンヴァンサン」というワインの神様を讃えるお祭りも開催されています。その年の会場となる村では、ご神体の行進や奉納、ミサといった儀式が実施され、村のドメーヌ(ワイン生産者)がグラスを持って訪れる観光客に振る舞い酒を行なったりもします。

── ちなみにブルゴーニュの方々は、現地産以外のワインも飲まれるのですか? 基本的にブルゴーニュワインしか飲まないですね。実は私自身も、社会人としてフランスを出るまで、ブルゴーニュワイン以外に美味しいワインがたくさんあることを知らなかったくらいで(笑)。もちろん今では国や地域に寄ることなくワインを楽しんでいますが、当時は「ブルゴーニュワインこそワインなんだ」と当然のように思っていました。

── どのような経緯でマチューさんは来日することになったのでしょう。 大学卒業後、銀行に就職したのですが、その際に世界各国にある支店のどこに行くのかを選んでいいと言われて決めたのが日本なんです。私にとって日本は、決して大きくはない島国で、エネルギー資源もほとんどなく、かつ敗戦した過去を持ちながらも、数十年で世界二位の経済力にまで成長を遂げた国。学生のときから不思議と魅力を感じていて、いつかは行きたいと思っていたので、迷わずに選びましたね。

── その後、銀行の仕事からワインの仕事に転身されたのは、どんなきっかけがあったのですか? すっかり日本での暮らしが気に入ってしまったんです。美味しいレストランが多くあり、あらゆるサービスのクオリティが高く、さらに治安もいい。本当に素晴らしいことだと思い、まずは日本に定住するために、勤めていた銀行を退職しました。そして次に何をしようかと考えたときに、自分自身のアイデンティティを考えて、ワインを仕事にしようと思ったのです。まずは、インポーターやバイヤーなどの仕事をしながら、日本の物流を学びました。そして、2012年にキーソリューションズを設立。2021年には、以前から構想していた「ノムリエ」というサービスをスタートさせました。

改めて、日本のレストランにあるワインのことを考えた。

── それでは「ノムリエ」についてもご紹介をお願いします。 「ノムリエ」は、レストランを予約する際にワインの持ち込みを同時に予約することができ、好きなワインを好きなお店で楽しむことができる、日本初のワイン持ち込みプラットフォームサービスです。レストランが設定する価格ではなく、小売価格に近い値段でワインを楽しむことができることも、利用者の方にとっては大きなメリットになります。

── そうなると、レストラン側にとっては、これまでワインの仕入れ・提供によって得ていたマージンが得られなくなる、とも聞こえてしまうのですが。 おっしゃる通りです。私自身も最初は葛藤がありました。ですが、温度管理をする設備が不十分だったり、ソムリエのようなきめ細かい提案ができていなかったりするのに、価格だけは上乗せしているレストランも多いと感じていたのも事実。つまり“付加価値”と“価格”が釣り合っていない。これは問題だと思ったのです。ご質問のような意見をいただくこともありますが、それでも前に進まなければ、新しいワイン文化やライフスタイルを根付かせることなんてできない。そんな思いで動いているところです。

── このサービスをつくろうと思った背景についてもお聞かせください。 改めて、日本のレストランにあるワインを考えたとき、多くのお客様がワインを選ぶ工程を心から楽しめていない、むしろプレッシャーすら感じている。そこに気づいたことが1つの大きなきっかけです。例えば、とあるレストランで特別な相手との食事といったシチュエーションで、ソムリエが当たり前のようにワインリストを持ってきたとします。「うーん、カタカナだらけでよくわからない」「料理と合うのはどれだろう…」「わからないけど、まあ予算的にこの辺りのワインでいいか」そんな経験を多くの日本人がしているのではないでしょうか。せっかく素敵なお食事の時間なのに、それではもったいないと思うのです。

── たしかに多くの日本人が、ワイン選びのシーンを楽しめていないようにも感じます。 ノムリエなら、レストランを予約するタイミングでワインも一緒に選べるので予算管理も簡単です。食事をともにするお相手や料理のことなどを考えながら、じっくり時間をかけて納得のいくワインが選べるようにもなります。ノムリエという新しいスタイルが日本に根付くことで、多くの人たちが気軽にワインを楽しんでいただけると嬉しいです。

── これから新たにチャレンジしていく事業などがあれば教えてください。 ロジスティックに関する事業や、ワインコレクター向けのワイン投資・販売事業、AIソムリエの開発事業など、実はすでに「ノムリエ」以外にも様々なビジネスを展開しています。特にAIソムリエは、化学分子レベルで料理との相性を判別できるほか、個人の好みにマッチングできるようになる見込みで、個人的にも興味深い領域です。多角的な事業展開にも見えますが、私としては、ワインを通した新たなライフスタイルを根付かせたいという、根本的には変わらない思いで動いています。

ワインの力を、誰よりも感じてきたからこそ。

── プライベートではどのようにワインと向き合っているのでしょうか。 まず、単純にワインオタクですから、毎日自分のワインコレクションのリストを見ては、ニヤニヤしていますね(笑)。特に好みなのは、100年~150年前の古酒にあたるワインです。あとは、ワインは仲間とシェアしてこそ価値があると思っているので、毎日のようにどこかに持ち込んでは、友人や取引先と一緒にワインを楽しんでいます。ただ、仕事や接待で飲むことが多く、家で飲むことは減りましたね。本当は家でも飲みたい気持ちはあるのですが、以前と比べて飲む量を控えるようになりました。結婚もしましたし、少し大人になったんだと思います。

── ビジネスにおいてもプライベートにおいても、ワインが常にそばにあるマチューさんにとって、ワインとはどのような存在ですか? ワインは、私にとってのすべてです。そう言い切れるだけの魅力があると信じています。ワインのおかげで出会った人、体験できたことは数え切れません。妻ともワインツアーで出会っていますし、もう本当に感謝しかないですね。だからこそ、ワインの価値や魅力を、もっと多くの方に伝えていきたい。気取ったもの、堅苦しいものだと敬遠せずに、身近に楽しめるものとして広めていきたいですね。

出会いに感謝し、人生を謳歌する。

── マチューさんは、日頃OCA TOKYOをどのように利用されていますか? おそらくメンバーの中でもトップ10に入るヘビーユーザーではないでしょうか。東京にいるときはほぼ毎日のように来ているので、自分のオフィスにはあまり行かなくなってしまいました(笑)。OCA TOKYOは、自分のペースで仕事ができるところが気に入っています。特にクリエイティブな仕事は、ここに来るとはかどるイメージですね。

── OCA TOKYOで企画してみたいアイデアがあれば教えてください。 ワインとOCA TOKYOの組み合わせは、イマジネーションが膨らみますね。ぜひやりたいと思っているのは、5階のTheaterで「ジェームズ・ボンド」シリーズを見ながら、シャンパンを皆さんで楽しむ会ですね。せっかくのボンドシリーズですから、クラシックなドレスコードを設けたら、より楽しくなるとも思っています。あとは「ロゼワインとお花見のコラボイベント」も素敵だと思っています。レストランにあるワインを使った企画も楽しそうです。

── 最後に、マチューさんが人生を謳歌するために大切していることを教えてください。 出会いを大切にする。この一点に尽きます。人間は一人では生きていけません。目の前にいる人と出会うこと、仲良くなり笑い合えることは、決して当たり前のことではないはず。だからこそ、一つひとつの出会いに感謝して、私自身の人生の謳歌へとつなげていきたいです。

マチュー・タンロンアン

キーソリューションズ株式会社 代表取締役

ブルゴーニュ大学を優等学位で卒業後、フランスの大手銀行であるソシエテ・ジェネラルに入社。日本支社に転勤以降日本在住。LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社、アンハイザー・ブッシュ・インベブ社、 レミー・コアントローなど各社において主要製品のブランディングや顧客向けアドバイザーなどを歴任。2021年に「ノムリエ」を立ち上げ、自社事業にも注力。自身も 1 万本以上のファインワインや複数のワイン畑を保有するほか、世界各国のワイナリーへの豊富なネットワークを活かしながら、ワインの伝道師として活躍している。

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