SELECTED EVENT 021

琴線にふれる音色を届けて

Released on 2023.02.10

昨年12月15日、OCA TOKYOで開かれたクリスマスコンサートにて、素敵な演奏を届けてくださったヴァイオリニストの松本蘭さん。今回のインタビューでは、演奏曲に対する思いやご自身にとってのクラシック音楽の存在など、様々なお話をお聞きしました。

ヴァイオリニスト 松本 蘭

桐朋学園大学音楽学部卒業。ソリストとして数多くのオーケストラと協演するほか、2016年に自身3枚目にして初のセルフプロデュース作品となるアルバム「Romance」をリリースするなどアーティストとしても活動。津軽三味線・吉田兄弟、俳優で歌手の寺尾聰、歌舞伎役者の七代目市川染五郎など、クラシックの枠を超えたコラボレーションも数多く、その情熱的なパフォーマンス、クラシックの枠に縛られない幅広い活動が注目されている。

音楽には、人種に関係なく人間のDNAに作用する力がある。

── まずはOCA TOKYOで今回ご披露する曲目について、意気込みや思いなどをお聞かせください。 今回は、クラシック音楽に詳しくない方でも楽しんでいただけるような楽曲を演奏しようと考えています。あまり堅苦しくなく、耳馴染みのあるメロディがたくさん耳に入ってくるようなコンサートにしたいですね。あとは、演奏前にちょっとした裏話を披露するなど、和やかなひとときを過ごしていただけるよう心がけたいです。

── この記事でもぜひ、裏話をひとつご紹介ください。 タンゴ界の革命児として有名なアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」という曲を演奏するのですが、もともとピアソラはタンゴの演奏家ではなく、クラシック音楽の作曲家を志していたんです。タンゴの曲はもともと踊りの伴奏であり脇役的な存在でした。ところが、彼はクラシックの教養を活かして独自のタンゴを創り上げた。その代表的な曲が「リベル(自由な)タンゴ」なんです。そしてこの曲は、ウイスキーのCMで世界的チェリストであるヨーヨー・マが披露したことで日本でも人気が出ましたし、その影響から多くのクラシックの演奏家がタンゴの曲を演奏するようにもなっていきました。今回は、ピアニストの酒井有彩さんと一緒に、ピアソラの自由を解き放つような曲で幕を閉じたいと思っています。

── そもそも松本さんとヴァイオリンとの出会いを教えてください。 私の家族は、いわゆる音楽一家ではなくて、私の母親が「女の子が生まれたことだし、何かしら女の子らしいことをさせたい」という願望から、たまたま3歳のときにヴァイオリンを習うことになります。そこから私自身がのめりこんでいき、小学4年生のときに前橋汀子さんのようなヴァイオリニストになりたいと夢を持ち始めるようになって、そこからはずっと音楽一筋です。

── ご両親から何かしらの期待やプレッシャーなどはありましたか? まったくなかったですね。「もっと友達のお母さんみたいに熱心になってよ」と思うことがあるくらい、プレッシャーは皆無でした(笑)。クラシック音楽やヴァイオリンは、私にとっては当たり前の存在なのに、家に帰れば誰も詳しくなくて…。だからこそ私も音楽についていろんな話をしていたし、家族もそれを面白がって聞いてくれていて、思い返すととても心地よかったですね。

── 音楽の素晴らしさや可能性について、どのような思いをお持ちですか? ここ最近、特に日本において音楽や芸術は“不要不急”と言われてきました。これは、ひとりの演奏家としてとてもショックなことでした。音楽に限らず、素晴らしい伝統や文化も含めてそのように言われてしまうことは、率直に残念だなと思います。だけど、素晴らしい音楽やアートにふれると心が揺さぶられますよね。涙が出るほど感動したり、ずっと記憶に残ったり。そうやって「心の栄養」になるのが、芸術であり音楽だと私は信じています。クラシック音楽が何百年も世界中で愛され続けるのは、きっと人種に関係なく人間のDNAに作用する力があるからだと思うので、これから先も音楽の力を信じて活動を続けていきたいです。

── クラシックの領域だけでなく、異なるジャンルの方とのコラボレーションなど多彩な活動を続ける松本さんですが、今後のご自身の活動に対する思いを教えてください。 世のため人のために、自分ができることをしていきたいという思いが強いです。これは3歳になる息子に常々言っていることでもあり、同時に自分にも言い聞かせているシンプルな思いです。そして改めて感じているのが、生の演奏会という場が、一期一会の貴重な機会だということ。私自身に壮大なビジョンはありませんが、刺激的なコラボレーションは引き続き挑戦していきたいですし、何よりもまずは目の前の方に120%楽しんでいただけるような、心をこめた演奏を一つひとつ届けていきたいです。

── 最後にOCA TOKYOには「鮮烈に人生を謳歌する」というコンセプトがあるのですが、松本さんの考える「人生を謳歌する」ために大切だと思うことがあれば教えてください。 ヴァイオリンは、身体的には10代をピークにだんだん指が動きにくくなっていくことから「早熟な楽器」とも言われています。キャリアの中で技術のみならず個々の表現力をより豊かにしていくことで、自分の内面や生き方が音色となって人の心を震わせる。そうやって円熟した音色を響かせることが、私にとっての謳歌なのかもしれません。やがて指が動きにくくなろうとも、聴く人の琴線にふれる演奏を追い求めていきたいですね。

クリスマス曲をはじめ、ウエストサイドストーリーの「トゥナイト」など耳馴染みのある曲が会場を包みました。ラストとなる「リベルタンゴ」演奏後もアンコールに気さくにお応えいただき、優雅で和やかな雰囲気のコンサートとなりました。

OCA TOKYOでは「鮮烈に人生を謳歌する」をコンセプトに、皆さまの感性を揺さぶるイベントを開催しております。詳細はトップページをご覧ください。

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